Vol.205-2 インバウンド観光におけるゴルフツーリズムへの期待について


【山梨総合研究所 主任研究員 相川 喜代弘】

はじめに~増える訪日観光客

 最近、甲府駅周辺で外国人を見かけることが増えた。
 通勤の朝、信玄公像や甲府駅南口にある大手ホテルチェーンの玄関前には観光バスを待つアジア系の団体旅行客と思しき人の集団を、また、アーケードが撤去された商店街には、リュックを背負ったラフな格好の欧米系の少人数グループを、夜の県庁周辺には食事とお酒を楽しんできたであろう顔を真っ赤にした多国籍の方々をよく目にする。
 日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は、過去最高の1,341万人を記録した。また、2014年12月の訪日観光客数は、前年同月比43.0%増の123万6千人となり、2015年4月の推計値は176万4千人(前年同月比43.3%増)で、単月で初めて170万人を突破するなど、高い伸びを示している。

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日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数」

 こうしたなか、観光庁宿泊旅行統計調査(2014年第4四半期(10月~12月))によると、山梨県における外国人延べ宿泊者数は246,590人で、前年同期比73.5%増と非常に高い伸びを示している。なお、全国の外国人延べ宿泊者数は、約12,371千人で、前年同期比41.3%増であった。
 このことは、山梨県が成田空港から上野、浅草など東京の主要スポットを回った後、富士山、名古屋、京都の主要寺院、大阪を巡り関西空港から帰着する、いわゆるゴールデンルート上にあり、日本を丸ごと満喫できる王道のツアープランとして、現在、多くの訪日観光客を呼び込んでいる結果と考えられる。
 また、全国の国籍(出身地)別の外国人延べ宿泊者数を見てみると、第1位が中国、第2位が台湾、第3位が韓国、第4位が香港で、上位4ヵ国で全体の約5割以上を占めた。

 ■国籍(出身地)別外国人延べ宿泊者数

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観光庁「宿泊旅行統計調査」

 このうち、山梨県関連では、国籍(出身地)別外国人延べ宿泊者数の第6位を占める「タイ」からの延べ宿泊者数(65万人泊)が、都道府県別の構成比で東京都(31%)、大阪府(13%)、北海道(11%)、千葉県(8%)に次いで第5位の6%となり、同じく、第16位を占める「ベトナム」からの延べ宿泊者数(7万人泊)が、都道府県別の構成比で東京都(30%)、大阪府(19%)、愛知県(14%)に次いで第4位の8%となった。

 ■国籍(出身地)別、都道府県別外国人延べ宿泊者数構成比(上位5都道府県)

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観光庁「宿泊旅行統計調査」

 ■山梨県における国籍(出身地)別外国人延べ宿泊者数構成比(上位5国籍)

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観光庁「宿泊旅行統計調査」

増える訪日観光客の理由

 このように訪日観光客の勢いは留まることを知らないが、急増する主な理由は次のようなことが考えられる。

 ①国を挙げての『観光立国 日本』への取り組みの成果

 2006年12月の観光立国推進基本法の成立、2008年10月の観光庁の発足、2012年3月の観光立国推進基本計画の閣議決定など、政府は「観光」を21世紀における日本の重要な政策の柱として位置付け、国際競争力の高い魅力ある観光地の形成、観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成、国際観光の振興、観光旅行の促進のための環境の整備に必要な施策を推進してきた。
 この結果、息の長い訪日プロモーション活動と、国内のインバウンド関連業界による、魅力ある訪日旅行の開発・提供により、観光のために日本を訪れたいと思う外国人が増えたことは想像に難くない。
 さらには、東南アジア諸国に対する訪日ビザの緩和や羽田空港の国際線の増便なども、訪日外国人客を、直接、日本に呼び込む手段として極めて有効であったと思われる。

 ②魅力ある日本製品を割安で購入できる消費税免税制度の効果

 近年の円安の進行で日本への旅行が割安となったことに加えて、昨年10月に訪日観光客に対する消費税の免税対象が酒類や化粧品などの商品に拡大され、日本製の日常用品の買い物しやすい環境が整ってきたことも、多くのアジア系訪日外国人が増えた大きな理由と考えられる。
 ちなみに、山梨県においては、2015年4月における消費税免税店(輸出物品販売場)の数は92店舗となり、2014年10月の53店舗に比べ、39店舗の増加(対前回比率73.6%増)となっている。

 ■免税店の申請状況

 

店舗数

増加数

対前回比率

2014.10.1

2015.4.1

山梨

53

92

39

173.6%

 

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観光庁HP「消費税免税店(輸出物品販売場)の都道府県別分布(2015年4月1日現在)」を一部加工

