Vol.206-1 山梨県経済について
日本銀行甲府支店 支店長 谷口 文一
1.はじめに
山梨県は、他都道府県比、経済規模の面では決して大きいわけではないが、特徴的な産業が多い他、大消費地の東京都や神奈川県などに近く、ポテンシャルに富んだ地域である。一方、当地に住む人自身がその魅力に気づいていない場合がある他、それを県外に効果的にアピールできていない場合もあると考えられる。以下では、統計データを使いながら山梨県経済の特徴を整理するとともに、今後の課題について考えてみたい。
2.山梨県経済の特徴
山梨県に関する各種指標をみると、全国比1%弱と、都道府県別の順位としては40位台のものが多いことがわかる。
(図表)山梨県の主要指標
(資料)総務省、内閣府、農林水産省、国土交通省、経済産業省、経済センサス
この背景としては、山梨県は山林が多く、平地が少ないことが考えられる。可住地面積は952km2であり、47都道府県中45番目である(2013年)。因みに、可住地面積とは総面積から林野面積と主要な湖や沼の面積を差し引いたものである。
(図表)可住地面積
(注)2013年
(資料)総務省
また、人口の推移をみると、1999年に89.3万人とピークをつけた後、自然減と社会減の両方の要因から減少が続いており、足もとでは83.5万人を下回っているとみられる。特に、人口に対する増減率をみると、山梨県は他都道府県比、社会減の割合が大きいことが特徴として挙げられる。なお、年齢別の人口構成比をみると、老年人口(65歳以上)の割合も全国比高めになっている。
(図表)山梨県の人口推移
(資料)総務省、山梨県
(図表)年齢別人口構成比
(注)2014年
(資料)総務省、山梨県
一方、産業構造については後述するが、限られた土地を活用した高付加価値型の産業が多いという特徴がある。また、大消費地の東京都や神奈川県などに近いという背景もあって、全国比でみると相対的に豊かな土地柄と考えられる。1人当たり県民所得は284万円と、47都道府県中17番目である(2012年度)。
(図表)1人当たり県民所得
(注)2012年度
(資料)内閣府
各都道府県の県内総生産を比較すると、山梨県は3.1兆円と、47都道府県中41番目である(2012年度)。
(図表)県内総生産
(注)2012年度、名目値
(資料)内閣府
県内総生産を用いて山梨県の産業構造を全国と比較すると、製造業を中心に第2次産業の構成比が高いことがわかる。第3次産業の構成比は全国対比で低いが、不動産業や観光関連産業を多く含む対個人サービスは相対的に構成比が高い。また、第1次産業も相対的に構成比が高い。
(図表)県内総生産の構成比
(注1)2012年度、名目値
(注2)第1次、第2次、第3次の各産業合計は、帰属利子等を加除していないため県内総生産と一致しない
(注3)県内総生産=第1次産業+第2次産業+第3次産業+輸入品に課される税・関税-総資本形成に係る消費税-帰属利子
(資料)山梨県、内閣府
構成比の高い製造業の内訳として、製造品出荷額の構成を業種別にみてみると、全国的に比率の高い輸送用機械や化学は低く、一方、電気機械、生産用機械、電子部品などが高いという特徴がある。また、食料品の中では、ミネラルウォーターやワインの生産量が全国トップクラスとなっている。これらの背景には、1982年の中央自動車道全線開通前後に、東京都に近い割に地価が安く、自然が豊かで水が豊富という立地上のメリットを求めて、機械・電子産業を中心に山梨県への工場進出が増加したことが挙げられる。
(図表)製造品出荷額等の業種別構成比(%)
(注)2012年
(資料)経済産業省
しかし、近年、製造業を中心に、国内の生産拠点を集約する動きや生産の一部を海外に移管する動きに伴い、山梨県からの工場撤退等が数多くみられる。製造業の事業所数をみると、1990年頃までは県内に4,000弱の事業所があったものの、足元では2,000を切るレベルまで事業所数が落ちてきている。また、近年、山梨県の空き家率が上昇しており、2013年時点で全国ワースト1であるが、当地は統計上空き家にカウントされる別荘が多いという特徴を考慮したとしても、この上昇は工場撤退が続いた事が背景にあるのではないかと推測される。
