Vol.208-2 教育のICT化について


公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 渡辺 和樹

1.はじめに

 日本全国で教育のICT化がすすめられており、山梨県内の学校でも、ICTを活用した教育を行おうと様々な取り組みが行われている。そこで、教育のICT化について考察を行う。

2.ICT化がなぜ必要か

(1)ICT化の目的

 学校のICT化は、教育の質の向上を図るために、学校教育に関連する様々な場面でのICT活用をソフト・ハードの両面で効果的かつ円滑に進めることを目的とするものである。
 ICTの急速な発展は、グローバル化が進む経済社会に変革をもたらし続けるとともに、日常生活やライフスタイルに対しても大きな影響を与えるものであり、こうした動きは今後も世界的規模で進行していくことが予想される。学校においても、コンピュータやインターネット、デジタルカメラなどのICTが多様な学習のための重要な手段として活用されるようになってきている。
 このような状況の下で、児童生徒が、情報社会に主体的に対応できる「情報活用能力」を身に付けることの重要性はますます高まっている。

(2)ICT化の教育上のメリット

 情報端末や電子黒板、デジタル教材などを授業において効果的に活用することにより、次のような効果が期待できる。

・ 画面の拡大、動画配信、音声朗読等を利用し、学習内容を分かりやすく説明することにより、児童生徒の興味・関心を高めること。

・ 情報端末やデジタル教材等を活用し、児童生徒が自らの疑問について深く調べたり、繰り返し学習を行ったり、自分に合った進度で学習したりするなど、一人一人の能力に応じた学習を実現すること。

・ 情報端末や電子黒板等を用いた、教室内や他校等との交流授業において、子供同士がお互いの考え方を吟味しつつ意見交換や発表を行うなど、教え合い学び合う協働的な学びを通して、思考力、判断力、表現力等を育成すること。
 このように、ICTの特長を生かし、効果的に活用した指導を行うことにより、子供たちが分かりやすい授業を実現するとともに、これまでの一斉指導による学び(一斉学習)に加えて、子供たち一人一人の能力や特性に応じた学び(個別学習)、子供たち同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)など、新たな学びを推進することができる。