 ③LCCの就航便数の増加の恩恵

 LCCとは、ローコストキャリア(Low Cost Carrier)の略称で、効率的な運営により低価格の運賃で運航サービスを提供する航空会社を意味する(知恵蔵2015より)。
 国は、LCCが低価格の選択肢を提供することで、観光等の需要の拡大等につながるため、アジアインバウンドの取り込みなどに向け、LCCの参入促進による利用者メリットの拡大を成長戦略における重点分野として決定した(2010年5月17日国土交通省成長戦略会議)。
 世界各地域で急成長しているLCCが日本市場に参入することで、割安な航空運賃による訪日観光客の増加が図られたものと考えられる。

我が国へのLCCの就航状況(2013.10下旬)

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「我が国のLCCの現状と課題(国土交通省航空局 平成25年10月30日)」を一部加工

インバウンド観光におけるゴルフツーリズムへの期待

 ところで、訪日外国人消費動向調査(2013年10-12月期)の調査結果によると、訪日旅行全体の満足度は、「大変満足44.7%」、「満足46.4%」を合わせて9割を超え、また、再訪の意向も、「必ず来たい57.1%」、「来たい35.0%」と、再訪希望者が9割超となった。
 また、今回の実施率に比べて次回実施希望率が高い活動として、「スキー・スノーボード22.3%」や「ゴルフ15.4%」などがあげられた。
 そこで今回、首都圏にも近くゴールデンルート上にあり、近年、富士山静岡空港の利用者の増加による新たな訪日観光ツアー客も見込まれる本県において、リピーター訪日観光客の取り込みに向けた、新たな観光戦略としての『ゴルフツーリズム』への可能性を探ってみた。

1.日本でのゴルフツーリズムの可能性について

(1)日本で開催されるビックなスポーツイベント

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催による来日観戦者数は10万人、開会式だけでも世界でのTV視聴者は10億人を想定。ゴルフがオリンピックの正式種目として実施されることから、世界規模でのゴルフ人気の高まりが期待できる。

(2)世界で活躍する日本人プロゴルファー

 松山英樹(23歳)、2015年8月現在の世界ランキングは17位。通算勝利数は日本6勝・米国1勝。2015シーズン中の4大メジャーの初制覇はかなわなかったものの、タイガーウッズやジョーダンスピースらの世界超一流のプロゴルファーからも「英樹のメジャー制覇は時間の問題」との高い評価を受けており、日本人のメジャー大会初制覇による、日本でのゴルフ人気の復活が期待できる。

(3)世界におけるゴルフ人口とゴルフツーリズムの潜在的ニーズ

 『Golf Tourism』Simon Hudson and Louise Hudsonによると、全世界のゴルフ人口は5,900万人(アメリカ3,000万人、アジア1,800万人、ヨーロッパ900万人、その他200万人)で、そのうち5%~10%が毎年、ゴルフを目的とした海外旅行を実施するとの報告からも世界規模でのゴルフツーリズムへの潜在的需要は大きい。

(4)アジアにおける日本製ゴルフ用品への高い評価

 ダンロップスポーツ㈱は、2012年8月に東南アジア最大の市場規模を有するタイでのビジネス拡大にむけて、SRIXON SPORTS (THAILAND) CO.LTD.を設立、10月から営業を開始。
 中国でのゴルフシャフト販売数量(約2万本)は年間30%の伸び、その中でもNSプロシリーズ(日本製)はスチールシャフト市場で70%のシェアを保有、グリップ(約15万本)は年間15%の伸び、その中でゴルフプライド(日本製)が80%の市場シェアとの調査結果(2012/2013中国市場調査による)からも日本製ゴルフ用品への評価は高い。

(5)日本のゴルフツーリズムの高いポテンシャル

 「みえゴルフツーリズム・インバウンドセミナー」(2015年7月9日にジェイメッセージ代表取締役の南波幸一氏)によると、日本は世界で2番目にゴルフ場が多い国で2,400コースが運営されており、欧米雑誌社が選ぶ「世界ゴルフ場100選」にも常に3~4コースが選出され、四季に富んだ日本の気候や日本の文化体験、食、ホスピタリティを総合的に評価すると「日本は海外ゴルファーにとってみてもファーストクラスのディスティネーションだ」とのIAGTO(国際ゴルフツアーオペレーター協会)会長のピーター・ウオルトン氏の談話などを紹介し、我が国のゴルフツーリズムについては、高いポテンシャルが期待できると評した。

2.ゴルフツーリズムに対する県内ゴルフ場の対応について

 ゴルフツーリズムの受け皿となる、県内で営業を行っている主なゴルフ場41箇所に対して、インバウンド・ゴルフツーリズムに関するアンケート調査を行ったところ、その主な結果は次のとおりであった。

【主な調査結果(抜粋)】

調査対象:県内で営業している主なゴルフ場41箇所
調査時期:平成27年7月
回答状況:22箇所

設問:インバウンド観光によるビジターの外国人を受け入れていますか(SA)

