Vol.211-2 色をいかしたまちづくり


-景観計画から地域の色について考える-

公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 渡辺 たま緒

 1.はじめに

 「なんだか街に特色がない」。山梨にUターン就職した頃に思っていたことだ。
 転職して英国のロンドンに暮らし、週末には英国各地、周辺ヨーロッパ諸国に足を伸ばし、街を歩きまわった。街を少し歩けばその街の特徴が前面に現れる。一歩足を踏み入れてまず感じるのは「色」である。ロンドン、パリ、ベネチア、バルセロナ…それぞれの街で、色が街を形作っているような感覚になったことを覚えている。
 もう一度山梨に戻って真っ先に感じたのは「違和感」だ。さまざまな住宅、ビルが並び、看板、のぼり旗、自動販売機が乱立している。澄みわたる青空は何本もの電線に視界を遮られる。無秩序である。
 無秩序が魅力になる街もある。旅行の口コミサイト・トリップアドバイザーの「外国人が選ぶ日本の観光地ベスト30」では、2014、15年と連続して「渋谷センター街」がランクインした。高層、低層のビルがひしめき合い、老若男女があふれる雑踏感が理由のようだ。
 渋谷と山梨、同じ無秩序でなぜ印象が変わるのか。山々や田畑が広がる風景の中に、街が雑然と〝入り込んだ〟印象を抱かせるからだろうか。
 人の五感のうち、目から得る情報は8割以上を占めるといわれる。大きさ、形、色、奥行きといった視覚からの情報を考えると、色が印象に与える影響は小さくない。街の「違和感」は色で解決できるかもしれない。
 ファッション界では最近、パーソナルカラー(個人個人の雰囲気や肌の色味によって異なる似合う色)が一般的に使われるようになった。ネクタイの色やスーツの選び方を就職活動の学生に伝授する講座が開かれているように、パーソナルカラーを身につけることは、個人の印象を引き上げるといわれている。
 パーソナルカラーが存在するように、リージョナルカラ―(※regional=地域の)とも言うべき地域に似合う色、訪れた人に好印象を与える色で街が形成されていたら、その街は数倍魅力的になれるのではないだろうか。魅力的な街は、人口流出を抑え、移住を促進し、観光客を多く呼ぶ。山梨に暮らし、その良さを年々強く感じる。色でその魅力を表すことができるのなら、こんなに嬉しいことはない。
 では、山梨の「地域の色」はどんな色だろうか。色彩の意図的な活用に関する文献をみながら考察してみたい。

2.色の効果

 近年は、色による心理分析といった出版物やインターネットサイトを多々見かけるようになった。赤は「熱い、危険、闘争、情熱的な、活動的」等、黄色は「希望、喜び、賑やか、幼稚、嫉妬」等、緑は「安らぎ、癒し、さわやか、平凡、未熟」等、青は「冷静、知的、信頼、孤独、憂鬱」などと、色のイメージは固定化されている。
 こうした色彩学、色の心理的効果の応用は多分野で取り入れられている。医療では医師の手術後の残像を抑制するため、手術室や手術着を赤の補色である青色にしている。防犯分野では、米国の刑務所が壁や床を淡いピンクに塗り替え、囚人間の争いの減少につなげたケースがある。英国のショッピング街は外灯を暖色から青色に変え、犯罪を激減させている。犯罪抑止効果が見込まれる青色外灯の導入は、LED灯の普及を受け日本でも進んでいる。
 経済分野でも商品パッケージ、広告、インテリア、ファッション、作業効率、安全など、色彩の研究は各地で行われている。米国では、20世紀に多くの研究者が色が経済活動や生活に与える影響を探っている(「色彩心理のすべてが分かる本」山脇惠子著 2010年)。

3.景観計画

 日本では、高度経済成長期に景観問題が各地で浮上したことを背景に、国が平成16年、「都市、農山漁村等における良好な景観の形成」を図ろうと景観法を制定した。景観法に基づく景観行政団体となった自治体は景観計画を定め、計画区域内の建築物の高さや建造物の色に制限を設けることができる。
 国土交通省によると、景観計画の策定団体は360団体(平成25年1月1日現在)。山梨県内で景観計画を策定したのは21市町村(平成28年1月1日時点)であり、今後5市町で策定を予定している。(表1)

