やっぱり笑顔


毎日新聞No.444 【平成27年9月4日発行】

 8月、ちょっと奮発して沖縄へ家族旅行に出かけた。さすがは、国内有数の観光地である。空を見上げれば旅客機がひっきりなしに離陸していくし、那覇市内は観光客が大半を占めるであろう「わ」ナンバーのレンタカーで溢れている。珍しく天気に恵まれ、帰路につくとき後ろ髪を引かれる思いであったが、彼の地で感じた「おもてなしの心」をお伝えしたい。

 沖縄は若年人口比率が全国で最も高く、宿泊したホテルの従業員も若い人が多かった。必ずしも上手な接遇ばかりではなかったが、一生懸命さは伝わってきた。朝のお勧めの散歩コースも地図に印して説明してくれた。笑顔を絶やさず、お客に喜んでもらおうという熱意が感じられた。
 タクシーの運転手は寡黙であったが、重いスーツケースを涼しい顔で当然のように運んでくれた。「中国人の荷物は鉛が入っている。お客さんのは軽い。」と笑顔を見せてくれた。
 美ら海(ちゅらうみ)水族館から世界遺産の今帰仁城跡に着いたとき、息子が熱中症に罹ってしまった。一般の休憩所で横になっていると、遺跡案内のボランティアの方が、事務所で休んだらどうか、と声を掛けてくれた。
 外国人も含めさまざまな人々をお客として受け入れてきた歴史の賜物だろうか。田空(でんくう)の駅や首里城の食堂のお姉さん、やさしい対応だった。レンタカーの利用方法を説明してくれたお兄さん、プールでタオルを渡してくれた若者、炎天下でもさわやかでフレンドリーだった。偶然かもしれないが、羽田の民間駐車場のおじさんの対応は、事務的だった。

 統計的にみれば、沖縄は山梨と比べて所得水準は低い。市街地中心部を離れれば、建物は比較的質素である。でも、現地の人と話をすると、とても心地よかった。南国的な気候のせいだけではないと思う。観光産業が県経済を支える地域だけに、「おもてなし」の考え方が根付いているのだろうか。
 たまたま出会った人が親切だったのかもしれない。でも、「また来たいなあ」と感じさせるのは、設備の豪華さではなく、手際が良くなくとも伝わった一生懸命さ、相手を思いやる気持ち、そして何より輝く笑顔であることを改めて感じた旅行であった。

(山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)