好きなものを共有すると
毎日新聞No.461 【平成28年4月29日発行】
4月は甲府駅前の信玄公祭り、笛吹市の川中島合戦戦国絵巻、甲州市の武田勝頼公まつりとイベントが続いた。これらのイベントに先駆けて、笛吹市では石和温泉駅の南北自由通路、北口広場、観光案内所が2月に完成し、使用を開始した。新しい観光案内所にはワイン試飲機が設置され、笛吹市内のワイナリー10社の16本が有料試飲できる。
3月の夕方、山梨を訪れた知人を見送りに石和温泉駅に行き、「電車までの時間があるからワインの試飲をしよう」と観光案内所に入ったところ、試飲機の営業時間外で残念ながら試飲はできなかったが、幸い駅前にある足湯のおかげでゆったりとした時間を共有し、春の穏やかな夕刻を過ごすことができた。
さて、人事異動やクラス替えなど、4月は新しい出会いの季節である。新年度が始まり1か月が経とうとしているが、コミュニケーションはうまく取れているだろうか。
人は、好きなもの、好きなことを共有することで、コミュニケーションにかかる時間や労力などのコストを下げることができる。明治大学文学部の齋藤孝教授は、著書『偏愛マップ(NTT出版 2004年)』のサブタイトルを「キラいな人がいなくなるコミュニケーション・メソッド」とし、手順や具体例を紹介している。好きな音楽、好きな本、場所、車、映画、武将、お酒など、好きなものを列挙し一覧にする。単に「車」とするよりも「旧車」など、より具体的で偏っている方が良い。これを作成し見せ合うことで、自分の世界を知り、他人の世界を知ることができる。そうすることで、当たり障りのない天気の話などで時間を費やすことはなくなり、よりクリエイティブな会話を深めることができるのだ。
多様な人々が共生する社会で課題が複雑化している現在、分かり合おうとすることが関係性を高めることにつながる。
ところで、前述の石和温泉駅観光案内所について、笛吹市観光商工課に伺ったところ、3月に観光案内所を訪れた人は3千人を超え、ワイン試飲機の利用件数は千件を超えているという。ワインに興味を持った人のコミュニケーションのため、さらには人々の相互理解や課題解決のために、今まで以上に県産ワインが活用されることを願っている。
(山梨総合研究所 研究員 高橋 謙洋)