素直に甘えて


毎日新聞No.459 【平成28年4月1日発行】

 最近、犬を飼い始めた。新しい〝家族〟を迎えるにあたり用意しなければならないものは少なくない。ペット用品売り場へ行き、その品揃えに驚いた。多種多様のペットフードはもちろん、おやつ、おもちゃ、洋服、ベッド、散歩用エチケット袋、シャンプー、しつけ用商品、おむつから生理用品まである。
 関連サービスでは、動物病院、シャンプーやトリミングなどの美容関連、しつけ教室、ペットホテル、犬(猫)カフェ、レンタルペット、ペット保険、雑誌や書籍など市場の裾野は広い。

 ペットフード協会(東京都千代田区)の平成27年全国犬猫飼育実態調査によれば、犬の飼育頭数は991万7000頭で、これは10歳未満の人口1050万1000人(総務省統計局平成27年10月1日現在)にほぼ匹敵する。また、犬にかける1カ月あたりの支出総額(医費等含む)は7841円で、前年から10.6%も増加した。
 愛犬がはちきれんばかりに尻尾を振る姿や、何の疑いもなく甘える仕草に嫌悪感を覚える人はいないだろう。番犬よりも室内犬が増えている事情も考えれば、ペット関連の市場がここまで広がる理由がうなずける。

 話は変わるが、山梨総合研究所では他団体の研修業務を請け負うことがある。研究員たちはファシリテーター(促進役)となり研修を進める。実施する研修内容の充実のため、昨年度末には研究員全員がファシリテーター・トレーニングを受けた。「社会課題が複雑化し、利害関係者が多様化している中、協同することが鍵となる。ファシリテーターは最初のステップとして、人と人の関係性の質を上げる役割を担う。そのためには相手を尊重し、互いの思いを大切にする『安全な場づくり』が必要」とした講師の言葉が心に残る。
 きょう、新入社員を迎えた職場も多いことだろう。犬のように尻尾を振って、とは言わないが、新入社員・新入職員の方々は、上司や先輩に素直に本音を話してみてほしい。そして先輩はそれを受け止める人であってほしい。それが関係性の質を上げ、職場を円滑にする第一歩となる。

(山梨総合研究所 研究員 渡辺 たま緒)