Vol.216-1 「桃・ぶどう」の産地から


笛吹農業協同組合 指導販売部部長 水上 一徳

1.はじめに

 いまの季節は桃の出荷の真っ最中です。最盛期は過ぎましたが、一宮西地区統合共選所では連日50トンほどの桃が共選所に集まってきます。また、8月に入ると、ぶどうも始まります。この地で生産される、「桃・ぶどう」は笛吹農業協同組合(以下、笛吹農協)にとっての一番商品であり、全国に知られた山梨県を代表する農産物です。ご存知の通り、山梨県は耕地面積が狭く、傾斜地も多いため、大量生産には適していません。限られた耕地で反収(たんしゅう)[1]を上げるためには、何よりも品質が大切になってきます。私どもも農家と一緒になってより高い品質の農産物を作ること、それを維持すること、そしてしっかりと選別して安全・安心で高品質なものを市場に供給すること。これが現在の務めと考えています。今回は、この、「桃・ぶどう」についてのマーケット事情と農業生産における現場の課題についてお話ししたいと思います。

2.海外の事情

 笛吹農協の「桃・ぶどう」は、近年では台湾・香港を中心とした海外への出荷が大きく増えています。日本の農産物の安全・安心・高品質が求められており、これらの要素が日本ブランドを形作っていると思います。「桃・ぶどう」についても、高いお金を払っても買って頂いています。これは、現地での販路が増えてきていることが大きな要因であり、販路が増えるということは、中間業者が「桃・ぶどう」を商材として積極的に取り入れていることの表れでもあります。
 先日、東南アジアの産油国として、富裕層が多く存在することで有名なブルネイ王国のエージェントが来協して、輸出に関して打ち合わせをしました。ブルネイ王国にはシンガポールもしくはクアラルンプール経由での乗り入れになるので、輸送環境それからコスト面が課題として挙げられましたが、先方からの強い要望で今秋よりシャインマスカットを輸出することになりました。今年は山梨県知事がマレーシアでトップセールスを行いますが、シンガポール、香港、台湾や先ほどのブルネイ王国、その他の東南アジアの国々で今後さらに「桃・ぶどう」を中心としたフルーツの「やまなしブランド」を作っていくことが重要だと思っています。
 この海外市場の富裕層をターゲットとした戦略は、前述した耕地面積とも関係してきます。
 傾斜地を畑地にしていくことは難しく、平地については住宅化が進み面積が少ない。その中で、高品質という付加価値を付けていく際に、その販売先としての海外富裕層は非常に重要なターゲットであり、この層にしっかりと訴求していく戦略が大切です。海外の富裕層への販売については、食味はもちろんですが、見た目が非常に大切であり、とりわけ大きいものを好む傾向にあります。それは、一番良いものを望んでおり、「大きいもの=良いもの」という考え方があるからです。もちろん、大きさだけではなく形・色・味も重要な要素ですが、特に大きいものを好む傾向にあります。
 この海外市場については岡山県が戦略的に生産・販売まで取り組んでいます。桃はなかなか難しいのですが、シャインマスカットは台湾、香港の市場をかなり押さえています。岡山県には長い間、「マスカットオブアレキサンドリア」の高品質栽培に取り組み、大きいもの、粒の張ったものを作る技術の蓄積があります。元々は山梨からの技術移入が始まりですが、追いつけ追い越せということで山梨に勝つために努力と創意工夫を重ね、シャインマスカットを作っているので評価は高く、販売戦略も奏功して、「岡山のシャインマスカット=高級・高品質」というイメージを現地に根付かせることに成功しました。

新設の一宮西地区統合選果場の商品選別ライン1
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新設の一宮西地区統合選果場の商品選別ライン2


3.海外市場の影響

 今年、ハウスのシャインマスカットの初出荷に、高値で買ったのは輸出業者です。それが台湾・香港に渡ります。東京市場・大阪市場でもその場で買い付け、それにより国内相場も上がっています。もちろん、全体量では国内流通の方が多いのですが、海外エージェントの動向が価格形成に大きな影響を与えているというのが現実です。これは青森県の「りんご」も同様です。台湾で輸入しているりんごの90%は青森県産の「りんご」です。長野県産はほとんどありません。直近3ヶ年は生産量全体の1.5割くらいを台湾・香港等に輸出しています。その1.5割が国内価格をぐっと引き上げます。やはり「りんご」も高品質なものが中心に輸出されますが、その影響で小さいもの、通常サイズのものも輸出されるようになりました。輸出により国内相場を引き上げ、価格を安定させるのです。
 今後益々国内消費量は減少していくことと思います。その中で海外市場は存在感を増していくことと思います。