3.ICT化への取り組み

(1)国の動向

  • IT新改革戦略
    ITの持つ社会構造を改革する力に着目し、日本社会の抱える社会的課題を改革するため、「IT新改革戦略」が平成18年に決定された。IT社会の実現を目指すこの戦略は、「次代のIT革命を先導するフロントランナーとして世界に誇れる日本の国づくりを進め,2010年度までにITによる改革を完成する」との目標を掲げている。具体的内容として、「学校のICT環境の整備」、「教員のICT指導力の向上」、「公務のICT化推進」、「情報モラル教育の推進」などが示された。
  • 教育振興基本計画
    平成20年に教育基本法に基づき、教育の振興に関する施策の総合的、計画的な推進を図るために「教育振興基本計画」が閣議決定された。「今後5年間に総合的かつ基本的に推進すべき施策」77項目のうちの教育の情報化について、情報モラル教育、教育現場のICT化、教育用コンピュータ、校内LAN等のICT環境の整備などの支援が掲げられ推進された。
  • デジタル新時代に向けた新たな戦略(三か年緊急プラン)
    平成21年に、「IT新改革戦略」の策定時には想定していなかったデジタル技術の具現化ならびに当時の世界的な金融危機に伴っての経済の失速などに対応するため「デジタル新時代に向けた新たな戦略(三か年緊急プラン)」が策定された。デジタル教育の推進とデジタル活用人材の育成・活用について関係府庁・機関が一体となり取り組むことがうたわれた。
  • i-Japan戦略2015
    平成21年に、人間中心のデジタル技術が水や空気のように使いやすく、普遍的に国民に受け入れられるデジタル社会を実現する戦略として「i-Japan戦略2015」が示された。その三大重要分野の一つである「教育・人材分野」の中で、授業でのデジタル技術の活用等を推進し、子どもの学習意欲や学力、情報能力の向上、教員のデジタル活用指導力の向上、電子黒板等デジタル機器を用いたわかりやすい授業の実現等を推進するものとした。
  • 新たな情報通信技術戦略
    平成22年に策定された「新たな情報通信技術戦略」では、3つの柱の一つ「地域の絆の再生」の中で、2020年までに、情報通信技術を利用した学校教育・生涯学習の環境を整備すること等により、すべての国民が情報通信技術を自在に活用できる社会を実現することを目標としている。
  • 新成長戦略
    同じく平成22年に閣議決定された「新成長戦略」では、「科学・技術・情報通信立国戦略~IT立国・日本~」が掲げられ、子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場における情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用を更に進めるとしている。
  • 教育の情報化ビジョン
    今後の教育の情報化推進に当たり、基本的な方針として平成23年に「教育の情報化ビジョン」が公表された。子どもたちの情報活用能力の育成を目的とした「情報教育」、情報技術を効果的に活用した分かりやすく深まる授業の実現等を目的とした「教科指導における情報通信技術の活用」、情報通信技術を活用した教職員の情報共有によるきめ細やかな指導、校務負担の軽減を目的とした「公務の情報化」の3つを掲げ、教育の質の向上を目指すことが示された。
  • 界最先端IT国家創造宣言
    平成25年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」では、学校の高速ブロードバンド接続、1人1台の情報端末配備、電子黒板や無線LAN環境の整備、デジタル教科書・教材の活用等、初等教育段階から教育環境自体のIT化を進め、児童生徒等の学力の向上とITリテラシーを図ることが示された。
    併せて、教える側の教員が、児童生徒の発達段階に応じたIT教育が実施できるよう、IT活用指導モデルの構築やIT活用指導力の向上を図るため、指導案や教材など教員が活用可能なデータベースを構築し、府省の既存の子供向けページも教材として整理し、積極的に活用する。また、企業や民間団体などにも協力を呼びかけ、教育用デジタル教材の充実を図り、これらの取り組みにより、2010年代中には、全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で教育環境のIT化を実現するとともに、学校と家庭がシームレスでつながる教育・学習環境を構築するとしている。
  • 日本再興戦略
    平成25年に閣議決定された「日本再興戦略」は、2010年代中に1人1台の情報端末による教育の本格展開に向けた方策を整理し、デジタル教材の開発や教員の指導力の向上に関する取組を進め、双方向型の教育やグローバルな遠隔教育など、新しい学びへの授業革新を推進すると示されている。
  • 第二期教育振興基本計画
    平成25年に閣議決定された「第二期教育振興基本計画」は、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数3.6人、教材整備指針に基づく電子黒板・実物投影機の整備、超高速インターネット接続率及び無線LAN整備率100%、校務用コンピュータ教員1人1台を目指すとともに、ICT支援員・学校CIO(最高情報統括責任者)の配置を促すと示された。また、「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画(平成26~29年度)」に基づき、平成29年度まで単年度1,687億円の地方財政措置が講じられている。

(2)県の動向・施策

  山梨県は、「新やまなしの教育振興プラン(平成26年度~平成30年度)」において、以下の施策をまとめている。

  • 情報活用能力の育成
    ‣情報社会を主体的に生き抜くために必要な情報活用能力を育成。
    ‣必要な情報を、収集・判断・表現・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる情報活用の実践力を育成。
    ‣情報手段の特性や情報の適切な扱い、自己の情報活用の評価・改善に関わる理論や方法を理解する力を育成。
    ‣情報モラルの必要性や情報に対する責任を理解し、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度を育成。
  • ICTを活用した分かりやすい授業の充実
    ‣教育用デジタルコンテンツの開発・収集を積極的に推進し、優良な教育情報の提供とICT を活用した分かりやすい授業の充実。
  • 教員の指導力向上
    ‣総合教育センターの研修及び出前研修を通して、教員のICT活用能力及びICT 活用指導力の向上。
  • 設備の整備
    ‣ICT関連教育の充実を図るため、普通科高校や専門高校の情報教育機器を整備。

