地域の裁量をどう確保するか
毎日新聞No.467 【平成28年7月23日発行】
先日、仕事で栃木県日光市を訪ねた。県内某自治体の観光振興計画の策定のお手伝いをしており、日光市の観光振興の取り組みについて聞き取りを行うためである。
日光市は、山梨県内の多くの自治体と同様に「平成の大合併」を経験している。2006(平成18)年に旧日光市のほか、今市市、藤原町など5市町村が合併し、いまでは全国有数の面積を誇る。日光東照宮などの世界遺産や鬼怒川温泉などの多くの温泉を有し、全国屈指の観光地である。東京から自動車で2時間程度の距離にあり、山梨の観光地とも条件が似ている。
日光市観光協会は、日光市に7年遅れた13(平成25)年に合併し、旧観光協会単位で支部が置かれている。合併により知名度のある観光資源を多く抱え、相乗効果により地域としての競争力が高まっているのでは、と思っていたが、話を聞いてみるとそうはいかない面もあるらしい。
今回訪れた支部によると、旧協会単位で事業を実施していた時は、管轄地域のPRが自分たちの判断で自由にできたが、合併後は本部主導の体制になり、難しくなったとのこと。また、地域全体を公平にPRすることが求められるようになり、有力な観光資源を有するこの支部ではかえって地域の発信力が弱まってしまったという。なんとか、自主財源を確保し、地域の振興につながる独自の活動を行いたいと言っていた。
山梨県でも、多くの自治体で合併が進んだ時期から10年以上が過ぎた。合併のメリットは盛んに唱えられていたが、懸念されていた山間地域の衰退、住民と行政の関係の希薄化などは、杞憂に終わっただろうか。行政運営の効率化だけでなく、新たな行政サービスの実施により、合併の実施はメリットがデメリットを上回る状況となっただろうか。地域に密着した住民活動への支援が難しくなり、合併により導入された新たなルールが住民生活を窮屈にしているケースはないだろうか。
さきの観光協会の支部では、自由に活動をさせてもらえるなら、地域の観光振興のためにやりたいことが山ほどあると言っていた。自治体も観光協会も、合併により期待された競争力の強化が課題として考えられる中で、これまで培われてきた地域単位での活力・やる気も維持していく知恵が期待される。
(山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)