(図表)山梨県の事業所数(製造業)の推移
(注)従業員4人以上
(資料)経済産業省、経済センサス
(図表)山梨県の空き家率と都道府県別順位の推移
(資料)国土交通省
また、第一次産業の中心を占める農業については、単位面積当たりの出荷額が大きい果実の生産が多いという特徴がある。県内の農業産出額は、農家数の減少などから、緩やかに減少していたが、ここ数年、主力の果実を中心に持ち直しの傾向が窺われる。
(図表)耕地面積1haあたりの農業産出額
(注)2013年
(資料)農林水産省
(図表)山梨県の農業産出額の推移
(資料)農林水産省
企業規模の点からの特徴としては、山梨県内の企業約1万2千社(2012年)のうち、上場企業は9社のみであり、中小企業の比率は全国的にみてもトップクラスの高さとなっている。
(図表)小規模企業の割合
(注1)2012年
(注2)小規模企業は常用雇用者20人以下(卸売、小売、飲食、宿泊・娯楽を除くサービス業は5人以下)の会社
(資料)経済産業省「中小企業白書2014」
3.今後の課題
山梨県経済活性化のためには、近年続いている人口減少への対策が重要である。特に、社会減の主な要因である、若者の就職時の県外流出を止めることが重要な施策である。
(図表)山梨県の年代別社会増減数
(注)2014年中の変化
(資料)総務省
ここで、山梨県による県内大学生への調査において、県内に就職あるいは進学を希望しない理由は、男性では「都会に住んでみたいから」と「視野や知識を広げたいから」という回答割合が高い一方、女性では「山梨県内に希望する就職先がないから」と「都会に住んでみたいから」という回答割合が高い点に注目すべきである。特に、若い女性の県外流出は将来の自然減に拍車をかける可能性があるため、早急な対応が求められる。具体的に、どのような点が就職先として希望に合わないのか、大学生や親などに詳細を調査し、今後の企業誘致などに活かしていくべきである。都会に近い山梨県では、若者が県内で就職し、週末はたまに東京に遊びに行くという選択肢も取りえることから、こうした立地上のメリットを活かすような対策を行うことが望ましい。
(図表)山梨県内に就職あるいは進学を希望しない理由
(注)調査は2015年6月に実施、調査対象は県内高校出身の県内大学生
(資料)山梨県
また、人口減少社会においては、労働生産性を高めることが重要になってくる。労働生産性が高まることによって、企業は賃金を増やすことができ、それが社会減の緩和にもつながると考えられるためである。
経済産業研究所と一橋大学経済研究所による「都道府県別産業生産性(R-JIP)データベース2014」によれば、2009年時点において、山梨県の労働生産性は47都道府県中36番目であり、改善の余地がある。また、地域間の労働生産性の格差について、労働の質、資本装備率、全要素生産性の3つに要因分解すると、全要素生産性の格差の寄与が最も大きいことがわかる。これは、当地企業における技術進歩が他地域比で劣っていることを表している。技術進歩といっても、新製品の開発だけではなく、より広い範囲での企業間連携等を通じた販路拡大や新たなサービスの提供なども該当する。山梨県は前述のとおり中小企業の比率が高いが、中小企業の場合は自社だけでこれらの対応を行うことには限界があるため、地方公共団体や金融機関などの持つ情報やネットワークも活用しつつ、技術進歩を不断に進めていくべきである。
(図表)労働生産性地域間格差
(注)2009年、対数値
(資料)経済産業研究所・一橋大学経済研究所「都道府県別産業生産性(R-JIP)データベース2014」
4.おわりに
山梨県は古くから交通の要衝であることに加えて、近い将来、中部横断自動車道やリニア中央新幹線の開通により、東京都や他の地域と更に短時間で結ばれることが見込まれている。このメリットを活かして他地域との連携を深めながら、特徴ある山梨県経済を更に活性化させていくことが求められる。
以上