虫とあそぼう


毎日新聞No.443【平成27年8月21日発行】

 虫好きで知られる解剖学者の養老孟司氏は、「虫採りをして正気に戻ろう」と主張する。
 虫採りをすると世界が広がるのである。虫採りにより、直接的には自然の豊かさが体感でき、間接的には虫採りを通じた人的なネットワークが広がっていくのである。
 日本人は古くから身の周りの自然の中にいる虫を愛でていて、古くは万葉集や枕草子の中にも虫に関する記述がみられる。また、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」のヒロインのモデルとなったとされる、堤中納言物語の「虫愛ずる姫君」は、ケムシやイモムシ等多くの虫を愛する姫として描かれている。
 虫採りは、通常標本採集まで含んでいる。採った虫を標本化することについては、肯定派と否定派で長い間議論がなされてきたが、平成23年に日本学術会議が「理科教育や環境教育等に昆虫を教材として積極的に利用すべき」と提言したように、学校教育に虫を活用していくこと自体には、両者の間で異論がないようである。

 こうした中、虫で地域活性化に取り組もうとする農村地域がでてきている。平成25年度から甲府市、笛吹市、甲州市等で始まった、都市住民とともに虫を探し、観察していく取り組みは、参加した子どもと親から非常に高い評価を得ている。特に水生昆虫を調べる活動の評価が高い。子どもは純粋に虫を見つけ、観察する楽しさを感じ、大人は楽しさに加えて虫が生息する環境に興味を持った方が多かったようである。
 いずれの地域にも特殊な虫がいるわけではなく、農村にごく一般的にいる虫を対象として体験プログラムが提供されている。虫の解説は、農村地域のかつての昆虫少年・少女であった地元農家の人々が行った。こうした虫を活用した体験プログラムは、地域内外の子どもや親に人気が高く、今後も増えていくことと思われる。

 これまで、虫と遊ぶ体験をしたことのない方が、いきなり本格的に始めるには勇気がいる。このような農村における虫と遊ぶイベントへの参加が、入門編には丁度よいのではないだろうか。さあ、みんなで虫と遊びにいこう。

(山梨総合研究所 主任研究員 千野 正章)