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設問:ビジターの外国人の利用状況(平均人数/平日)(SA)

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設問:ビジターの外国人の利用で発生した迷惑問題(MA)

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設問:ビジターの外国人を受け入れない、受け入れたくない理由(FA)

  • 言葉の問題など、対応が難しい。
  • 紹介者の同伴で来場する場合を除いては、マナーや言語、習慣の違いによるトラブルが考えられるので、積極的な受け入れはしていない。
  • 予約・問い合わせそのものが無い。不安要素がある(言語の問題、表示の問題、支払いの問題など)。
  • 従業員教育などの受け入れに対する負担が大きい。
  • 外国人観光客は受け入れていない。外国人は受け入れている。他の利用者からの苦情の心配。

設問:今後、ビジターの外国人の利用を推進するか(SA)

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設問:今後、さらなるビジターの外国人の利用を推進するために必要なもの(FA)

  • 外国人向けのコース案内やマナー手引書、外国人向けのPR冊子やHP、スタッフの語学力
  • 旅行会社への売り込み等。
  • 対象となる国で、日本のコースが快適で素晴らしいことをプロモーションすること。当クラブが選択される為に、地域でしっかりした商品(観光、ショッピング、温泉等)を創造し、他域との差別化を明確に。
  • 多言語化
  • 旅行会社への売り込み。
  • 外国人へのPR(HPの言語化など)、旅行会社へのオプショナルツアーの売り込み、外国人向けマナー手引書
  • ツアーコンダクターとの提携

ま と め

 今回、県内で営業する主なゴルフ場41箇所を対象に、インバウンド・ゴルフツーリズムに対する意向調査を実施したところ、回答のあった22箇所のゴルフ場のうち、「今後、ビジターの外国人の利用を推進するか」との問いに、「積極的に推進する(2箇所)」、「推進する(6箇所)」は合計8箇所(36.4%)にとどまった。
 回答をいただけなかったゴルフ場も加え、推進に消極的なゴルフ場(41箇所-8箇所≒33箇所)が、実に8割超となった。
 その理由は、言葉の問題、マナーの問題など一筋縄ではいかないことが多いが、しかし、ホームページやチラシなどでの注意喚起など、解決できることも多いように思える。
 ゴルフ愛好者の一人として、ゴルフほど奥深いスポーツはないと思っている。同じゴルフコースでも、その日の天候(気温・風向き)、フェアウエーやラフ、グリーンの芝の状態・ピンの位置により、スコアが全く異なることがよくある。また、一緒に回るメンバーによっては、ライバル心に駆られて平常心が保てず、自分との闘いに敗れて、散々な目に合う場合も少なくない。全くの同じ条件でプレーすることが無いため、同じコースでも毎回、新鮮な気持ちになることができる。
 そして、気に入ったコースは、本当に飽きることが無い。それは、リピーターとして、このコースには何度でも来たい、ここでプレーしたいと思わせるものであり、リピーター訪日観光客の囲い込みに向けて、今後、ゴルフツーリズムは、自然豊かで素晴らしいゴルフ場の多い本県における、重要な観光戦略として大いに期待ができる。
 事実、既に、北海道や三重県では、インバウンド観光戦略の一つとして、ゴルフツーリズムを掲げて、受け皿としての組織づくりも進んでいる。
 最後に、ゴルフ場には宿泊施設を完備しているところも多く、風呂も広くて立派だ。レストランも豪華である。こうした社会資本を活用して、ちょっと割高でもその地域の食材やお酒でこのお得意様をもてなし、かつ、お金を落としてもらおう。そして、この地域の良さを理解していただきつつ、再び、リピーターとしてこの地域に帰ってきてもらおうではないか。
 私は、ゴルフ場にはそんなヒントがあるような気がする。

【調査協力】

 山梨県内で営業しているゴルフ場 様

【主な引用文献・参考資料・サイト】

 観光庁HP「ビジット・ジャパン事業開始以降の訪日客数の推移(2003年~2014年)」

 観光庁「宿泊旅行統計調査(平成26年10月~12月・平成26年・年間値(速報))」

 観光庁HP「消費税免税店(輸出物品販売場)の都道府県別分布(2015年4月1日現在)」

 国土交通省「我が国のLCCの現状と課題(平成25年10月30日)」

 北海道ゴルフ観光協会「ゴルフツーリズム~北海道ゴルフ観光協会の活動概要~」

 ㈱野村総合研究所「日本のインバウンド・ゴルフツーリズムを成功に導く戦略(試論)」

 「みえゴルフツーリズム・インバウンドセミナー」(平成27年7月9日開催)

 観光庁「訪日外国人消費動向調査(平成25年10月-12月)の調査結果の発表」 ほか