新しい“勤勉”のすゝめ
毎日新聞No.460 【平成28年4月15日発行】
今日の日本は少子高齢社会である。「2060年には8,670万人と、今より約4,130万人の人口減少(▲32.3%)が見込まれる」との国立社会保障・人口問題研究所の推計も出されるなか、日本人の働き方を改める必要があるとの声も聞かれる。働き方の質の向上に向けて、既成の働き方の改革による生産性の向上が、必要なのだろう。
昨年12月、政策シンクタンクPHP総研は、「新しい勤勉(KINBEN)」という、これまでの日本人の働き方の価値観の転換を提案した。「労働時間の長さ」こそが勤勉である、とする従来の日本人の働き方の価値観を転換し、社会全体として生産性が高まる働き方へと方向転換しなければならないとするものだ。この価値観の転換は、“地方創生の戦略づくり”をお手伝いした私にとって、大変興味深い内容でもあるので、その一部を紹介してみたい。
報告書には、「新しい勤勉(KINBEN)」に関する7つの提言が示されており、特に、提言⑤企業は自社の「働き方」に関する方針や情報を開示する、と提言⑦「新しい働き方」を促進する「新しい場」を創出する、に共感を覚えた。提言⑤の「働き方の見える化」と提言⑦の「プロボノ(Pro bono)、二枚目の名刺、兼業の普及」は、“地方創生”を確かなものとしていくために、地方が抱える喫緊の課題である「人材不足」への解決策の一つとして、捉えることがおもしろいと思った。
地方に人を呼び込むインセンティブとして、地方に来れば、企業等での労働時間や有給取得率などの情報開示により、自分の生き方に見合う総労働時間(働き方)の選択が容易となり、専門的な知識や技術を社会に役立てるボランティア活動であるプロボノが柔軟に行え、本業の他に別の仕事を持つ“兼業”を積極的に容認するといった仕組みを、山梨から発信しこの地に定着させる。そして、今よりちょっとだけ、働く個人を一つの会社や組織から解放し、社会全体に活かすことが出来れば、もっとしなやかに、もっと元気に、地域での起業や社会を良くする活動への機運が高まるのではなかろうか。併せて、地域文化の継承や地元企業の承継も円滑に進むことが期待できる。
大げさかも知れないが、地方創生には、この「新しい勤勉(KINBEN)」という、新たな勤労の価値観への転換が必要なのかもしれない。
(山梨総合研究所 主任研究員 相川 喜代弘)