Vol.207-2 動き出した地方創生


【山梨総合研究所 研究員 三枝 佑一】

1.896という数字

 この896という数字に、見覚えがある方も多いかもしれない。2014年5月に「日本創成会議」が発表した、2040年までに消滅する恐れがある自治体の数である。896という自治体の数は全国約1800市町村の約半数にあたり、東京23区の豊島区までもが「消滅可能性都市」に該当するということで大きな話題を呼んだ。
 日本創成会議が発表したレポートでは、人口の「再生産力」に着目し、人口の再生産を中心的に担う「20~39歳の女性人口」を取り上げている。すなわち、20~39歳の若年女性人口が減少すると、人口の再生産力は低下し続け、人口が減少し、やがて人が住まなくなればその地域は消滅するというストーリーである。
 2040年時点に20~39歳の若年女性人口が半減する自治体を「消滅可能性都市」と見なしており、2010年の国勢調査を基にした試算では、896の自治体が該当する。その中でも2040年時点までに推計人口が1万人を切る523の自治体は、とりわけ消滅の可能性が高いとされている。

 なお、山梨県では27市町村のうち、約6割にあたる16市町村が「消滅可能性都市」に該当し、さらに8町村が人口1万人を切る、消滅の可能性が高い自治体となっている。

【図1】 2010年から2040年の20~39歳の若年女性人口の変化率でみた山梨県内の自治体数

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(出典)日本創成会議・人口減少問題検討分科会「全国市町村別『20~39歳女性』の将来推計人口」より作成

 この「消滅可能性」という言葉に、「自分たちが住むまちが消えるのか!?」と日本中に衝撃が走ったわけだが、この流れをうけて国や自治体を巻き込んだ地方創生に向けた取り組みが始まった。
 例えば、「特定のキーワードの検索数」を提供するGoogle社のGoogle Trendsをみると、日本創成会議がレポートを公表した2014年5月は「消滅可能性」というキーワードが多く検索された。その後人口減少対策や地方活性化の取り組みがクローズアップされるにつれ、「地方創生」というキーワードの方がより多く検索されるようになっており、「消滅可能性」というキーワードがその後の「地方創生」の流れを生み出したことが裏付けられる。

【図2】 Google Trendsによるキーワード検索数

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2.策定が進む地方自治体

 日本創成会議の人口減少問題検討会によるレポートや、同分科会座長の増田元総務大臣らによる「地方消滅」(中公新書)が公表・出版されたことにより、人口減少問題が大きな課題としてクローズアップされ、それと時を同じくして、安部政権の看板政策である成長戦略や骨太方針2014のなかにも、人口減少対策や地域活性化が重点施策として盛り込まれていった。
 また、人口の減少に歯止めをかけ、東京圏への人口の過度の集中を是正することを目的に、2014年11月に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、12月には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。
 これにより、全国の自治体(都道府県を含む)は2016年3月までに、地域における人口の現状と将来の展望を提示する「地方人口ビジョン」と、今後5ヵ年の施策の方向を提示する「地方版総合戦略」の策定を求められることとなり、地方創生に向けた取り組みが本格的に始まった。

【図3】 総合戦略の基本的な考え方と策定のポイント

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「地方人口ビジョン」・「地方版総合戦略」策定のポイント

  • すべての都道府県及び市町村は、平成27年度中に「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」の策定に努める。
  • 地域経済分析システム(ビッグデータ)等を活用し、地域特性を把握した効果的な政策立案。
  • 明確な目標とKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルによる効果検証・改善。
  • 地方公共団体を含め、産官学金労言、女性、若者、高齢者などあらゆる人の協力・参画を促す。
  • 地方議会も策定や検証に積極的に関与。
  • 各々の地域での自律的な取組と地域間連携の推進

(出典)まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」パンフレットより抜粋(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)

 こうした流れを受け、京丹後市が2015年3月に全国で最初の総合戦略を策定・公表した。また、内閣府の調査[1]によれば、全市町村の約4割にあたる773市町村が交付金の上乗せが実施される期限である10月中の策定を目指すとのことであるが、一方で交付金の上乗せよりも内容の充実に重きを置いて、10月期限にこだわらずじっくりと年度内の策定を目指す自治体も多い。
 山梨県内においては、9月に県が人口ビジョンの原案を公表したほか、すでに北杜市や山梨市等が「地方人口ビジョン」や「地方版総合戦略」を策定・公表し、いくつかの市町においても「地方版総合戦略」の素案を公表しパブリックコメントを実施するなど、策定に向けた動きが強まってきている。

