Vol.214-1 これから求められるNPOの姿


~行政との協働、政策提言を通して~

 

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NPO法人スペースふう
理事長 永井 寛子

1.スペースふうについて

 平成15年、スペースふうは全国で初の取り組みとしてリユース食器のレンタルシステムを構築しました。それまで地元増穂町(現富士川町)では、町の最大の祭り「甲州増穂まつり」の際、来場者に3,000食のほうとうを振舞い、その結果として毎年膨大な使い捨て容器のゴミを排出していました。このようなイベント開催時におけるゴミ問題は日本各地で恒常的に発生しており、行政などもその対策に頭を抱えているのが実情です。2001年、リユース食器を利用してイベントゴミの発生を抑制しているドイツの事例に出会ったのを機に、スペースふうはそれまでのリサイクルショップからリユース食器のレンタル事業へと舵を切り、それ以来、「リユース食器を通して循環型社会の実現を目指す」を目標に、リユース食器の普及にエネルギーを注いできました。現在、約16万個の容器を持ち、年間80万個~100万個を各地のイベントに貸し出しています。これまでの使い捨てから「借りてー使ってー返す(洗わずに)」のサービスを提案し、利用者にとっては使い捨て食器の利便性はそのままに、私どもが衛生管理の行き届いたなかで洗浄・消毒乾燥・検品等を行い、食器を繰り返し使用することで環境への負荷低減に努めると同時に、イベント主催者、出展者に対しても意識の向上を図っています。

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 イベント会場で目にする光景

 2.町とNPOの協働から町ぐるみの取り組みへ

 富士川町では以前からゴミ排出量の削減に積極的に取り組んでおり、私どもが当事業を開始した時から町主催のイベントなどにリユース食器を採用してきましたが、地域の方々、事業者などへの認知度は低く、平成16年に町が半額補助制度を始めましたが、平成23年までの8年間は町内のリユース食器の利用件数は年間10件程しかありませんでした。しかし、リユース食継続してきた行政との協働体制が奏功し、少しずつではありますが認知度は上がってきました。そこで行政は、平成24年にリユース食器の利用件数を増やすために、補助金予算を大幅に増額しました。そして、私どもも貸出料金を減額したところ、利用件数はそれまでの約3倍となりました。さらに、平成25年には町内事業者も加わり、「富士川町リユース食器0円プロジェクト」がスタートしました。これは、リユース食器のレンタル料26/個のうち、町の補助48%、地域貢献支援金として私どもと協賛事業者がそれぞれ29%、23%を負担するというものです。加えて、補助金申請、精算などの行政手続きについては、私どもが代行するなど、利用する町民にとっては金銭的負担だけではなく、利便性を高めるための制度が整い、町民がリユース食器を無料で気軽に使える仕組みが出来上がりました。協賛事業者に対しては、町から「環境にやさしい事業所」の認定証とステッカーが交付され、事業所内などに掲示することができるようになっています。その上で、広報活動などにも注力した結果、利用件数、利用個数とも格段に増え、その後も毎年増え続けている状況にあります(図1234)。利用個数では、町民一人当たり年間4回以上使っている計算になります。

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1.リユース食器0円プロジェクトの費用負担

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2.環境にやさしい事業所ステッカー(2015年版)
 

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3.「広報ふじかわ」平成2710月号

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4.リユース食器の利用件数と補助金額

3.環境省発=2R推進事業

 環境省は「循環型社会」を進めるために、3R(リデュース・リユース・リサイクル)のうちのリサイクルに関しては各種の法的整備を進めてきましたが、環境への負荷低減にとってリサイクルよりも実効性が高い2R(リデュース・リユース)に関しては法的整備がなされておらず、課題となっていました。2Rは非常に裾野が広く、具体的にどのような制度が必要なのか、また多方面への影響度を算定しにくく、対応が難しいということがその理由でありました。そのような中、平成25年の第3次循環型社会形成推進基本計画(循環型社会形成推進基本法(平成13年施行)を根拠とする政府計画)において「リサイクルより優先順位の高い2R(リデュース・リユース)の取り組みがより進む社会経済システムの構築」の一文を掲げ、計画における基本的方向として盛り込みました。そして具体的な取り組みとして、平成27年に「2Rシステム構築モデル事業」の公募を行いました。富士川町と私どもが取り組んでいるリユース食器の普及活動は、まさにこの事業のモデルとなり得るのではないか、との考えから富士川町に呼びかけ、応募したところ、環境省の助成事業として採用されることとなりました。

