VOL.72 「1:27」
イギリスの国民投票の結果には驚いた。紛争も対立も、政治も金融・経済もあまりに多くの世界の動きが瞬時に伝わることで、ある意味鈍感になっているのだが、この出来事は衝撃であった。事前の予測では残留票が上回るとされていた。「人生には上り坂、下り坂、まさか、がある」といった政治家がいたが、この「まさか」の勾配が急であればあるほど人は激しく動揺する。
現在イギリス国内では、スコットランド行政府のスタージョン首相が、「単独でのEU残留に向けた協議をEU側に求める方針を決めた」と宣言した。この、EU問題を契機に再びスコットランド独立に向けた動きが加速することもあるだろう。また、ロンドン市内では残留票が離脱票を上回っており、投票やり直しの署名、離脱反対デモ、さらに国家からの独立を求める署名活動まで展開されている。市民間の対立も心配されるし、離脱反対運動が全国に広がることも考えられる。イギリス国内の動揺はしばらく続くだろう。
一方、EU側ではイギリスに対して「速やかに離脱交渉に入るように」と、一見冷淡にも見える態度を取っており、ドイツのメルケル首相は、「EUという家族を抜けるからには、恩恵だけを享受することはできない」と、早々に声明を発表している。スペイン、フランス、ギリシャ、オランダなどにもくすぶるEU離脱の動きを考えると、離脱交渉においてEU側は厳しい態度で臨むのだろう。我が国においても、株価・為替に影響を与え、産業界では「ヨーロッパにおける抜本的な戦略の見直しが必要」との見解で一致している。交渉が長期化し、互いにしこりが残ることのないよう、また各国に及ぼす影響が最小限に止まるようにと願う。
しばらくはイギリスとEU27カ国の動向が気になって仕方ない。
(主任研究員 末木 淳)