引退馬活用に向けて
毎日新聞No.472 【平成28年9月30日発行】
皆さんは、引退した競走馬(以下「引退馬」)のその後をご存知ですか。引退馬の多くが生まれ育った故郷の牧場に戻って静かに余生を暮らしている、そんなイメージをお持ちではありませんか。
日本中央競馬会(以下「JRA」)が主催する中央競馬のG1競走は、テレビや新聞などのメディアに取り上げられることが多く、また、競走馬の均整のとれた馬体や疾走する躍動感などからも、非常に華やかな印象が持たれますが、引退馬の行く末はそうでもありません。実は、競走馬は登録抹消後、行方不明となるケースが多く見られます。
関係者に尋ねると、その多くが廃用(処分)されている状況があるらしい、との回答で、競走馬は経済動物だから賞金を稼げなければ経済的価値を生まず、処分するのが当たり前との考え方があるらしいのです。要するに、中央競馬の大きなレースに優勝した馬であっても、引退後の天寿は保障されていません。果たして、引退馬は本当に経済的に価値を持たないものなのでしょうか。
本年6月、私共がJRAウインズ石和場内で行ったアンケート調査結果によると、約6割の競馬ファンが「応援した競走馬が引退した場合、その馬に会うために観光目的で牧場等に足を運ぶ」との回答があります。インターネットのアンケート結果でも、約3割の方が「応援した引退馬に会いに行きたい」と回答しています。北海道では大型バスによる引退馬の見学ツアーが組まれ、応援した引退馬の牧場めぐりをレンタカーで行う旅行客も多く見られるなど、引退馬ツーリズムが成立しています。一説によると、競馬ファンは全国で約400万人と想定されることから、その3割(120万人)が引退馬を観光資源として評価している現状があります。これは立派な観光資源と言えるのではないでしょうか。
山梨県は古来、朝廷の直轄牧場である“御牧”が置かれ、「聖徳太子と甲斐の黒駒」伝承からも名馬の産地という評価があり、戦国最強とうたわれた「武田騎馬隊」などからも、歴史的に馬とは関係性の深い土地です。また、乗馬クラブが多く存在し、馬の飼育環境に適した標高1,000mの『馬のまち小淵沢』もあり、加えて都心から車で2時間足らずの場所に位置しています。
近年、馬(乗馬)が持つセラピー効果への期待も高まっています。観光振興等における引退馬の活用に向けたさまざまな試みを期待したいものです。
(山梨総合研究所 主任研究員 相川 喜代弘)