Vol.209-2 地球温暖化対策に向けて
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 安部 洋
1.はじめに
平成27年11月30日から12月11日まで、フランス・パリで気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)、京都議定書第11回締約国会議(CMP11)が開催され、京都議定書以来の新たな枠組みである「パリ協定」が採択された。これは、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む初めての枠組みとなり、世界の温暖化対策の一つの転換点と言える。そこで、地球温暖化の現状やその対策に向けた今後の方向性等について取り上げ、概観してみたい。
2.地球温暖化とは
地球温暖化とは何か。地球温暖化対策推進に関する法律(平成10年10月9日法律第117号)においては、「人の活動に伴って発生する温室効果ガスが大気中の温室効果ガスの濃度を増加させることにより、地球全体として、地表、大気及び海水の温度が追加的に上昇する現象をいう」と規定されている。また、「温室効果ガス」とは、温室効果をもたらす大気中に拡散された気体のことを指す。特に産業革命以降、代表的な温室効果ガスである二酸化炭素やメタンのほかフロンガスなど人為的な活動により大気中の濃度が増加の傾向にある。地球温暖化の原因となっている温室効果ガスには、様々なものがあるが、中でも二酸化炭素が最も温暖化への影響が大きいガスである。
3.地球温暖化による影響
地球温暖化は、気温の上昇を始めとする様々な気候変動をもたらしている。気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」という。)が発表した第5次評価報告書統合報告書によれば、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まるとしている。こうした気候変動の影響に伴い、世界や日本において観測されている事実及び将来予測を整理すると次のとおりである(図表1)。
【図表1】気候変動に伴う観測事実及び主な将来予測
| 【世界】観測事実 | 【日本】観測事実 | 主な将来予測 |
気温の状況 |
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降水量の |
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海の状況 |
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雪氷圏の |
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二酸化炭素濃度の状況 |
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4.温室効果ガスの排出状況
(1)二酸化炭素排出量
過去20年間における大気中の二酸化炭素濃度の増加のうち、4分の3以上は、石炭・石油など化石燃料等の燃焼によるものである(図表2)。したがって、二酸化炭素排出量を減らすためには、化石燃料等のエネルギー使用を抑制していくことが必要である。
【図表2】化石燃料等からのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化
出典:電気事業連合会「原子力・エネルギー図面集」
(2)日本の温室効果ガス排出量
我が国の温室効果ガス排出量は、2010年度以降増加傾向にあったが、2014年度の速報値は、対前年度比3.0%減少している。環境省の分析では、前年度と比べて排出量が減少した要因として、電気消費量の減少や電力の排出原単位の改善に伴う電気由来の二酸化炭素排出量の減少により、エネルギー起源の二酸化炭素排出量が減少したとしている。また、2005年度と比べ2.2%減少しているが、その要因としてオゾン層破壊物質からの代替に伴い、冷媒分野においてハイドロフルオロカーボン類の排出量が増加した一方で、産業部門や運輸部門におけるエネルギー起源の二酸化炭素排出量が減少したことが挙げられている(図表3)。
【図表3】我が国の温室効果ガス排出量(2014年速報値)
出典:2015年11月 環境省「2014年度(平成26年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」
5.エネルギー動向について
二酸化炭素排出量が多いのは、化石燃料等の燃焼に占める割合が大きいことは先程述べた。そのため、二酸化炭素を排出しないエネルギーへ転換していくことが必要になる。ここでは、日本のエネルギー動向と二酸化炭素排出量が低減しているドイツの動向について検証してみる。
(1)日本のエネルギー動向
日本の一次エネルギー[1]国内供給構成の推移を見ると、1960年は石炭が58.8%、石油が34.2%であったが、1970年には、石油が71.8%、石炭が24.0%と石油が大量に輸入されるにつれ石油への燃料転換が進んだ。2013年には石炭は26.5%と増加傾向が見られ、石油の44.9%を合わせた化石燃料等は71.4%と推計される。依然として、化石燃料等はここ数年7割程度で推移している状況である(図表4)。
【図表4】日本の一次エネルギー国内供給構成の推移
注 :2013年は推計値