3.金融機関に対する多大な期待

 「地方人口ビジョン」や「地方版総合戦略」を策定するにあたっては、住民代表や産業界・行政機関・大学等・金融機関・労働団体・報道機関(産官学金労言)による積極的な参画が求められており、住民会議への参加を通じて策定に関与しているケースが多いだろう。
 なかでも、地方版総合戦略策定のための手引き(内閣府)にも「地方版総合戦略の策定に当たっては、地域金融機関、政府系金融機関等の知見等を積極的に活用することも有効」と記載があるとおり、金融機関に対しては特に大きな役割が期待されている。
 2015年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」のなかでも、金融機関の役割について多数記載されているが、主なものは次のとおりである。

  • 日本版DMO[2]と連携した地元地域金融機関と株式会社日本政策投資銀行による民間事業化支援(資金、経営面で観光産業をサポート)
  • ローカルベンチマーク[3]を整備し、地域企業に対する産業・金融の支援策における活用を図る。
  • 地域金融機関等設立のファンドや株式会社日本政策投資銀行の特定投資業務等を含め、地方向けエクイティファンド[4]の活用を促す。
  • 事業承継の機会をとらえて、地域企業が新たな事業展開や必要な経営改善等に取り組むことを促進する観点から、事業引継ぎ支援センターの拡充や地域金融機関との連携強化等を図る。

 

  • 円滑な事業整理のための支援として、「経営者保証に関するガイドライン」の利用促進、廃業準備資金融資の自己査定上の扱いの周知等により、廃業しやすい環境の整備
  • 地域金融機関の持つビジネスマッチング機能等との連携
  • 都市のコンパクト化等においては、戦略の企画や策定の段階から、各都市で事業活動を行う地域経済界や、金融機関等必要な投融資を行う主体の参画を促す。
  • 創業支援等の分野において、地域における金融機能の高度化を図る等の観点から、民間金融機関と政府系金融機関との具体的な協働案件の発掘、組成を通じたノウハウシェアなどの連携を促進
  • 株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)と地域金融機関が設立する地域観光・まちづくり活性化ファンドの活用を図る
  • 海外発行クレジットカード等で現金が引き出せるATMの設置促進
  • 各地域にプロフェッショナル人材戦略拠点を設置し、REVIC子会社、地域金融機関、民間人材ビジネス事業者等と、それぞれが担う役割を踏まえて、密接な連携を図る

 このように、過大ともいえる期待を背負う金融機関であるが、10月に、まち・ひと・しごと創生本部が公表した「地方創生への取り組み状況に係るモニタリング調査結果」によると、金融機関の約8割が、地方版総合戦略の策定に向けて地方公共団体と接触するなど、実に積極的に関与している状況が窺える。
 また、実際に約7割の金融機関が地方版総合戦略の策定に関与しており、その結果、約9割の地方公共団体が金融機関の参画をえながら総合戦略を策定している。

 【図4】 地方版総合戦略策定への接触状況 【図5】 接触の状況について(複数回答)
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【図6】 地方版総合戦略の策定への関与状況
(金融機関)          

 【図7】 地方版総合戦略の策定への関与状況
(地方公共団体)

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(出典)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方創生への取組状況に係るモニタリング調査結果」

 先日、栃木県が地盤の足利銀行を傘下に持つ足利ホールディングスと、茨城県が地盤の常陽銀行が経営統合に向け交渉している旨の報道があったが、これらの地銀再編の動きは、人口減少や地場産業衰退による地域経済の縮小が背景にある。地域金融機関が地方版総合戦略の策定について積極的に関与しているのも、人口減少にともなう今後の地域経済活動の弱体化に強い危機感を持っていることの表れといえるだろう。

4.住民・企業の高い関心

それでは、実際に地域に住む住民や企業は地方創生についてどのように考えているのだろうか。地方創生については、自治体や金融機関だけの取り組みだけでは達成できない。「地方人口ビジョン」・「地方版総合戦略」策定のポイント【図3】にもあるとおり、「地方公共団体を含め、産官学金労言、女性、若者、高齢者などあらゆる人の協力・参画」が必要不可欠である。

2015年6月、株式会社 電通が公表した全国1万人の国民を対象とした「地方創生に関する意識調査」[5]によると、「地方創生」の言葉の認知は約8割で、10~20代でも6割を超えるという。

また、約7割が「人口減少は困ったことだと思う」と回答しており、人口減少について強い危機感を感じる一方で、「推計どおりに人口が減少しても問題ないと思う」(10.6%)、「問題があるともないとも思わない」(8.7%)、「分からない」(8.8%)との回答もみられた。また、今後の人口減少の見通しについて「とても減少していく」と回答した人が人口100万人以上の都市では4.6%だったのに対し、人口5万人未満の自治体では34.5%にのぼり、人口の少ない市町村の住民ほど、将来人口が減少していくという実感を持っているという調査結果がでている。

