Vol.207-1 6次産業化への取組み
~商品開発とともに大切なこと~
栄養士・料理研究家・農林漁業成長産業化支援機構6次化プランナー
株式会社インフィニバリュー 代表取締役 玉川眞奈美
1.はじめに
現在私は、平成25年2月に農林漁業者の6次産業化の取組みを支援する官民ファンドとして設立された農林漁業成長産業化支援機構の6次産業化プランナーとして全国各地に足を運び、農業生産者、行政、地域金融機関の方々とともにそれぞれの地域の6次化推進のためのお手伝いをしている。今回はそれらの事例をお届けしたいと思う。
2.6次産業化とは
農林水産省が推進する農林漁業の6次産業化は、言葉とともにその内容も認知されつつある。以前には、経済産業省が農商工連携として商工業者が農家を巻き込む形で1次産品を利用した加工品などの商品を製造・販売する事業を推進していった経緯がある。この時のスキーム[1]は、農家はあくまでもマテリアルサプライヤー[2]という位置づけであり、商工業者が商品開発、製造、工程管理、販売、宣伝などを行うものであった。そして、各地の商工会などが窓口となって、地域の逸品商品として多くの農商工連携商品が世に出たことを記憶している。それに対し、6次産業化は農業振興を背景にしたものであり、あくまでも農家・農産物・地域が主体となり、2次産業、3次産業分野へと領域を広げていく活動である。
3.6次産業化の難しさ
多くの農業生産者は従来作物を作ることにのみ集中し、後はJAという流通・金融業者に生産物を引き取ってもらうことを生業としていたために、商品開発・製造・販売などのマーケティング、外部との人的ネットワーク、事業者としての経営感覚などに乏しいことは否定できない。例えば、商品が完成し、値決めの段階では市場価格・値ごろ感として500円位であったとしても、相当に強気の価格を主張されることが多々ある。まずは、経費を積算し適正利益を上乗せする方式で十分なのだが、話をしている間に4倍、5倍といった話になってしまうのである。
もう数年前の話になるが、ある地域の農業生産者と地元の行政も交え1次産品を使用した商品開発をおこなった。この商品は完成度が高く期待の逸品であった。販路については地元スーパーが話題性もあり取り扱うことで合意を得たが、最終的に商談はまとまらず、破談になってしまったことがある。スーパー側の200円仕切りに対し、農業生産者は350円から譲らず、生産の手間を出来るだけ簡略化するために1度にたくさん作って全量一括での取引を希望した結果であった。ビジネスベースの商談においては、いくら6次産業化、地域振興と言ってみてもそれだけではまとまる筈もなく、利害関係者間においてしっかりとしたウィンーウィンの関係が構築されなければならないのは当然である。またある時はイベントに出品し、POPなどの宣伝材料一式作成し流通業者との橋渡しまでしたが、その後、営業面での関係構築ができずに取引解消といったこともあった。利益率は多少低くても販路を開拓し、確保することの重要性、利害関係者との関係を構築していくことの必要性などについても私たち6次化プランナーは農業生産者に説明し、納得してもらうことが大切な役割と痛感した事例であった。
今までいくつかのプロジェクトに参加して感じることは、多くの農業生産者にとって異なる分野における人脈を構築し、それを生かして事業推進を図る作業は未経験のことであり、相当にハードルが高いということである。また、地域の行政は実際の6次化の現場における経験値は低く、なかなかそこまではカバーしきれていないのが現状である。
地域の行政関係者とも連携することが多いが、そこで感じるのは専門家(地域の支援機関、加工業者・流通業者など)と農業生産者との橋渡しを担う行政担当者は6次化についての相談があったら加工品・商品が企画製造されて販路に乗り、どの程度の価格で売れるのか、またはどの程度の価格で売られるべきかといったプランを早い段階でしっかりと描き、双方がウィンーウィンの関係を築けるように取り組んで欲しいということである。そのことにより、事業が進むにしたがって現出してくる課題、双方の思惑に早め早めの対応が出来、連携もスムーズに進むと感じている。
地方創生の流れの中で、農業振興、農産物を使用した地域振興は、①雇用創出-定住促進、②観光振興―交流人口増加、において大きな期待のかかる分野である。これからも、6次化プランナーとして地域振興に資するような活動を続けていきたいと考えている。
4.現在の取組み
