盆地文化を見直すとき


毎日新聞No.442【平成27年7月24日発行】

 いま、市町村は地方創生をめざして総合戦略づくりに取り組んでいる。
少子高齢化が進み、時代は「成長」から「成熟」へ向かい大きな転換期にある。そのスピードはきわめて速く、かつ、グローバルである。
 かつて、社会学者の加藤秀俊氏は甲府盆地について、「日本の盆地文化の原型」であると述べ、その特色として以下の5点を挙げている。
  一つは、中枢機能を持った都市(内陸都市)を形成する地である。
  二つは、小宇宙を形成する地であり、安堵感を持たせる地である。
  三つは、人口は、一定限度で推移する傾向がある。
  四つは、山と川に恵また地である。
  五つは、あの山の向こうに何があるかという好奇心を育むところである。
 そもそも盆地とは英語でbasin=水盤・流域という意があり水に恵まれた地である。また、山梨は、地勢的な制約からか、律令時代から国の形を変えておらず、人口は一定限度で推移する傾向がある。山梨県立博物館館長平川南氏は、山梨は「山峡の国」ではなく海と山を結ぶ「交流の国」であると述べているが、「交流拠点」というキーワードは山梨にとってきわめて重要である。

 振り返ってみると、山梨は、産業や文化の基盤として道に賭けてきた。江戸時代の富士川舟運(水の道)から明治36年開通した中央線(鉄の道)、昭和57年に全線開通した中央高速自動車道(車の道)、そして平成37年に開通が予定されている磁気軌道(リニアの道)へと向かう。いよいよメインの国土軸上に位置する交流拠点へと変身しようとしている。
 産業面では、織物・宝飾・印章といった軽工業からエレクトロニクス産業へ向かい内陸工業基地として進展してきた。農業は米麦中心から養蚕(製糸)へ、果樹(ワイン)・花卉・薬草へと高付加価値化への歴史を刻み、6次産業化が注目されている。 
 環境・健康・観光・新エネルギー分野などの実験場(例えば、ソーラ・ロード・ハイウエイ)や、ショーウインドーとしての可能性も秘めている。

 わが町は、内外から何を期待されているのか。存在価値は一体何かを問い、これからどこへ向かうべきか、原点に立ち返り、グローバルな視点から小さくとも高質の地域づくりに挑戦していきたいものである。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)