 人口の東京一極集中については、全体の7割を超える人が「抑えた方が良い」と回答しているが、東京都在住者においても、7割近い人が「抑えた方がよい」と回答している点が注目されよう。
 地方創生に対する企業の意識はどうであろう。「まち・ひと・しごと」の創生と好循環の確立が総合戦略の考え方であるが、特に「しごと」(雇用の質・量の確保・向上)に関する企業の協力・参画は不可欠といえよう。

2015年1月に、株式会社 帝国データバンクが実施した「地方創生に対する企業の意識調査」[6]によると、全国平均で53.3%と半数を超える企業が地方創生に「関心あり」と回答している。特に「青森」「秋田」「福島」「徳島」「高知」「長崎」「宮崎」「鹿児島」では7割以上となる一方で、「東京」(42.2%)や「神奈川」(45.5%)等は5割を下回るなど地域間による意識の違いがみられ、とりわけ将来人口の急減や働き手の不足が予測される地域において、地方創生に対する関心や期待が高いといえるだろう。

【図8】 地方創生に対する関心度(山梨県)

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(出典)株式会社帝国データバンク「地方創生に対する企業の意識調査」より作成

【図9】 関心ありの割合(地域別)

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(出典)株式会社帝国データバンク「地方創生に対する企業の意識調査」より作成

 山梨県では63.5%が「関心あり」と回答し、全国平均を上回る企業が地方創生に関心を寄せていることがわかり、人口減少に対する強い危機感が窺える。
 山梨県商工会議所連合会が実施した、「地方創生に関する調査」(平成27年8月)[7]においても、人口政策の目標について、「人口減少は望ましくなく、増加するよう努力すべき」が60.5%、「人口減少は望ましくなく、現在程度の人口を維持すべき」が16.2%となっており、「人口減少が望ましくない」という回答が全体の3/4を占めている。

【図10】 人口政策の目標について

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(出典)山梨県商工会議所連合会「地方創生に関する調査」

5.期待される地に足のついた取り組み

 いままでの人口減少対策は、どちらかというと出生率をいかにあげるかという視点で語られることが多かったが、日本創成会議のレポートによれば地方創生においては若年女性人口をいかに増やすかという点が重要としている。
 若年女性の奪い合いになるといった議論もあろうが、先進的な取り組みをする自治体や成果をあげた自治体と、成果があがらなかった自治体との間で格差が拡がるなど、まさに今回の地方創生に向けた動きで、自治体や地域の力が試されることになるだろう。そのためにも、人口減少や地域の衰退に強い危機感を持つ住民や企業を、いかに取り込んでいくかが重要になる。

 国も自治体に対する「情報支援」として、産業構造や人口動態、人や金の流れ等に関するビッグデータを集約し、可視化した「地域経済分析システム」(RESAS)を提供したほか、新型交付金等の「財政支援」や、小規模な自治体には国家公務員等を派遣する「人的支援」等さまざまな支援を打ち出している。地域の将来像を真剣に考えるまたとないチャンスであり、5年間の総合戦略を作っておしまいではもったいない。時間的余裕はないが、人口問題は20年、30年先の長いスパンで考えることが必要である。まずは危機感を共有する住民や企業と協働し、地域の課題を考え、なすべきことにじっくりと取り組む、そんなスタンスも必要ではないだろうか。

【主な参考資料】

  • 日本創成会議「ストップ少子化・地方元気戦略」
  • 増田寛也編著「地方消滅-東京一極集中が招く人口急減」(中公新書)
  • まち・ひと・しごと創生本部「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」(平成27年6月)
  • まち・ひと・しごと創生本部「地方創生への取組状況に係るモニタリング調査結果」(平成27年10月)
  • 株式会社電通「地方創生に関する意識調査」
  • 株式会社帝国データバンク「地方創生に対する企業の意識調査」
  • 山梨県商工会議所連合会「地方創生に関する調査」


[1] 石破内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成27年7月3日(内閣府HP)

[2] DestinationManagement/MarketingOrganizationの略。様々な地域資源を組み合わせた観光地の一体的なブランドづくり、ウェブ・SNS等を活用した情報発信・プロモーション、効果的なマーケティング、戦略策定等について、地域が主体となって行う観光地域づくりの推進主体。

[3] ローカル経済圏を担う企業に対する経営判断や経営支援等の参考となる評価指標。

[4] 株式を取得し、その企業の成長や再生の支援を行うことを通じて株式価値を高め、その後の売却等を通じてキャピタルゲインを得ることを目的とする投資ファンド。

[5] 調査対象 全国高校生を含む15~69歳 男女個人10,000サンプル 調査時期2015年4月24日~27日

[6] 調査対象 全国23,324社、有効回答企業数10,583社(回答率45.4%)調査期間2014年12月15日~2015年1月5日

[7] 調査対象 甲府及び富士吉田商工会議所合計476事業所、有効回答数169事業所(回答率35.5%)

x調査期間2015年7月6日~13日