人の役に立つ人間に


毎日新聞No.447 【平成27年10月16日発行】

 七五三の文字をよく目にするようになった。七五三は子どもの健やかな成長を祝う行事で、発祥は室町時代にさかのぼるといわれている。
 わが家でも次男が5歳になる。思えば、誕生した瞬間は「生まれてきてくれてありがとう」と感謝し、健やかな成長だけを願った。5年経った今、なんと欲深くなったものだろう。やれ学校はどうするか、習い事は、塾は、将来は…。小学生の長男のことを含め、考え出せばキリがない。

 本年度の全国学力テストでは、山梨県の小学校が全5分野で全国平均を下回った。対策を講じてきた教育関係者は落胆しているかもしれない。
 一方で、同時に実施された「学習状況調査」(公立)からは、違う一面が見えてくる。
 ▽朝食を毎日食べているか▽毎日、同じくらいの時刻に寝ているか▽友達の前で自分の考えや意見を発表することは得意か▽友達の話や意見を最後まで聞くことができるか▽国語、算数、理科の勉強は好きか▽算数で新しい問題に出合ったとき、解いてみたいと思うか―といった設問に対する「当てはまる」の割合は、ほぼすべてにおいて山梨県が全国平均を上回っているのだ。
 「規則正しい生活を送り、将来の夢や目標がある。学校は楽しく、その日の出来事は家族に話す。各教科とも好きで質問も積極的。地域行事にもよく参加する。ただ、学校以外での学習時間は少し短め」―。調査結果から浮かび上がる山梨の子どもたちの姿は、伸び伸びとしてなんとも愛らしい。
 山梨県出身者として初めてノーベル賞を受ける大村智氏は幼少期、決して勉強熱心ではなかったという。同氏の「人のために何か役に立つことはないか。それを絶えず考えている」という言葉はとても印象的だった。

 さて、今回の調査には「人の役に立つ人間になりたいと思いますか」という質問も。「当てはまる」とした本県児童の回答は全国平均を4.5ポイント上回っている。
 テストの平均点は胸を張れる状況にないものの、学習状況調査にスポットを当てると「伸びしろ」は十分にあると感じる。健全育成の面では学校教育に携わる人たちに自信を持ってほしい。
 わが子の「点数」ばかりが気になってしまう自省も込めて、山梨の教育現場にエールを送りたい。

(山梨総合研究所 研究員 渡辺 たま緒)