VW問題とエコカー競争
毎日新聞No.453 【平成28年1月8日発行】
環境先進国ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れは世界中に驚きをもたらした。 昨年9月、米環境保護局はNOxなどの有害廃棄物規制逃れの違法ソフトを搭載したとして、VWが米国で販売したディーゼル車48万台の改修を求めた。11月には、VW自ら二酸化炭素(CO2)排出量や燃費、ガソリン車にも不正があったことを明らかにした。このソフトは2007年に世界的な自動車部品大手ボッシュ社がVWにテスト用として納入したという。また、欧州委員会の研究機関が2011年に自動車各社のディーゼル車について走行実験を行い、EUの排ガス基準を満たした車はなかったという報告書をまとめていたことも明らかにされ、欧州委員会は早い段階から不正の可能性を認識していたようだ。
過去20年、欧州各国と自動車メーカーはガソリン車よりも環境に優しい車としてディーゼル車を推進し、欧州では新車販売に占める割合は2014年には5割を超えた。一方、日本ではハイブリッド車を推進し、トヨタのハイブリッド車は世界累計販売台数800万台に達した。今後、検査基準の強化によって、欧州における環境技術推進の流れが変わる可能性が高い。
VWの不正が発覚したのは米国カリフォルニア州であるが、世界一環境規制が厳しい。カリフォルニア州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無公害車)規制は、エコカー普及推進の先頭に立つもので、州内で6万台以上の自動車を販売するメーカー(クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタ)は、その14%をZEVである電気自動車、燃料電池車やPZEV(部分的なZEVとみなすハイブリッド車、天然ガス車などの低公害車)にする必要がある。2018年からは、販売台数の16%へと嵩上げされ、PZEVの認証もプラグインハイブリッド車などに限定される。また、対象企業も現在の5社に加え、販売台数が中規模のメーカー6社(BMW、ダイムラー、現代、起亜、マツダ、VW)に拡大する。
2014年の電気自動車などの販売台数はリーフ(日産)6万台、アウトランダーPHEV(三菱)3万台と日本メーカーが2強で、7割の車が欧米へ輸出されている。環境技術のさらなる進化を期待したい。
(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)