スマホの電源、切る勇気を


毎日新聞No.448 【平成27年10月30日発行】

 先日、日本小児科医会が主催する「スマホ社会の落とし穴~子どもの脳とからだに異変が!」に参加した。特別講演が、あの“脳トレ”で有名な東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授と知ったからである。
 講演では、川島教授から仙台市教育委員会と合同で実施している市内の小5~中3の児童・生徒(約43,500人)を対象とした「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」の詳細な分析結果が示された。あらためて衝撃を受けた。スマートフォンの長時間使用が、脳から学校での学習内容(記憶)を消し去っているというものだ。
 市が行った標準学力検査の中学生の数学の平均点と平日1日あたりの通信アプリの使用時間との関係から、次のことが言えるらしい。『通信アプリの使用時間の長さは、勉強時間や睡眠時間を介した影響力よりも圧倒的に強く、直接的に成績を下げる方向に作用している恐れがある。つまり、スマホの時間により勉強時間や睡眠時間が短くなるから成績が下がる、わけではない。』詳しくは、仙台市教委HP(学力向上の取組について)を参照してほしい。スマホ使用の問題と言えば、有害なサイトへの接続としか考えていなかったが、脳(記憶)を壊すとは恐るべし。とはいえ、スマホが便利であることに疑いの余地はない。子どもの発達段階に合わせた、スマホ使用のルールづくりが必要だ。

 ところで、環境省が行う「子どもの健康と環境に関する全国調査」によると、2歳児と一緒にいる時に、スマホを2時間以上使う母親が2割近く、また、テレビやDVDを2時間以上見させる母親が約3割と聞く。乳幼児からのメディア漬けによる、運動や睡眠の不足、外遊びの機会の減少で、心身の発達の遅れやゆがみが問題となる例も出ている。
 メディアが悪いわけではなく、メディアに飲み込まれている私たちに問題があるのではないだろうか。私は、メディアとうまく付き合うためにも、それを断る勇気を身に付けたい。

 最後に、『今の子供達は、親や学校の言うことは聞かない。大人(社会)のずるさを理解しているから。ただ、科学(データ)はまだ通じる。』との川島教授の言葉を信じて、メディアの長時間使用のリスクについて、子どもたち自身に考えさせてみようと思う。

(山梨総合研究所 主任研究員 相川 喜代弘)