直近の事例では長ネギ栽培を専門に行っている農業生産者が収穫した長ネギを自然乾燥させ、それに一味唐辛子、ニンニク、カレースパイスを同様に乾燥させて混ぜ、麺類、鍋物、おにぎり、納豆、冷奴、チャーハンなどへの「フリカケ風ドライドレッシング(図1)」として商品化したものがある。商品コンセプトは、「簡単」、「美味」、「手間いらず」、「プロ仕様」。開発段階で苦心したのはネギと香辛料との組み合わせと配合比。微妙な加減で食味は大きく変わってしまう。そして製造段階では品質・工程管理、流通、販売段階ではパッケージング・POP作成・レシピ設計・メニュー開発、それから原価計算に基づく売価設定などすべてにわたって支援をおこなった。
農業生産者の方も今まで経験のない分野において積極的に努力し、関係者が成功に向けて協力し合い、互いの意見を尊重したことによって、商品としての完成度も高かった「フリカケ風ドライドレッシング」は非常に好評で売上も順調に伸びている。
図1 左から「プレーン」「一味」「ニンニク」「カレー」
5.成功の予感
現在は山口県宇部市での6次産業化に携わっている。そこは茶葉(小野茶)・お米など、農産物の生産拠点であり、水源涵養と環境保全の観点から、農薬散布に一定の規制がかかっている里山地域である。アクセスとしては市内に山口宇部空港を持ち、山陽自動車道が市内を貫き、最寄駅の新山口駅には新幹線が停車する。市長は地域活性化に非常に熱心に取り組んでいて、立地も環境も好条件が整っている。
一方で農業生産者の方々はというと、日々の仕事に追われていて、なかなか6次化といった分野にまで手が回らないのが現状であった。そこで、地元の山口県立宇部西高等学校(ここは園芸農業科や商業科を母体とした実業高校)に協力いただき、①ボランティアとしての野良仕事を授業や卒業課題に組み入れる、②地域食材を使用した商品開発の一翼を生徒達に担わせる、③それらの活動を地元メディアにリリースする、などを商品と共に提案した。懸念したのは、動き出すまでの助走期間であったが、市担当者と地元のプランナーは俊敏に動き、メール・SNSを活用しての関係者同士(図2参照)の情報共有、意見交換などにより体制は強化され、教師と生徒達の活動は、農家の方々との交流、商品化の面白さ、地元新聞に取り上げられることの誇らしさなどがモチベーションに繋がり、大きな推進力となり、地域全体へと成果が波及し始めている。
今回の宇部市の例では市担当者と地元のプランナーが常に動き連携し、“報・連・相”を徹底して繋でくれたことが大変重要なポイントであったと感じている。私は初回訪問時以降、主に電話とメールのやり取りであったが、約3か月後に再訪した時には前述の高校との連携体制、各人の役割分担は明確になり、ボランティア活動の予定表、商品の試作・商品化に向けてのタイムスケジュールなどが整っていた。
図2 地元の高校生、農家、専門機関の人々
短期間で整備出来た要因としては、
- マメに足を運び、直接会ってコミュニケーションを図った。
- 市役所職員それぞれが役割分担を決め、各部門の専門家に相談しながら商品構成や事業化の資料を作り、会合を重ね関係者たちとの合意形成を図った。
- 関係者同士フェイスブックなどのSNSを利用し、常に意思疎通・情報共有を図った。
といったことが挙げられる。
現在は保健所への加工所の申請なども終え、私の業務は衛生管理指導、生産工程の管理と食品表示法における表記、試作のブラッシュアップの過程に進んでいる。食味についても一部の人だけが良いといった力学関係での商品化にはならないように客観的に「おいしいもの」を目指せる体制づくりも構築している。
実際の商品化までには、まだ多少の時間を要するが、今回改めて感じたことは、①推進役となる人材の存在とその積極姿勢、②素早さ、③関係者同士の連携と合意形成、の重要性であり、具体的なサポート方法の大切さである。
6.まとめ
第1次産業に従事する方々の意識を高め、立場の異なる多くの人々と協働する6次産業化は、我々のような職種の支援だけでは大変難しいことである。ただおしりを叩いたり、資材を整えて加工品を製造し、販売するということだけでは進捗せず、成功には至らないのではないか。地域ごとの特徴ある加工品や商品が生まれて販売が開始され、流通がスムーズになり6次産業化として成功するために重要かつ必要なことは地元を知り、地元を愛している行政担当者や支援機関などに関わる方々のトータル連携力が発揮されることと考えている。これが強固な土台となり前に進むためのエンジンであると確信している。
本県においてもこの難しい課題に立ち向かう人々すべてが当事者意識を持ち、山梨ならではの商品が生まれ、地域に貢献できることを期待しつつ、私もその実現に向けて微力ながらお役に立ちたいと考えている。
[1] 計画、企画、枠組み
[2] 原料、材料の供給元。供給事業者