Vol.213-1 ラグビーは素晴らしい
~我々はラグビーワールドカップ2019日本大会を成功させる!
株式会社はくばく 代表取締役社長
長澤 重俊
<はじめに>
2015年9月19日。ラグビーワールドカップ2015ロンドン大会において、日本代表が優勝候補の一角である世界の強豪・南アフリカ代表に34-32で勝利した日である。ラグビーと言うスポーツは、非常に番狂わせが起きにくい。要するに地力に勝るチームが順当に勝つのが常である。しかしこのスポーツは実力が伯仲したチーム同士が戦うときには、しばしば大きな感動を呼ぶドラマが起きる。この日の日本代表は正にその感動的なドラマを演出した。世界が認める難敵に引き分けを良しとせず果敢に勝利に挑み、ラストプレーでそれを実現すると言う最高の勝利。ラグビーに関心をもつ世界中の人々が驚きと共に感動したと思われる。つまり日本代表は世界トップレベルの力を備えていたことを堂々と証明したのである。
この日から日本でのラグビー熱が何十年かぶりに高まったことを肌で感じていた。私も大学4年間、社会人で3年余り、短い間ではあったがラグビーに打ち込んだ時期があった。そしてこの厳しいスポーツを通じて、自分の人格を形成してもらったという想いもある。だから、この時期にラグビーの為に何かするべきではないか、というようなことを漠然と考えていた時期にちょうど声が掛かった。
<ラグビーへの恩返し>
2015年も年末に差し迫ったころ、2019年のワールドカップ日本大会に対して全国に先駆けて山梨全県でラグビーを応援する組織を立ち上げたい、という相談を古くから山梨のラグビーを支えてきた方々から受けた。「これは面白い!」と思った。2019年の日本大会は日本ラグビー界にとってどうしても成功させなければならないとても重要な大会である。逆に失敗すればこの大会以降ラグビーを日本で盛り上げることは非常に難しくなるだろう、という危機感も同時にある。そこに向けて、先のロンドン大会での日本代表による大活躍で生まれたこのラグビー熱をさらに盛り上げていく必要性を個人的に感じていたときだけに、大いに魅力に感じた。
その時に頭に浮かんだ言葉は「ラグビーへの恩返し」。
これまで20年ほどラグビーからすっかり遠ざかってしまっていたが、ラグビーに育ててもらったという想いはずっと持ち続けてきたつもりだ。社会人として仕事をしていくうえで、ラグビーで培ったものは大いに役に立った。
例えば、仕事に対して取り組む姿勢。厳しい時にこそ、自分を信じて全力を尽くすこと。試合中にがたがた言っていても始まらない。足を搔いて前へ進め。黙って強いスクラムを組むことに集中しろ、と教えられた。仲間を信じろ。自分一人では勝てない。自分がベストなプレーをして、味方もそれに応えて最高のプレーを返す。そういう信頼関係の中から勝利をつかむ喜びも知った。
例えば、人と出会い親しくなっていく過程。どんな人にもできる限り裃脱いでフランクに接する。大きな声で腹から笑う(これは当然時と場合を選ぶが・・)。絶対に嘘をつかない。言い訳をしない。特にラガーマンと出会うと、このことはさらに強く実感した。お互いに腹から大きな声で笑って親しくなる快感。高校、大学、クラブが違ってもラグビーを真剣にやっていた、という事だけですぐに親しくなれる。相手を信頼できる。これはラグビーをやった者への神様からのご褒美かもしれないとかねてから感謝している。
もちろん学んだことはきれいなこと、誇れることばかりではない。改めて自分の弱さを突き付けられたのもラグビーからだ。大学時代、ケガをして通常の練習からけが人用のメニューに移るのだが、問題はいつそこから復帰するか?ということ。当時はこの判断はかなりの部分本人に委ねられていた。本当ならばもう練習に戻れるのだが「あと1日、けが人にしておこう・・」と嘘をつくずるい自分がいた。自分のことを「なーんだ。俺ってそんなものか・・・。」と思ったが、やはり厳しい練習には戻れなかった。
<ラグビーの良さ>
私はラグビーの真骨頂は勇気溢れる低いタックルにある、と思っている。想像してみてほしい。身長180cm超、体重90kg超のどでかい男が正面から全速力で走ってきたときに、自分がその選手を止めるためにタックルに入るべきポジションにいる時のことを。それは怖い。やっぱり怖い。無我夢中だ。やるしかない。行くしかない。考えている余裕などない待ったなしの状況。そして皆の為に勇気を振り絞ってタックルに入る。そしてそれが見事決まって、相手が仰向けに倒れる(なんてことは滅多にないが・・・)。これがラグビーにおける最高の瞬間だと思っている。そしてこのシーンには続きがある。この一人の勇気にチームメイト全員が鼓舞されるのだ。「アイツが見せたあの心意気。よーし、俺も行ったるぞ!」という勇志がチームに満ちていく時の快感。これぞラグビーをやっていてよかった、と思う一つの瞬間だ。