4.今後の戦略商品

 国内においても各地で生産量が増えていますが、やはり「シャインマスカット」は今後益々注目されることと思います。食味・食感・見た目の3拍子揃った「シャインマスカット」は国内のみならず、香港・台湾、東南アジアの国々でも人気は高く、前述したように、特に海外エージェントが積極的に買い付けを行っており、ハウス栽培の出始めの頃は信じられないほどの高価格で買い付けていきます。海外富裕層に対し、「種なし・皮ごと食べられる」というのは、まさに日本の農産物の素晴らしさを訴求するには持ってこいの要素です。しかも、「シャインマスカット」は脱粒が少なく、長期間品質を維持することができます。また、長期貯蔵に適しており、軸枯れなどもなく、巨峰やピオーネに比べるとはるかに扱いやすく、出荷後のリスクは低く、輸出に関しても商品のロスがほとんどありません。誰からも好まれ、出荷する側にとっても極めて扱いやすいのが「シャインマスカット」です。
 現在私どもは、「シャインマスカット」の増産に取り組んでいます。毎年前年比で150%の生産量になっています。昨年までは1位が巨峰、2位がピオーネ、3位シャインマスカットでしたが、今年は(収穫時期はこれからですが)、シャインマスカットの生産量がピオーネを超える計画です。通常、生産量が増えるに連れ、価格は下がっていくのですが、逆に35%上昇しています。これは、消費量も増えている証明であり、しばらく生産量は増えていくことと思います。私どもも生産者には改植を勧め増産に取り組んでいきます。そして、増産を図りつつ、価格を高位安定させることが重要と考えています。これは、「シャインマスカット」に限ったことではないのですが、「どのような消費者層に販売していくか」ということが非常に重要になってきます。「良いものを高く買ってくれる層に売る」というのが鉄則です。それには、産地として質・量でナンバー1になることです。日本でナンバー1になれば、国内・海外において強いブランド力を得ることが出来ます。そのブランド力が及ぼす影響は非常に大きいと考えています。

5.現状

 笛吹農協全体の果実・野菜の総出荷額は約120億円です。品目別には桃、ぶどうの順で、105億円強を占めています。出荷量については、今後は大きな増加は難しいと考えております。近年では異常気象の影響を受けることが多く、生産者にとっては避けられない大きなリスクを感じています。今年も7月4日、14日の突風で桃が落下し、少なからずの損失が発生しています。また、道路の新設・拡張と相まった宅地化は作付面積の減少を引き起こします。そして農家の老齢化です。平均年齢が上がってきているうえに後継者がいない。あるいは、担い手が急に亡くなったり病気になったりして生産者数の減少も起こっています。自然災害と宅地化などによる耕地の減少は私どもではいかんともしがたいところがありますが、生産者の減少に歯止めをかけたいと考えています。
 現在、笛吹農協では営農支援センターを立ち上げています。新たに農業を始めたい人を対象に技術指導、助成制度の説明といった講習会を通じた支援をすると同時に、農地賃借などの支援も行っています。「桃・ぶどう」は栽培技術が必要で、農業機械などの初期投資の費用は高額になります。前述したような自然災害によるリスクも勘案すると、新たに農業を始める人の収支が安定するまでは困難な場面が多々あります。それらの時々に応じた支援をしていきたいと考えております。農地については、できうる限り耕作放棄地の解消に向けて取り組んでいますが、山間地では生産者の高齢化により、耕作放棄地になる割合が高く、貸し手は多いのですが、反対に借り手は少ないというのが現状です。平地ではその逆の現象が生まれています。平地での規模拡大をしたい生産者もおり、貸し手は少ないのですが、借り手は多いという現状です。
 現在、各自治体は政府の地方創生、最近ではCCRC構想とも絡んで、移住者を受け入れるための施策を積極的に展開しています。笛吹農協にも、この地に来て、「桃・ぶどう」の生産を始めたいという相談があります。行政も東京に窓口を設置して移住地として、「桃・ぶどう」の産地である笛吹市を積極的にアピールしています。笛吹市の主要産業である農業、その中の、「桃・ぶどう」は中心選手です。そのような面においても私どもの存在意義は大きいと感じています。

6.今後

 私ども笛吹農協は、冒頭に述べた海外戦略を含めたマーケティング活動と内における課題解決に取り組んでいきたいと思っています。農協は何と言っても組合員の安定収入をしっかりと確保することが第一の努めです。ナンバー1も海外戦略も組合員の安定収入と表裏一体の関係にあります。
 これからを考えると女性が就農できるような環境づくりが大きな効果を発揮するのではないかと常々感じています。一つひとつのこまめな仕事振り、丁寧に同じ仕事を続ける忍耐力などは、「桃・ぶどう」の栽培には非常に重要な要素です。その点では男性よりもはるかに向いているのではないかと感じています。女性が頑張っていると男性も頑張ります。これからは若い女性に是非取り組んで欲しいと思っています。
 農業も大きく変化しています。すべてが多様化して複雑化しています。品種・栽培方法・市場・流通経路。「作って・売る」ことは変わらないのですが、「何を・どのように作って・どこに・いつ売る」というロジックを組み立てていくことが求められています。近年では、インターネットを使った農家-消費者の直販が増えています。もちろん、笛吹農協管内にも数多くいます。これらも、今まで地域の先輩たちが作り上げてきた「桃・ぶどうの産地」としての知名度があるからこそ成り立つのです。今後はこの苦労して築き上げてきた「桃・ぶどう」の産地としての輝きがさらに増すように取り組んでいきたいと思っています。

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出荷を待つ「一宮プレミアム12玉」
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新型ラッピング輸送車

[1] 1反(300坪)あたりの収益