VOL.69 「1・245」


 今年度、「総合戦略と人口ビジョン」を策定し、この4月からは、いよいよ描いた将来像を実現するために具体的な活動が始まる。仕事柄、策定のための審議会にもいくつか参加したが、語られた内容の本丸は移住者の獲得であり、そのための手段として「地域資源・地域の特色の利活用」であった。平成の合併以前、山梨県には64の市町村があった。行政効率化のもとに市域は拡大し、資源は分散した。そして、今もって効率化のための仕組みづくりを模索している感もある。
 問題解決の処方箋は企業も家庭もそうであるように、主体ごとに様々であることが多い。そして、解決に向けた行動は焦点を絞って熱量を上げて取り組むことが肝要である。それらを想う時、果たして市町村合併は正解であったのかと、ふと考えてしまう。
 社会の大きな変化は、人心にも大きく影響を与え価値感の変革さえもたらす。
 事実、大都市圏からの移住者は自治体の移住支援策などの充実もあり、年々増え続けている。NHK・毎日新聞社・明治大学地域ガバナンス論研究室(小田切徳美教授)が行った共同調査によると、2009年度の地方移住者は2,864人、14年度は11,735人と、5年で4倍になっている。また、総務省所管の地域おこし協力隊も、09年度89名だったものが14年度には1,511人となり、この16年度には3,000人を目標に掲げている。
 アンケートによると、「移住の決め手は」、「移住後の暮らしの良いところは」に対して「人」という回答が多いという。この「人」は、受け入れのコーディネーター、移住の先輩、地域の長老などなど様々な「人」が考えられる。
 「1・245」は1889年(明治22年)、市町村制が施行されたときの山梨県の市・村の数である。市域は広がり、資源は分散したが、コミュニティーは小さい範囲で残っている筈である。現行自治体の制度を使いながら、旧村単位での受け入れ態勢がとれないものだろうか。

(主任研究員 末木 淳)