4条例化への取り組み

 環境問題は、モラルに訴えるだけでは解決できないことを現在の社会経済システムは示していると感じています。2Rは、環境への負荷低減に対して実効性が極めて高く、積極的な取り組みが求められるなか社会全体への広がりが遅々として進まないのは、法的な縛りをつくるのが難しいからなのでしょうか。そうであるなら、自分たちの町から実践してそのモデルをつくり、これを全国に発信して現状に一石を投じることはできないかとの思いが日増しに強くなっていきました。本来のイベントの楽しさを損ねることなく来場者、出展者、主催者に大きな負担を強いることなく、環境に配慮したイベントをつくる仕組みはこの町にはすでにできています。この取り組みを次のステージに進めるためにはイベントゴミ削減のためのルール作りが必要なのではないかと考えました。そして、富士川町ならば可能であるに違いないと考えました。
 ドイツでは、公共の場での使い捨て容器の使用を法や条例で規制しているところもあります。罰則規定は日本には馴染まないけれど、住民の「意志」としての制度化はできるのではないかという強い思いで、私どもは富士川町と協働で条例化に向けた作業に取りかかりました。その取り組みを紹介します。

1)2Rシステム構築推進協議会の設立

 まずは、2Rシステム構築推進協議会(以下、協議会)を設立しました。協議会の核となり、推進役となっているのが、町の担当課と私どもでつくる連絡会議です。そして、町民代表として自治会から区会長、事業者代表として商工会会長などが構成メンバーとなっています。

214-1-752Rシステム構築推進協議会運営形態 

2)調査の実施とその分析

 町民へのアンケート、ワークショップ、協賛事業者やイベント出展者へのヒアリング等を実施し、条例化への可能性を探る資料としました。調査に関しては、本事業の中でも核心的な部分となることから、調査は専門機関に委託し、信頼できるデータを提供していただきました。
 調査結果から見えてきたことは、以下のような内容です。

① 富士川町ではリユース食器の活用が既に浸透しており、条例化して更に推進していくことは、町民、事業者ともに好意的にとらえている。
② 条例というと、町民は縛られている印象をもつ可能性があり、前向きな内容・表現にしていく必要がある。よって、罰則規定は盛り込まず、楽しみながらリユース食器を使う仕組みづくりにつながるような内容を目指す。

といったものであり、条例制定に向けて住民意識が理解できたことは非常に有効であったと感じております。

3)研修会の実施

 町民、イベント関係者へのアンケートやインタビューを実施すると同時に、研修会を開催し、条例への認識を深めていただく機会をつくりました。各区の区長、環境衛生委員、町議会議員、町の職員等が参加して、山梨学院大学の江藤俊昭教授の講演、その後グループに分かれてワールドカフェ形式の話し合いを通してそれぞれの考えを深めていきました。 

5.条例案作成、町長・議会へ提出

 条例とは、地方自治体ごとに抱える問題・課題について独自に制定することができる法規であり、各自治体により、地域の特性や住民の意思を反映したものなどが制定されています。今回の取り組みは行政とNPO、そして町民、町内事業者が協働で準備を進めていくという意味では一段と特徴あるものと考えています。もちろん、条例制定には専門的な知見も必要とするので、専門家の指導を受けながら進めていきました。調査ならびに複数回におよぶ議論をもとに条例案の骨子をつくり、本年3月に町長に提出しました。同様に議会に対しても骨子を提出し、条例制定に向けての働きかけを行いました。 

6.政策提言は新たな挑戦への第一歩

 NPOは、社会の課題を解決するためにミッションを掲げ、専門分野の活動を通して社会を良くすることを目指しています。時代の変化とともに社会のニーズが多様化し、これまでのように何でも行政任せにしていた時代ではなくなりました。行政が抱えきれない社会的な課題に対し、市民が自ら行動する時代を迎え、NPOの活動の重要性はますます大きくなっています。これからは、NPOが行政に対し政策提言する機会も増すでしょう。そのためにも行政と対等に向き合う力をつけることもNPOには求められています。
 私どもはこれまで行政との協働のもと、イベントゴミの削減を図ってきました。そして今、2R推進のモデル地域として、条例案提出という大きな政策提言を実現しました。町がそれを受けてどのような対応をするか、しっかり見届けたいと思います。お任せ社会から脱却し、市民が自治する社会に変えてゆくための一歩として、今回の条例案の提出の意義は大きいものがあったと考えています。