Vol.224-1 地理空間情報(オープンデータ)で見る地域


合同会社 環境計画設計 代表社員 稲﨑昇一

1.はじめに

 WEBやスマートフォンなどの地図サービスを使用しての、移動ルートの検索や店舗情報の入手は私たちの日々の生活を便利にしている。これらのサービスは地理空間情報を用いた技術であり、今では私たちの生活に欠かせないモノとなっている。本来このようなサービスを展開するには、膨大な地理空間情報を取得し整備する必要があり、民間事業者が取り組もうとするならば、莫大な費用と時間を要するが、近年、国や地方公共団体などが保有するデータを営利目的も含めた二次利用可能な形で公開する「オープンデータ」の取り組みが進み、私たちもその恩恵にあずかっているのである。
 地理空間情報は、地域の様々な情報を“見える化”し、さらにオープンデータであれば誰でも、どこでもそれを容易に見ることができ、利用することができる。元来、まちづくり、防災などの行政課題を検討するために整備されてきた地理空間情報。本稿では我々が生活している地域の情報を“見える化”する事例のいくつかを紹介する。

 

2.地理空間情報とは

 わが国では、地理空間情報活用推進基本法(平成19530日公布、829日施行)で地理空間情報を次のように定義している。

  • 空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(当該情報に係る時点に関する情報を含む。以下「位置情報」という。)
  • 上記の情報に関連付けられた情報

 身近なものとしては地図、航空写真、鉄道の路線図、自宅敷地の境界点などが地理空間情報に該当する。位置情報とその場所の状態や様子に関する情報が関連付けられた情報を指している。

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1.よく目にする地理空間情報

3.地理空間情報システムとは

 国土地理院では、地理情報システム(GISGeographic Information System)を「地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術[1]」としている。
 このシステムは、様々な地理空間情報を可視化することで地域の状況を分析し、政策判断をする際の重要なツールとなっている。

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2.地理空間情報システムのイメージ[2]

 

4.オープンデータとは

 オープンデータとは、国や地方公共団体などが保有する様々な公共データを二次利用可能な形で公開しているものを指し、その定義として、総務省[3]は「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータであり、それにより多くの人手をかけずにデータの二次利用を可能とするもの」としている。
 国は、二次利用が可能な公共データの案内・横断的検索を目的としたオープンデータの「データカタログサイト[4]」を公開しており、政府機関で整備されたデータの検索、閲覧、ダウンロードが可能であり、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの表示4.0 国際[5] または、政府標準利用規約[6]に基づく利用が可能となっている。これらのライセンスは条件に従えば、自由にデータを利用することができる。また、著作権があるデータとは違い、ライセンスの種類にもよるが、自由にデータを改変し、営利目的での二次利用も可能である。
 近年、オープンデータの整備が推進され、政府機関以外にも数多くの地方自治体がデータの公開を行っている。従来は多くの労力を要しなければデータを用いた分析や図書作成などは難しい状況だったが、オープンデータを利用することで、これらの作業の大幅な効率化が図られるようになり、様々なシーンで活発に二次利用されている状況である。

5.事例紹介

 ここでは比較的簡単に利用できるオープンデータを紹介したいと思う。

1)地域経済分析システム(RESAS(リーサス))

 地域経済分析システム(RESAS(リーサス))[7]は、各自治体の地方創生への取り組みを情報面・データ面から支援するためにまち・ひと・しごと創生本部が提供しているシステムである。人口マップ、地域経済循環マップ、産業構造マップ、企業活動マップ、観光マップ、まちづくりマップ、雇用/医療・福祉マップ、地方財政マップがあり、基礎自治体単位の現状が“見える化”され、グラフ化することにより、自治体間比較など優れた機能を搭載している。また、データの多くは、csv形式でダウンロードが可能であるため、詳細な分析などにも非常に有効である。

 224-1-3 3RESAS(リーサス)人口構成 総人口の表示例

2)地図による小地域分析(jSTAT MAP

 地図による小地域分析(jSTAT MAP[8]は、総務省統計局と独立行政法人統計センターが「統計におけるオープンデータの高度化」の一環として提供しているWebサイトの地理情報システムである。総務省統計局が所管している統計データを“見える化”しているものである。
 また、政府統計の総合窓口(eStat[9]では、GISで利用できるデータをダウンロードできる「地図で見る統計(統計GIS)」のサービスを提供している。

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4H24経済センサス活動調査(1kmメッシュ)事業所数の表示例

 

3)地理院地図

 地理院地図[10]は、国土地理院が整備する地形図、写真、標高、地形分類、災害情報などの地理空間情報を閲覧できるサービスであり、国土地理院が所管しているため、全国の様々な地理空間情報を閲覧でき、地震、火山噴火、風水害といった自然災害による被害情報もタイムリーに閲覧できることが特徴である。
 また、地理院地図(地理院タイル[11])はGISに取り込むことができるため、オープンデータとして、二次利用による各種分析や図書作成などにも利用することができ、汎用性が高いことが特徴である。