良く引用されるラグビー関連の名言として「One For All, All For One」と言うものがあるが、この言葉を一番象徴するのがこういった勇気あるタックルをするものと、それに奮い立つ者の関係だと思っている。ちなみにその昔慶応大学と試合をした際、試合会場に入って来る先輩にスタンドの後輩たちが「〇〇さーん!、死んでこーい!」という掛け声を掛けていた。彼らはチームの為に死んでも良いとその瞬間は思っていたと思う。これもOne For Allの発現と言えるのだろう。
またタックルの良さは、才能の有無よりもその選手の努力の積み重ね、人間性と言ったものが優先されるということではないかと思う。足が多少遅くても、ステップが上手でなくても、タックルは努力で強くなれる。タックルした後、苦しくても真面目にすぐ起き上がって次のポイントに向かう選手が試合中多くのタックルができる。運動神経よりも絶対に止めてやる!という気持ちが大事だ。それが見る者の心を打つのだと思う。低いタックルは運動神経は少々鈍い、だがラグビーを誰よりも一生懸命やってきた者の勲章だと思う。
<ラグビーは皆のもの>
このように書いてくると、結局ラグビーはやってみなければわからないもの、と思われる方もいるかも知れない。もちろんやってみることでわかるラグビーの良さはある。これは全てのスポーツでそうだろう。でも一方でやったことがなくても良くわかるラグビーの良さも当然ある。
見る者の立場から言わせてもらうとラグビーは正に本気の戦いを観られる、と言う点が魅力だと思う。世の中が平和で、戦争がない、ということは人間が生きていくうえで何よりも優先される基本だと思う。しかし一方で太古より人間は戦ってきた。何かを守るために戦った。何かを得るために戦った。そしてその戦いの中から組織として、個人として強くなっていったのだと思う。
ラグビーは数あるスポーツの中で人間の原始的な戦いに最も近いものではないか、と感じる。ボールを持って思う存分走って良い。ボールを持っていれば、相手選手を思い切り弾き飛ばして突進して良い。守備する方も遠慮なく体をぶつけて相手を止めて良い。意外とこういうスポーツは無いものだ。こういう本来人間が持っている野性のような闘争本能を解き放って、しかし一方でそれをコントロールしながら組織で勝利をつかむ、というところが実に面白い。
どこのチームの対戦か忘れてしまったが、とにかくお互いにとって国の威信を賭けた強豪国同士のナショナルマッチを、以前テレビで観た時のことだ。試合終了直後、ひげ面の大男が汗まみれの額から血を流しながら、目からは大粒の涙を流していた。その選手のチームは負けたのだ。国の誇りを賭けて全力で戦ったが、一歩及ばず。その時の彼の泣き方にスポーツの勝敗を超えた何かを感じた。私はそのシーンを観て「ラグビーは正に戦いなんだ・・・。」と思った。こういう本気の戦いをぜひ皆さんも観て、感じてほしいのである。これは私が感じた一例だが、きっと一人ひとりこの本気の戦いから感じることはあると信じている。
<これからの展望>
2016年3月5日。「ラグビーワールドカップ2019日本大会を成功させる山梨の会」の設立総会を、多くの方の気持ちのこもったご協力をいただいたおかげで500名を超す方の参加で開催できたことは望外の喜びである。本当に心から感謝している。ここに至る一連の活動を通じて感じたことは、「ラグビーに恩返しをしたい。」と思っている方が山梨にも数多くいらっしゃること、そしてラグビーを経験していなくても、ラグビーというスポーツを心から応援したい、という方も山梨に大勢いらっしゃることだ。
この会の目的は3つある。一つは山梨県にラグビーの文化をもっと広げ、青少年の健全な育成に資すること。一つはワールドカップのキャンプ地を山梨に誘致すること。もう一つは総合球技場を設置することだ。この中でも一番この会として取り組まねばならないのは、一つ目のラグビーの良さを広げていくことだろう。
これを実現していくことはたやすいことではないが、地道に活動を継続していくつもりだ。これまで山梨ラグビー界を支えてくださった方々に敬意を表し、彼らの活動をサポート、バックアップしていくことが基本だと思っている。例えばUTY招待ラグビーの支援、ラグビースクールの応援などである。またラグビーのことを知っていただくマネジメントを行う方向けの講演会なども開いていきたい。
とにかくこのラグビーへの関心の高まりは、このスポーツをもう一度多くの人に興味を持っていただき応援していただく絶好の機会である。この機会を逃すことなく、この組織を母体にしながら、ラグビーへの熱を山梨県から全国に発信し、ワールドカップ日本大会の成功に少しでもお役に立てたならば、ラグビーへの恩返しが少しできるような気がしている。引き続きラグビーへのご支援をいただければと願っております。