Vol.226-2 公共施設老朽化問題への取り組み


~公共施設等総合管理計画にみる自治体の現状~

公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也

1 はじめに

 公共施設の老朽化問題が注目され始めてから、10年ほど経つだろうか。最近は、財政面の理由から橋が老朽化しても架け替えることができず通行禁止となっていたり、水道管の破裂が発生したりと、更新の必要性が顕在化している。
 こうした中で、国では、「過去に建設された公共施設等がこれから大量に更新時期を迎える一方で、地方公共団体の財政は依然として厳しい状況にあること、人口減少等により今後の公共施設等の利用需要が変化していくこと、市町村合併後の施設全体の最適化を図る必要性があることなどを鑑み、公共施設等の全体を把握し、長期的な視点を持って、更新・統廃合・長寿命化などを計画的に行うことにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、公共施設等の最適な配置を実現することが必要」とし、地方公共団体が所有する全ての公共施設等を対象に、地域の実情に応じて、総合的かつ計画的に管理する計画として、「公共施設等総合管理計画」の策定を地方公共団体に要請している。
 今般、山梨県及び県内各市町村の計画がまとまったことから、各自治体の取り組み方針や更新収支などについて整理してみたい。

 2 計画の策定時期、計画期間

 策定時期については、平成2711月に韮崎市が県内自治体では最初に策定し、その後、上野原市が平成282月、甲府市、富士川町、山中湖村が平成283月に策定している(山梨県は平成2712月)。
 策定時期を期間別にみると、平成283月以前が5自治体、平成284月~9月が2自治体、平成2810月~平成293月が16自治体、平成28年又は平成28年度が3自治体などとなっている。全体の6割近くが平成28年度の下半期に策定しており、特に平成2923月が14自治体と集中している。こうしてみると、大半の自治体では、計画策定がまだ終わったばかりの段階であることが窺える。

 一方、計画期間については、総務省の指針では「10年以上とすることが望ましい」としており、最短が10年(上野原市、昭和町、忍野村)、最長が40年(道志村、西桂町、小菅村)となっている(山梨県は10年)。ただし、社会情勢をみる中で、10年ごとに見直すとの付記がなされている計画が多い。
 全体傾向をみると、10年が3自治体、1120年が3自治体、2130年が13自治体、3140年が6自治体、明記なしが2自治体となっている。平均すると約28年、最も多い設定期間は30年(13自治体)となっている。

※ 策定時期は、計画書への表示時期とした。このため、自治体によってはそれ以前に策定している場合もある。 

3 更新費用等の見通し

 今後想定される公共施設及び道路・水道等のインフラ資産について、更新費用の総計をみると、図表1~3の通りとなっている。
 試算については、総務省が紹介している公共施設更新費用試算ソフトを活用しているケースが多いが、独自の方法により算出した自治体もある。また、現在の公共施設を削減等せずにそのまま新たに建設したとの前提が多いが、廃止予定施設の取り扱いなどに違いもみられる。同様に耐用年数の考え方も同一ではないため、すべての自治体を同一基準でとらえたものではないことを断っておく。

(公共施設)

 公共施設(建築施設)について試算を行っている21自治体のうち、年間更新費用、将来投資見込額(年間投資的経費、普通建設事業費など)を算出している18自治体についてみると、年間更新費用の合計は約303億円となる。一方、将来投資見込額は約171億円にとどまり、約132億円不足する。また、年間更新費用の将来投資見込額に対する倍率をみると、富士河口湖町で6.1倍に達するほか、市川三郷町で3.6倍、北杜市で3.4倍となるなど8自治体で2倍を超え、平均で1.8倍となっている。
 なお、山中湖村では、年間更新費用が将来投資見込額を下回るとしている。

(インフラ資産)

 道路・水道等のインフラ資産について試算を行っている20自治体のうち、年間更新費用、将来投資見込額を算出している8自治体についてみると、年間更新費用の合計は約159億円となる。一方、将来投資見込額は約89億円にとどまり、約70億円不足する。また、年間更新費用の将来投資見込額に対する倍率をみると、山中湖村で2.3倍、甲斐市で2.2倍と2倍を超えており、平均で1.8倍となっている。
 なお、早川町では道路についてのみ試算しているが、更新費用は現行の道路費用より少なく現在の工事計画で対応可能としている。

(公共施設+インフラ資産)

 公共施設とインフラ資産両方について試算を行っている20自治体のうち、年間更新費用、将来投資見込額を算出している19自治体についてみると、年間更新費用の合計は約567億円となる。一方、将来投資見込額は約327億円にとどまり、約239億円不足する。また、年間更新費用の将来投資見込額に対する倍率をみると、大月市で2.9倍、中央市で2.4倍となるなど7自治体で2倍を超えており、平均で1.7倍となっている。
 なお、昭和町、忍野村では、年間更新費用が将来投資見込額を下回るとしており、現状の保有量で更新は可能となっている。

(合併経験の有無)

