見えない展示会を見る
毎日新聞No.477 【平成28年12月9日発行】
現在、さまざまな技術革新の真っただ中にある。携帯端末である米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」が生まれたのが2007年、日本で販売されたのが2008年で、2015年には世界で20億台のスマートフォンが使用され、ゲーム、通販、スマートハウスなどのツールとして利用されている。米グーグルにより自動車の自動運転が始まったのは2010年代のことで、自動車各社も追随して開発競争が進展している。また、ドイツの「インダストリー4.0」というスマート工場の取り組みが始まったのが2010年であり、複数の工場をネットワーク化し自動制御を行うことで、生産の効率化を図る。
デジタル技術の動向を見ようと、この秋に幕張メッセで開催されたIT展示会を訪問した。通常の展示会場は製品にあふれ、品質や性能などを紹介しているケースが多く、素人でも分かるものであるが、この会場の各ブースでは担当者が訪問者の質問に答えていたり、説明会が開催されていたりと、ある程度目的や知識を持った人を対象とする展示会であった。機器などをつなぐIoT(モノのインターネット)の各種センサーの展示、人工知能、制御ソフト、システムの提案などさまざまなブースがあった。担当者に聞いてみると、多くの企業では実例紹介は少なく、展示会に訪れ、技術に関心を持った企業との商談を目的としたものであった。
アマゾンの関連会社はクラウド製品の導入設計、運用、保守までをサポートするサービスの紹介を行っていたが、日本ではNTTドコモなど300以上の企業がアプリなどの構築のために、アマゾンのサービスを利用している。大企業といえども、新たな技術やサービス開発にとって、他社との協業が必要であるとともに、技術を応用し改善する機会や顧客が必要となる。
この展示会は人工知能、IoTなどのさまざまな提案を示すもので、20~30歳代の比較的若い技術者が数多く参集し、熱気があった。近い将来、さまざまな企業間の協業が生まれ、これら技術が急速に産業界に導入されるとともに、行政や社会のさまざまな分野に普及していくことと思われる。技術革新は私たちの生活を快適・利便にするだけでなく、人間の労働や雇用を代替してしまう。そうした将来生活を暗示する展示会であると実感した。
(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)