文化観光の時代に向けて
毎日新聞No.464 【平成28年6月10日発行】
人口減少社会に突入し、地方消滅など衝撃的なニュースが頻繁に飛び込んでくる。全国津々浦々で、人口増に向けた取り組みのみならず、「交流人口を増やして新たな需要を喚起せよ」と躍起である。訪日外国人観光客による「爆買い」に刺激されてか、全国規模のイベントから一過性の屋台村のようなものまでさまざまなイベントも繰り広げられている。しかし、大きな時代の転機である。即効性ばかり期待するのではなく、じっくりと腰をすえて、持続性のある企画にも力を入れていきたいものである。そのコンセプトの一つとして「文化観光」を提案したい。
観光立国といわれる国々は押しなべて文化立国である。ちなみに、外国人観光客数を人口比で見ると、フランス132%、スペイン130%、イタリア78%だが、日本はわずか10%である。「山梨は文化不毛の地」などと皮肉る向きもあるが県立博物館に足を運べば分かるように、山梨は律令時代からその姿形を変えておらず、文化資源の宝庫である。
さて、長野県松本市で1992年以降、毎年夏に開催されている音楽祭「セイジ・オザワ松本フェスティバル」(旧サイトウ・キネン・フェスティバル)によって、松本のイメージは一変している。本県においても文化観光の芽は次々と生まれている。例えば、「清里の森」の開発を機にホームコンサートとしてスタートした「テンタイムスコンサート」(三浦章宏・東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター、藤森亮一・NHK交響楽団首席チェロ、東誠三・東京芸術大器楽科教授)は、まもなく100回を迎える。
開始当時赤ちゃんであった三浦氏の長男、文彰氏は世界最難関といわれるハノーファー国際ヴァイオリンコンクールで優勝。天才ヴァイオリニストに成長し、大河ドラマ「真田丸」のテーマ曲を辻井伸行氏と演奏しているのも彼である。
27回目を迎える清里フィールドバレエ、ワイン蔵を会場に4回目を開催したワイン映画祭、市川三郷町の二葉屋ホールではこけら落としで観世流能楽師、佐久間二郎氏(甲府市出身)を招き、能「酒の舞・猩々」が行われた。開府500年事業、富士北麓のジャズ、ヴァンフォーレ甲府などスポーツもある。このような文化資源をどのようにして地域ブランドにしていくのか。成熟社会である。効率性ばかりを追求せず真に豊かで幸せな社会に向けて、息の長い取り組みを期待したいものである。
(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)