表1 山梨県内市町村の景観計画策定状況

名 称

年月

甲府市景観計画

H24

2月1日

大月市景観計画

H25

7月1日

韮崎市景観計画

H25

10月1日

南アルプス市景観計画

H23

4月1日

北杜市景観計画

H23

10月1日

甲斐市景観計画

H27

4月1日

笛吹市景観計画

H25

6月1日

甲州市景観計画

H25

4月1日

中央市景観計画

H27

4月1日

市川三郷町景観計画

H27

7月1日

早川町景観計画

H27

12月1日

身延町景観計画

H26

4月1日

富士川町景観計画

H25

9月1日

道志村景観計画

H27

4月1日

西桂町景観計画

H26

10月1日

忍野村景観計画

H23

10月1日

山中湖村景観計画

H22

8月1日

鳴沢村景観計画

H27

10月1日

富士河口湖町景観計画

H25

4月1日

小菅村源流景観計画

H26

4月1日

丹波山村景観計画

H26

1月1日

【出典】山梨県

4.環境色彩、景観色彩

 景観計画では、建築物の高さ、看板の大きさ等に加え、色彩基準を設ける自治体も多い。「環境色彩」、「景観色彩」と呼ばれるものであり、それに関する文献も多い。
 「環境色彩」や「景観色彩」とは何か。「景観からのまちづくり」(鳴海邦碩編)では、「環境色彩とは特に地域性ということにスポットをあて、情緒的な判断をし、数値化等により色彩を科学的にとらえようとするもの。建築単位の色を扱うのではなく、周辺環境との関係の中で、その場所の色彩のあり方を位置づける考え方」としている。
 「都市と色彩」(吉田慎悟・藤井経三郎共著)では、「環境を構成する要素の色彩を相対的に捉え、その相互関係をコントロールし、美的な景観を創造しようとする」こととしている。「風土色による色彩学のすすめ」(尾崎真理、佐久間彰三著)では、「都市環境における色彩には地域の土壌の色を基本にして、植生や花、空と水などの色から採取される自然環境の色と、歴史(伝統)的建築物、祭り、工芸品等の色から採取される歴史・文化環境の色とから成り立つ〔風土色〕がある」とし、「環境色彩」や「景観色彩」について「風土色」という視点を示している。
 山梨県の「美しい県土づくり推進委員会」委員を務める色彩計画家の加藤幸枝氏は、建設コンサルタンツ協会誌「Consultant」269号で「地域に長くあるもの・蓄積されてきたものの色彩を知り、それらを尊重することにより地域固有の風景を育てて行く」ことを「環境色彩」の手法とし、これはフランスのカラリスト、ジャン・フィリップ・ランクロ氏が提唱した「色彩の地理学」という方法論が基盤であり、同氏の「地域には地域の色がある」という考察を紹介している。
 「環境色彩」や「景観色彩」、「風土色」など用語もさまざまあり、確立された定義がないようにも見えるが、どの文献にも共通していることは、「地域や環境が持つ独自の色を探し出し、その調和により構成される」と読みとれるのではないだろうか。この「地域の色」を捉えることが重要な要素になりそうだ。

5.色彩計画等に見られる基準色の決め方

 では、「地域の色」はどのように見つけていけばよいのだろうか。
 色彩計画やガイドラインをつくっている自治体の取り組みをみると、そのほとんどが色の国際的な尺度である「マンセル表色系」を利用している。マンセル表色系は、色を色相・明度・彩度という3つの尺度によって、記号化して表す。
 各自治体ともに区域を分けながら、写真やフィールドワークにより、土壌や建物、空、自然の緑といった実際の色を採取し、マンセル表色系で採取色データを確認。さらに、文化(祭り)や歴史等で使われてきた色を把握し、「地域の色」として、基準色などを決めるのが大きな流れになっているようだ。各自治体における基準色はどのようになっているのか。いくつかの自治体の基準色や推奨色を見てみた。(図1)