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5.国土地理院 写真(2007年~)[12]の表示例

 4)オープンストリートマップ(OpenStreetMap

 オープンストリートマップ(OpenStreetMap[13]は、道路地図などの地理情報データを誰でもが利用できるように、フリーの地理情報データを作成することを目的としたプロジェクトである。誰でも自由に参加して、誰でも自由に編集でき、誰でも自由に利用することが出来るものである。筆者もマッパーとして地図の編集に携わっている。
 最近の傾向としてオープンストリートマップは、誰でも自由に利用することが出来ることから、Google Mapsに代わってWEBのマップに採用されるケースが多くなってきている。

 

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6.オープンストリートマップ[14]

5)オープンデータの地理空間情報を利用した主題図作成例(人口データ)

 ここではQGIS[15]を用いて、人口データを利用して地域の状況を“見える化”してみたいと思う。まず、平成17年および平成22年の国勢調査500mメッシュの人口増減を計算し、それに地区界、道路(国道)、線路図、河川図を落とし込んだものである(図7)。
 赤い部分は平成17年に比べて人口が増加したエリア、青い部分は人口が減少したエリアを示している。これによると、この自治体は広い範囲で人口が減少しているのだが、一方では人口が増加しているエリアもある。単に増減を示すだけではなく、他の地域要素を加えることで、人口が増加しているエリアを多角的かつ詳細に分析することが可能になり、移住・定住対策などに有効な手立てを見つけ出すことが期待できるのではないだろうか。

 利用したデータ

データ

出典

人口

e-Stat 平成17年国勢調査-世界測地系(500mメッシュ)

平成22年国勢調査-世界測地系(500mメッシュ)

地区界

e-Stat 境界データ

道路

オープンストリートマップ

鉄道

国土数値情報[1] 鉄道データ

河川

国土数値情報 河川データ

[1] http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html

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7.地域の人口増減

 

6)オープンデータの地理空間情報を利用した主題図作成例(土地利用データ)

 同様に土地利用のデータを利用して地域の状況を“見える化”したいと思う。
 利用するデータは、主題図として昭和62年および平成21年の土地利用細分メッシュ(100m)データから土地利用区分の差分を抜き出し、平成21年の土地利用図をベースに作図したものである(図8)。桃色部分が土地利用の変化が見られたエリアとなっている。利用区分が変更されているため、正確な変更点の比較はできないが、土地利用面積の増減を確認することができ、クロス集計を加えることでどのような利用転換が図られたかを把握することができ、将来の土地利用計画の参考資料として有効に活用できるのではないだろうか。

 利用したデータ

データ

出典

土地利用

国土数値情報 昭和62年土地利用細分メッシュデータ

       平成21年土地利用細分メッシュデータ

地区界

e-Stat 境界データ

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8.地域の土地利用変化

 

土地利用面積の増減(単位:ha)

昭和62

増減

平成21

備考

691

-69

622

739

-216

1268

その他の農用地

区分の変更あり

果樹園

1

その他の樹木畑

745

森林

26323

580

26903

森林

荒地

481

-346

135

荒地

建物用地

452

202

655

建物用地

幹線交通用地

20

-20

0

道路

区分の変更あり

0

鉄道

区分の変更あり

その他の用地

63

8

71

その他の用地

内水地

1583

-255

1328

河川・湖沼

0

115

115

ゴルフ場

区分の変更あり

6.終わりに

 今後、ますます国や地方自治体のオープンデータ化は進み、ICT技術の進歩と相まって、誰でも気軽に利活用出来る時代になって来るはずである。オープンデータの多くは、地域の課題を解決するために重要な役割を果たすものであり、先進事例としては福井県鯖江市の「データシティ鯖江[17]」、千葉県千葉市の「ちばDataポータル[18]」、静岡県静岡市の「シズオカオープンデータポータル[19]」が挙げられるのだが、これらの自治体の特徴は、データの公開だけではなく、その利活用を推進していることであり、オープンデータを利用したアプリケーションの開発は地域課題を解決するツールとして有効に機能している。
 現在、山梨県内の自治体のオープンデータは少なく、今後活発に進展することを期待している。特にデータの公開を期待したいのは、まちづくりや防災の分野において利活用される地図データの公開である。前述したようにオープンソースのGISや地理空間情報の知識をあまり持ち合わせていなくても、データを視覚化してくれるWEB[20]サービスが数多く提供され、視覚化のためのツールが充実してきている。地図データを様々な情報と合わせて地域の課題を“見える化”することが、地域の活性化に大いに役立つと考えている。


[1] http://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html

[2] http://www.gsi.go.jp/chirikukan/about_kihonhou.html

[3] http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/

[4] http://www.data.go.jp/

[5] https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja

[6] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1_gaiyou.pdf

[7] https://resas.go.jp/

[8] https://jstatmap.e-stat.go.jp/gis/nstac/

[9] http://www.e-stat.go.jp/

[10] https://maps.gsi.go.jp

[11] 地理院タイルは、容易にサイト構築やアプリ開発に利用ができる。

[12] 地理院地図 http://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html

[13] https://openstreetmap.jp/

[14] © OpenStreetMap contributors

[15] http://qgis.org/ja/site/ オープンソースのGIS

[16] http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html

[17] http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552

[18] http://www.city.chiba.jp/somu/joho/kaikaku/chibadataportal-top.html

[19] http://open.city.shizuoka.jp/

[20] https://carto.com/ カート:比較的容易に地理空間情報を視覚化できるサービス