VOL.75 「80年」


 「築地」が揺れにゆれている。市場関係者にとっては大揺れだろう。
 都知事選の最中に、“豊洲移転は一歩立ち止まって”の発言から、有害物質の調査を行ない、盛り土、地下空間、巨額移転費用、はたまた仲卸業者からは使い勝手の悪さまで。ここに来て、問題噴出である。移転を目前にしたこの時期に、およそ信じがたい状況である。関東大震災を契機に、1935年に現在の「築地」に移転して80年が経った東京都中央卸売市場は、老朽化と衛生面から2001年に豊洲への移転が決定された。それから15年、この騒ぎである。どこかに無理があり、どこかに無駄な力が働いたとしか思えない。本来であれば、市場関係者が胸をワクワクさせて移転の準備を進めている時でなければならないはずだ。
 「80年」かかって、「築地」は誰でも知っている地となった。人々の食を支え、今や海外からの観光客も集める。「築地直送」は関東一円で強力なブランドロゴとなり、海産物の品質に付加価値を付ける。それもこれも、卸業者と仲卸業者の厳しい目利きと、厳しい商売の日々が成し得たものである。
 6,000億円近い巨費を投じた豊洲新市場は、スタートからマイナスのイメージを負ってしまった。問題を明らかにし、処理をする。その上で、速やかに移転に踏み切るのが最良と考えるが、心配なのは新市場が時を経て、「築地」のような存在感を放つことができるだろうか、市場関係者が誇りとプライドを持って新しい地を築けるだろうか、という事である。
 東京に住んでいた頃、「築地」の場内に何度となく通った私は、歩行人よりもターレが優先する、活気みなぎる凝縮された空間が何とも好きだった。映像で見る限り、ガラスと白い壁面の美しい新市場でも、同じような空間が生まれることを切に願っている。

(主任研究員 末木 淳)