図1 各地域における基準色・推奨色

211-2-1

大阪府景観色彩ガイドライン
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/2687/00005055/view_colour_guide_line.pdf

211-2-2

鈴鹿市色彩ガイドライン
http://www.city.suzuka.lg.jp/kouhou/gyosei/plan/keikan/guide_04.pdf

211-2-3

那須塩原市景観色彩ガイドライン
http://www.city.nasushiobara.lg.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/001/337/4bac06d5002.pdf

211-2-4

甲府市・風致地区内で使用できる色
https://www.city.kofu.yamanashi.jp/toshikekaku/sikisaikaisetu/documents/sikisaikijunnokaisetu.pdf

 これを見ると、基準色の範囲は多くの自治体で重なりあっている。重なりあった基準色で「景観色彩」を整えていけば、景観を乱すことはなくても、「没個性」とはならないだろうか。

6.場所の個性を形作る原点とは

 ここで、そもそもの地域や場所について考えてみたい。
 「場所の現象学」(エドワード・レルフ著)では、場所は人間の内部と外部を分けるものであるとし、「私たちの場所の経験には、社会の一員としても個人としても、この特別な場所に対する緊密な愛着、つまりここを知ることと、ここで知られることの一部である親近感を伴うことが多い。私たちの『根(ル)もと(ーツ)』を構成するのはこの愛着である」とし、景観をつくることについて「愛着と能力の再生が必要である。さらにいえば、テクニークとは無関係なところに、これを実行する可能性があるように思える。なぜなら、場所のセンスは本質的に科学の対象以前のものであり、相互主義的なものだからだ」としている。
 また、山梨県出身の思想家・中沢新一氏は著書「アースダイバー」で、地形や地層、縄文時代などまでさかのぼった文化や、これまでに起きた事象などと都市の成り立ちには深い関係があるという視点を示している。
 これらは直接色について言及しているものではないが、大事に守られてきたものや、そもそもの地形や地層、出来事といった土地の背景に対する視点の重要性を確認できる。

7.まとめ~地域の色の表現とは~

 「日本列島・好まれる色 嫌われる色」(佐藤邦夫著)では、地域住民の無意識心理のうちにはエリア・アイデンティティー・カラ―が根強く潜んでおり、それは地域住民の色の嗜好を調査することで引き出せることを示している。「景観色彩計画」(日本カラ―デザイン研究所著)では、日本の地域の色は「ヨーロッパ諸国のように色の使い方の明らかな差異は見られないが、微差を求めるのが日本の伝統文化である」とし、伝統工芸や祭礼といった「文化環境色」は個性が強く出ている部分と説明している。同研究所が開く「まちづくり景観セミナー」では、住民イメージに加え、この文化環境色の現地での把握の重要性を指摘し、商店街ののぼりや暖簾を「文化環境色」で統一するなど、少しずつながらも「地域の色」を模索している事例を取り上げている。
 テクニック偏重にならず、場所への愛着、地層や地形、成り立ちをも包含した「地域の色」を見つけ、どう表現していくのか。
 その答えは、この地にある色の意味や背景について日ごろから意識的に考え続けて初めて得られるものであると感じる。
 山梨県内の景観計画はまだ始まったばかりだ。今後の動向に注目していきたい。

<参考文献等>

山脇惠子著 色彩心理のすべてがわかる本

鳴海邦碩編著 景観からのまちづくり

吉田慎悟・藤井経三郎共著 都市と色彩

尾崎真理+佐久間彰三著 風土色による色彩学のすすめ

加藤幸枝寄稿 建設コンサルタンツ協会誌「Consultant」269号

エドワード・レルフ著 場所の現象学

中沢新一著 アースダイバー

佐藤邦夫著 日本列島・好まれる色 嫌われる色

日本カラ―デザイン研究所著 景観色彩計画

国土交通省 景観法アドバイザリーブック

山梨県 美の郷やまなしづくり基本方針

山梨県ウェブサイト

大阪府ウェブサイト

鈴鹿市ウェブサイト

那須塩原市ウェブサイト

甲府市ウェブサイト