出典:2015年 経済産業省資源エネルギー庁「平成26年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2015)」を山梨総合研究所で加工
(2)ドイツのエネルギー動向
ドイツは、二酸化炭素排出量の低減に成功している。ドイツの二酸化炭素排出量は、1971年は978.19百万トンであったが、2013年には759.59百万トンまで減少している。一方、日本では1971年はドイツよりも低く750.65百万トンであったものの、2013年には1,235.06百万トンとドイツのおよそ1.6倍まで増加している(図表5)。
【図表5】化石燃料の燃焼によるCO2排出量の推移
出典:GLOBAL NOTE「CO2二酸化炭素排出量(IEA統計)」を山梨総合研究所で加工
ドイツの取組で注目したいのが再生可能エネルギー[2](※注2)の促進である。ドイツでは、再生可能エネルギーによる一次エネルギー供給量は増加を続けており、過去10年で2倍以上増加している。2012年で比較すると、ドイツの再生可能エネルギーによる一次エネルギー供給量は日本の約2.5倍となっている。また、再生可能エネルギーによる一次エネルギー供給において、バイオマス・廃棄物の割合が高い傾向にある。さらに、近年では、太陽光発電、風力発電による一次エネルギー供給が増えつつある(図表6)。
一方、再生可能エネルギー利用により回避した温室効果ガス排出量は、2011年において約1億2,900万トンとなっている(図表7)。
このことから、再生可能エネルギーの活用が温室効果ガス、ひいては二酸化炭素削減に一定の効果を与えていると考えられる。
【図表6】日本とドイツの一次エネルギー総供給に対する再生可能エネルギーの割合
出典:株式会社三菱総合研究所 環境・エネルギー研究本部「平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書」
【図表7】2011年ドイツにおける再生可能エネルギー源のエネルギー供給や温室効果ガス排出量削減への寄与
出典:環境省「2011年のドイツにおける再生可能エネルギー(2013年ドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省)」
6.再生可能エネルギー導入に向けての課題
再生可能エネルギーの導入については、設備の価格が高く、日照等の自然状況に左右されるなどの理由から現在は利用率が低い、火力発電などの既存のエネルギーと比較すると発電コストが高いといった点が指摘されている。また、地形等の条件から設置できる地点も限定されている。さらに、再生可能エネルギーが大量導入された場合、休日など需要の少ない時期に余剰電力が発生したり、天候などの影響で出力が変動に伴い安定供給に支障が出る可能性もあるとされている。こうした課題をどのように解決していくのか模索していく必要がある。
7.まとめ
地球温暖化対策についてまとめると、温室効果ガスの排出量抑制、特に二酸化炭素の低減が重要である。また、大気中の二酸化炭素濃度のうち、化石燃料等の燃焼に伴い発生する二酸化炭素が占める割合が高く、二酸化炭素を排出しないエネルギーとして、再生可能エネルギーが地球温暖化対策に大きく寄与すると考えられる。
克服すべき課題はあるが、日本の一次エネルギー供給における再生可能エネルギーへの導入が今以上に促進されることを期待したい。
○ 参考及び引用文献等について(順不同、敬称略)
- 2012年環境省「IPCC 第5次評価報告書の概要 ― 第1作業部会(自然科学的根拠)―」
- 2015年環境省「平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
- 2015年10月5日 環境省 地域環境局 地球温暖化対策課 課長 土居 健太郎「再生可能エネルギーによる地方創生(国際シンポジウム「温暖化対策と地方創生をつなぐ再生可能エネルギー)」
- 2015年11月 環境省「2014年度(平成26年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」
- 2015年 経済産業省資源エネルギー庁「平成26年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2015)」
- GLOBAL NOTE「CO2二酸化炭素排出量(IEA統計)」
- 環境省「2011年のドイツにおける再生可能エネルギー(2013年ドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省)」
- 2013年3月 環境省「ドイツにおける再生可能エネルギー導入促進施策等に関する動態調査業務報告」
- 電気事業連合会「原子力・エネルギー図面集」
- 経済産業省資源エネルギー庁「なっとく!再生可能エネルギー」
- 三省堂「大辞林」
[1]一次エネルギー:人間が利用するエネルギーのうち、変換加工する以前の、自然界に存在するもの。薪・木炭,石炭・石油・天然ガス,太陽放射・地熱・風力・水力,原子力など。
[2]再生可能エネルギー:ここでは「エネルギー供給業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な促進に関する法律(平成21年政令第222号)」において規定される「太陽光、風力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマス等」とする。