Vol.225-2 健康寿命を延ばすには


【公益財団法人 山梨総合研究所 上席研究員 古屋 亮】

1 はじめに

 平成2712[1]厚生労働省が発表した都道府県別・男女別の健康寿命では、平成25年の山梨県の健康寿命は男女とも全国第一位となっている。平成11年の旧厚生省橋本修二研究班の報告によると、当時から山梨県では男女とも健康寿命が長く、女性は全国第一位であった。また少し前の資料となるが、WHO Core Health Indicatorsによると、2003年の健康寿命世界ランキングをみると、日本は男女とも第一位となっている。このことを考えると、山梨県は、世界の中で最も健康寿命が長い地域であるといっても過言ではない。山梨県が健康寿命の上位に位置することについては、地域性、食事等を含め多様な要因があると考えられる。弊財団では、平成16年に山梨県、山梨大学、山梨学院大学等との連携により健康長寿の要因について報告書を出している(健康寿命実態調査:成果物は山梨県に帰属)。この報告書では、山梨県の健康寿命が長い要因として、食と社会的ネットワークとの関連性等が明らかにされている。
 この報告書が出されてから10年以上が経過した。さらに、平成11年の橋本修二研究班の報告書が出されてからは、すでに20年近くが経過しようとしている。この間、社会経済状況が変わる中で、山梨県では常に健康寿命全国トップクラスを維持してきたことになる。この要因はどこにあるか。
 こうした点を解明するため、今回、弊財団では平成16年と同じ調査手法を用いて、その要因分析を最近10年間について実施し、前回調査との比較を行うこととした。
 本稿では、前段の整理として、健康寿命と平均寿命の変遷や過去の研究史の整理を行う。

2 健康寿命と平均寿命の変遷

 健康寿命とは、健康上問題なく生活できる(介護や支援を必要としないで、日常生活に制限のない状態)自立期間のことをいう。平成25年の全国平均では、男性が71.19歳、女性が74.21歳となっている。
 一方、平均寿命とは、0歳時の平均余命のことである。男女別にみた年齢別死亡率が将来もそのまま続くと仮定し、各年齢に達した人たちが、その後平均して何年生きられるかを示したものを平均余命といっており、平均寿命とは、つまり0歳時の平均余命のことを指している。厚生労働省が平成293月に出した日本の平均寿命は、男性が80.75歳、女性が86.99歳となっており、過去最高を更新している。図表1をみると、平均寿命から健康寿命[2]を引くと、男性では9.17年、女性では12.73年となっており、この期間は、何らかの介助・介護等が必要な日常生活に制限のある生活を送る「不健康な期間」といえる。

図表1 平均寿命と健康寿命225-2-1出典:平均寿命は厚生労働省:都道府県別にみた平均寿命の推移(データは平成22年)
健康寿命は厚生労働省:健康日本21健康寿命の都道府県格差の縮小について(データは平成22年)

 次に、図表2から都道府県別に、男性の健康寿命の変遷をみると、山梨県は平成11年で1位[3]、平成22年には5位に落ちているが、平成25年には再度1位となるなど、上位に位置している。
 また静岡県も平成11年で3位、平成22年で2位、平成25年は3位と常に上位に位置している。この順位は割と変動しているようで、例えば平成22年に1位であった愛知県は、平成25年には14位となっており、また、平成11年に9位であった徳島県は、平成25年には47位と全国最下位になっている。この中で、安定して上位に位置しているのが山梨県と静岡県といえる。
 女性をみると、山梨県は、平成11年で2位、平成25年には1位と、男性同様に上位に位置している。また、静岡県も同様の傾向が見られる。つまり、山梨県と静岡県は男女とも健康寿命が上位に位置している[4]ことがわかる。

図表2 健康寿命の推移

225-2-2※平成22年の山梨県女性の健康寿命は、全国12位となっている。
出典:平成11年は山梨県「健康寿命実態調査報告書」平成16年3月を参照した。平成22年、25年は、厚生労働省 健康日本21「健康寿命の都道府県格差の縮小について」資料2を参照した。

  次に、図表3から平均寿命の変遷をみてみる[5]。全国平均について昭和50年と平成22年を比較すると、35年の間に平均寿命は男性で7.80歳、女性では9.34歳のびている。都道府県の傾向をみると、平成12年以降では、男性では長野県、福井県、滋賀県、熊本県、神奈川県などが常に上位に位置している。一方、女性では、沖縄県、長野県、島根県、熊本県などが上位に位置している。

図表3 平均寿命の推移

225-2-3

225-2-4出典:厚生労働省:都道府県別にみた平均寿命の推移

 しかし、図表3から平均寿命の上位10位までについて、健康寿命の順位をみてみると、男性では平均寿命、健康寿命とも上位10位にあるのは、長野県(平均寿命:健康寿命の順で以下同じ:1位、6位)、福井県(3位、8位)、静岡県(10位、2位)の3県のみとなっている(平成22年)。また、女性では、島根県(2位、6位)、沖縄県(3位、5位)の2県のみで、平均寿命1位の長野県では、健康寿命は20位まで落ち、平均寿命6位の広島県では、健康寿命は46位まで落ち込むことがわかる(平成22年)。
 つまり、平均寿命が上位に位置していても、必ずしも健康寿命は上位に位置していないことがわかる。
 同様に、平均寿命と健康寿命の差をみてみる。
 これによると、平均寿命が上位に位置している県では、男性の場合、910年間近くは何らかの介助・介護が必要とする生活となる。
 これに対し、静岡県、山梨県などでは、これらの期間が7年間後半から8年間前半と短くなっている。
 これは女性でも同様の傾向であり、男性より平均寿命が長い女性では、12年間半ばから13年間後半まで、何らかの介助・介護を必要とする生活となり、静岡県、山梨県では10年間後半から12年間前半の期間となる。