4.教育環境の現状

(1)ICTの導入状況

 文部科学省「平成26年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(平成27年3月現在)」によると、「教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数」は、全国平均6.4人に対し、山梨県では4.6人、「教員の教務用コンピュータ整備率」は全国平均113.9%に対し124.7%、「普通教室の校内LAN整備率」は全国平均86.4%に対し86.8%、「超高速インターネット接続率(30Mbps以上)」は全国平均81.6%に対し84.6%、「電子黒板のある学校の割合」は全国平均78.0%に対し70.2%、「デジタル教科書の整備状況」は全国平均39.4%に対し37.5%となっている。

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 全国平均と比較すると、「教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数」は全国で5位となっているが、「電子黒板のある学校の割合」および「デジタル教科書の整備状況」は全国平均を下回る数値となっている。その他の項目については、全国平均の整備状況とほぼ同等となっている。

(2)教育現場の現状

 OECD(経済協力開発機構)による国際教員指導環境調査(TALIS)の2013年のデータでは、我が国の教員の1週間あたりの勤務時間は53.9時間であり、調査参加国平均の38.3時間と比べて極めて長く、参加国最長であることが示されている。
 なお、教員が指導(授業)に使った時間は、参加国平均では週19時間に対し、日本の教員は週18時間程度であり、我が国の場合、授業以外の業務に多くの時間を費やしている。例えば、「一般的事務業務(教員として行う連絡事務、書類作成その他の事務業務を含む)に使った時間」は、参加国平均2.9時間に対し5.5時間、「課外活動の指導(例:放課後のスポーツ活動や文化活動)に使った時間」については、参加国平均2.1時間に対し7.7時間と顕著に多い。

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5.教育現場への支援

 現在全国の自治体で教育現場のICT化が進められており、ハードウェアの整備について、今後さらに普及が進んでいくと考えるが、教育のICT化が普及していくうえで、それを利用していく教育現場への支援が、今後のポイントになっていくものと考える。
 ICT教育の目的である教育の情報化を通じて教育の質の向上を図るためには、教員がICTを効果的に活用した授業を展開することが重要となっている。
 しかしながら、教員の校務の多忙化が指摘されており、ICT化により教員の事務負担の軽減を図り、子どもと向き合う時間を確保することが求められる。そこで重要になるのが、ICT支援員の配置である。
 全国で教育のICT化が進み、電子黒板やタブレット端末などのICT機器の普及が進む中、国ではさまざまな活用事例の紹介を行い、民間企業では授業用のアプリケーションが開発されている。
 しかし、学校でのICT導入に際しては、どのような事例があるのか、どのようなアプリケーションがあるのか、ICT機器の操作方法はどのようなものであるのか、また、既存の授業に取り込めるかなどの調査・研究が必要になり、教員の負担がさらに大きくなってしまう。
 また、公立中学校では教員の人事異動があり、今までICT機器を利用せずに授業を進めてきた教員にとっては、一からスキルを学ばなければならず、教員にとっても学校にとっても負担が大きくなってしまう。
 そこで、環境整備・調査、問題解決、打ち合わせ、事前準備、授業支援、事後フォロー、講習・研修、校務支援をおこなうICT支援員を配置することが求められる。
 ICT支援員が校内にいることにより、教員は機器のトラブル対応、教材研究や準備に時間を取られず授業に専念することができ、また、教員が現場で感じた疑問や提案を即座に相談するなど、日常的に研修を行うことができる。また、学校には教材や指導方法などノウハウが蓄積されるため、人事異動で教員の入れ替えがあったとしても、学校内での講習・研修などを行うことにより、ICT環境での指導をフォローすることができる。

6.まとめ

 教育のICT化は、授業の効率化、明確化により、児童生徒の学力向上を図ることが目的である。ICT設備が充実しても、その設備を有効活用する土台がなければ、目的を果たすことは難しい。ICT環境を整備する場合、まずは教育現場の実情に合わせ、何が必要なのか、どのように活用できるのかをすり合わせていく必要があるように思う。

【主な参考資料】

・文部科学省「学びのイノベーション事業実証研究報告書」

・文部科学省「平成26年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(平成27年3月現在)」(平成27年10月)

・OECD「国際教員指導環境調査(TALIS)2013年調査結果の要約」

・原田理恵子・森山賢一編著「ICTを活用した新しい学校教育」北樹出版