子どもたちにスポーツを


毎日新聞No.484 【平成29年3月17日発行】

 文部科学省は先月14日、プログラミング教育の導入を盛り込んだ、小学校の次期学習指導要領の改定案を公表した。こうした影響もあって、子どもを持つ父母の間で、プログラミング教室・塾の人気が高まっている。

 一方、昨年12月、スポーツ庁は小学5年と中学2年の男女を対象に実施した2016年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)の結果を公表し、新聞各紙は「小中女子、過去最高」と報じた。この記事から、現在の子どもたちの体力・運動能力は高いと思われがちであるが、「08年度の調査開始以来」最高という点に注意しなければならない。実際には、1985年頃の子どもたちの体力・運動能力と比較すると依然として低い水準にある。
 1月に、山梨、甲州、笛吹の3市の教育委員会が開催した合同講演会で、子どものスポーツ環境に関する岐阜大学教育学部の春日晃章教授の講演を聴いた。50m走、立ち幅跳び、ボール投げといった走・跳・投の運動能力は、小学校低学年で改善の兆候が見られず、幼児期から低下しているという。
 「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果からは、子どもたちの1週間の総運動時間に二極化が見られ、中学生男子の84.2%が420分以上である一方で、中学生女子の20.9%が60分未満となっている。
 2014年度の同調査で、運動やスポーツをすることは「やや嫌い」「嫌い」と答えた児童に、何がきっかけで嫌いになったかを尋ねると、「小学校入学前から体を動かすことが苦手だったから」「小学校の授業でうまくできなかったから」という回答が多かった。このことから、運動・スポーツが嫌いな児童は、小学校の時点で既に、成功体験がないことから失敗を恐れ、「自分はやればできるんだ」と感じる自己効力感が育まれていない可能性がある。
 子どもたちが運動・スポーツを好きになり身体活動量が増えると、体力・運動能力が向上するばかりでなく、強く優しい心が身に着き、社会適応力が発達し、空間認知力など脳にも好影響を与える、と春日教授は言う。

 子どもたちの豊かな未来のために、プログラミング教育と同様に、チャレンジする気持ちや最後まで頑張る気持ちを育む運動・スポーツに対しても関心を高めたい。新年度を迎える今、保護者の方には地域のスポーツ少年団やスポーツクラブにも目を向け、子どもたちに自信を与えてほしいと思う。

(山梨総合研究所 研究員 高橋 謙洋)