「大先輩の日」に思う
毎日新聞No.471 【平成28年9月16日発行】
車での帰り道、横断歩道を渡るおじいさんを待っていた。一歩一歩がおぼつかなく、なかなか前に進めない。ようやく渡り終わると、運転席の私に向かって深く一礼した。
迷惑そうな顔をしていたのかしら。頭を下げさせてしまった自分が情けなくなり、不意に目が潤んだ。「私たちが穏やかに過ごせているのは、あなた方がガムシャラに働いてくれたおかげです。横断歩道くらいゆっくり渡ってください」。そんな思いで会釈し、恥ずかしい気持ちで車を発進させた。
高齢社会、人口減少、医療費負担増といった言葉を、毎日のように聞く。
内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によると、2015年10月1日現在、日本の総人口のうち65歳以上の高齢者の割合は26.7%。30年前の1985年の高齢化率は10.3%で、高齢者1人を15~64歳人口のいわゆる現役世代が6.6人で支えていたが、今は、1人の高齢者を2.3人の現役世代で支えているのだから確かに超高齢社会である。山梨県の65歳以上の高齢化率も、2015年の国勢調査(速報値)で過去最高の28.1%になった。
現役世代の負担増がクローズアップされればされるほど、高齢者は肩身の狭い思いをしているかもしれない。戦後の国づくり、地域社会づくりに貢献してきた“先輩”に「長生きしちゃいけないのかい」と言わせてはならない。それにはどうしたらいいのか。
9月10日に行われた「ボランティア博 in こうふ2016」に一つの糸口を見た気がしている。各種ボランティア団体、福祉団体がステージやブースで発表や活動を紹介するイベントだ。ステージにはカラーガード隊の保育園児から朗読サークルの高齢者ら幅広い世代が立った。各出展ブースの人々、来場者もまたしかりだ。仕事として、趣味として、あるいは生きがいとしてそれぞれが「自分のできること」に取り組んでいて、すがすがしい思いがした。
行政は環境整備や運営支援を、企業はビジネスまたは社会貢献で、各種団体は専門的な活動を、個人は納税やボランティア……。高齢者がサービスを受ける側であっても、提供する側であってもいい。よりよい超高齢社会をつくっていくためには、老若男女、健常者、障がい者とさまざまな立場の人ができることを地道にしていくしかない。
今年6月に閣議決定された「一億総活躍プラン」は、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成する「地域共生社会」の実現をうたっている。
息子2人の習い事の送り迎えをお願いしたり、家庭菜園の野菜をもらったりと、筆者も高齢の両親にずいぶんと世話になっている。それと同じように、現役世代が高齢者に支えられている部分だってまだまだあるはずだ。
最近は「敬老の日」と聞いてうんざりする高齢者もいるという。自分がその年齢になったら、確かに老人扱いは嫌かもしれない。今年は「敬老の日」あらため「大先輩の日」として感謝して、「自分のできること」を考えてみたい。
(山梨総合研究所 研究員 渡辺 たま緒)