3 過去の研究史

 前章までに、山梨県と静岡県における健康寿命の長さについては明らかになった。ここでは、山梨県と静岡県とが健康寿命が長い要因について、従来の健康寿命についての研究史の整理を行う。
 山梨県では、平成15年に山梨大学、山梨県立看護大学(当時:現在は山梨県立大学)、早稲田大学、東北大学等の教官、弊財団の研究員等からなる「健康寿命実態調査分析研究会」を発足させ、山梨学院大学等の協力も得て、山梨県における健康寿命の長さの要因について分析を加え、平成163月に山梨県により「健康寿命実態調査報告書」としてまとめられている。

 概要は次の通りである。

  1. 「社会的ネットワーク」の重要性:ボランティア活動や仕事をすること、友人や近所の人と会う機会を多くすることが、健康寿命に関連しているとされている。
     特に、「無尽」は、山梨県で今も盛んに行われる人付き合いの形態であり、仲間と健康の話をしたり、世の中の話をしたりして無尽を楽しむことも健康寿命延伸に寄与すると期待される。
  2. 「食生活」は、健康寿命の重要なキーワード:生活習慣病予防のため、欠食せずに3食規則正しく食事をすること、健康に留意した食事を摂ることが健康寿命延伸に重要である。
  3.  「生きがい」を持つことは、健康寿命延伸に必要:「趣味」をもち、その趣味を仲間と楽しめることは、生き生きとした生活を送り、自分らしさを維持するために大きな支えとなる。
  4.  「健康的な生活習慣」は、健康寿命を延ばす:健康寿命が短くなる、すなわち、寝たきりの状態など自立できなくなる主な原因は、脳卒中などの生活習慣病であり、喫煙をしないことや運動習慣を持つことなど、健康に気を使い、そのために、何らかの実践をする人は、日常生活動作が維持される。
  5.  「国中」と「郡内」の地域差:社会的ネットワークのもち方や、食習慣には地域差があり、山梨県内でも国中と郡内では無尽の習慣やほうとうを食べることに関して違いがあった。
  6.  「心の健康」と「体の健康」は、関連が強い:心身両面の健康管理を行うことが健康寿命を伸ばすためには必要となる。例えば、うつ症状があるために閉じこもるだけでなく、体力が衰えて外出が少なくなり、そのために閉じこもり、心も病んでしまう。このように心の健康と体の健康は相互に関連している。
  7.  「その他」:今回調査対象とした「疾病構造」、「保健医療システム」、「健康経済」面などの関連は、寝たきり状態の原因となる病気の第1位である脳卒中の頻度について、山梨県は1996年の患者調査では全国で良い方から入院率が12位、外来受診率が6位と比較的よい位置にあったが、生態学的解析においてはっきりとした関連は見出せなかった。「保健医療システム」などについては、山梨県における特徴的な健康寿命との関連を見出せなかった。「健康経済」の面では、経済的にある程度余裕があることと健康寿命との関連が明らかになった。

 また、静岡県では、県のホームページ[6]に健康寿命の長さの要因について掲載している。ここでは、「地場の食材が豊富で食生活が豊か」、「全国一のお茶の産地であり、日ごろからお茶をたくさん飲んでいる」、「元気に働いている高齢者が多い」、「温暖な気候からくる穏やかな県民性」が要因として挙げられている。
 また、奈良県では、男女ともの健康寿命の順位の低さを受け(平成22年は男性28位、女性40位)健康寿命を引き上げるべく、行政が問題意識を持ち、「なら健康長寿基本計画」を策定している。この計画策定に際し、健康寿命の延伸には、男性では、喫煙率、塩分摂取量、飲酒量・頻度に、女性では塩分摂取量、身体活動、血圧に相関があるとしている。

4 今後にむけて

 ここまで、健康寿命と平均寿命の変遷と、健康寿命の研究史について述べてきた。今後は[7]、最近の10年間の変遷を調査対象に、平成16年の調査内容について、当時と同様の調査手法をとることにより明らかにしていく。特に平成16年の調査において明らかになっている山梨県の食・社会ネットワークと健康寿命について10年間の変遷を明らかにすることで、より実態に即した調査を実施していく。


[1]厚生労働省:健康日本21 「健康寿命の都道府県格差の縮小について」を参照した。http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000108062.pdf

[2] 健康寿命については、平成25年データも公表されているが、平均寿命と同年での比較という意味で平成22年データを使用している。

[3] 平成11年は、平成22年、平成25年の公表の形式ではなく、65歳以降85歳までの5歳区分による平均自立期間の平均で順位付けしているため、都道府県名のみとする。

[4] 厳密には、男性の千葉県、女性の茨城県については、平成11年以降、常に10位以内にランク付けされている。

[5] 平均寿命の最新データは、平成22年データとなっている。

[6]全国トップクラスの健康長寿 https://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-430/kenzou/kenkoujyumyou.html

[7] 20175月に弊財団の自主研究発表会を行う。その時に報告し、その後ホームページに掲載する。