 年間更新費用の将来投資見込額に対する倍率を、平成の大合併を経験した自治体と経験していない自治体で比較してみる。
 合併を経験した14自治体において、倍率は、公共施設で1.9倍(算出可能な11自治体合計)、インフラ資産で1.9倍(同4自治体合計)、公共施設+インフラ資産で1.9倍(同10自治体合計)である。
 一方、合併を経験していない13自治体において、倍率は、公共施設で1.5倍(算出可能な7自治体合計)、インフラ資産で1.4倍(同4自治体合計)、公共施設+インフラ資産で1.4倍(同9自治体合計)である。
 これをみると、公共施設、インフラ資産、公共施設+インフラ資産のいずれにおいても、合併を経験した自治体で倍率が高い(財源の不足が深刻)結果となっている。合併前後において、合併特例債などを活用して充実を図ったことも一つの要因と考えられる。 

 図表1 公共施設(建築施設)の更新等費用

図表2 道路・水道等のインフラ資産の更新等費用 

図表3 公共施設とインフラ資産を合計した更新等費用

 4 削減目標の設定

 山梨県内の自治体では、将来の更新費用を勘案すると、昭和町、忍野村を除き、現在の公共施設等の保有量を維持することは難しい状況にある。このため、保有量の削減を図る必要があるが、各自治体の削減目標をみてみる。
 なお、インフラ資産については、「一度整備や布設した道路や橋りょう、上下水道管を廃止し、総量を削減していくことは現実的ではない」「総量を削減していくという考え方は現実的でない」「道路や橋りょうなどのインフラ施設は、一般的に施設量の縮減や廃止が困難」「複合化・集約化等の統合や、施設そのものの廃止が適さない」等の理由により、いずれの自治体でも目標が設定されていない。このため、ここでは、公共施設(建物施設)について整理してみる。
 今回の計画において削減目標を設定したのは、19自治体である。都留市を除いて削減率の目標を設定しているが、計画期間の設定を無視した場合、最も削減率が大きいのは甲州市で32.6%(計画期間30年)、次いで大月市で32%(同32年)、甲府市で31%(同30年)となっている。ただし、身延町では、40年間で資金不足額が240億円となり約40%削減する対策が必要としているが、明確な目標設定はしておらず、富士河口湖町(30年間で25.0%縮減)では、計算上の財政均衡縮減率は46.3%であるが現実的ではないため圧縮している。各自治体とも目標設定には苦心が窺われ、必ずしも削減目標が高いほど財政状況が厳しいとも言えない状況にある。

(合併経験の有無)

 今回の計画策定には、冒頭の記述にもある通り「市町村合併後の施設全体の最適化を図る」ことが念頭にある。平成の大合併において、県内自治体数も大きく減少したが、合併を経験した自治体と経験していない自治体とで目標数値に違いがあるか確認してみると、削減率を明記した18自治体のうち、合併を経験した12自治体の削減率は2031%となっており、単純平均すると24.7%となる。一方、合併を経験していない6自治体の削減率は532%と幅がみられるものの、単純平均では15.8%となっており、合併を経験した自治体の方が削減率が大きくなっている。 

図表4 公共施設の削減目標

 5 計画策定への住民意思の反映

 一般的に、計画策定に当たっては、住民意思を反映することが重要である。今回の計画策定に当たり、パブリックコメントを除き、アンケート、ワークショップ等により確認した住民意思を反映した記述となっていたのは、5自治体にとどまった。具体的な施設再配置の方向性やその実行計画を示す「公共施設再配置計画」策定時に住民の意見を聴くという自治体もみられるが、サービス低下も想定される問題への基本方針の策定であり、早めに住民の理解を得ておくことも重要と思われる。
 次に示すのは、各自治体のアンケート結果(抜粋)である。住民の意向から計画につなげる重要な資料となっている。

※設問・回答結果は、内容の重複を避けるため、山梨総研にて選択し、掲載している。

 

 以上、「甲府市市民アンケート」を当研究所で加工

 以上、「甲斐市市民アンケート」を当研究所で加工

 以上、「笛吹市の公共施設に関する市民アンケート」を当研究所で加工

 「富士河口湖町町民アンケート」を当研究所で加工

 6 具体的な削減施設の明示・財政計画への明確な反映

 大半の自治体では、今後、財源不足から現在保有する公共施設等を全て更新することは難しいため、統合、廃止、民間売却等を進める方針にあるが、本計画において、管理方針だけでなく、個別施設について廃止等の方針を明確に記載した自治体は4自治体にとどまった。また、本計画で実施した将来の財政負担試算を財政計画に反映させると明示している自治体はみられなかった。
 具体的な削減施設等の名称については、再配置計画で示すことになると思われる。また、財政計画への反映は今後期待されるところである。

 7 推進体制の明示・スケジュール化

 推進体制において担当部署・担当組織の明示がみられたのは、11自治体であった。実際には決定しているケースもあると思われるが、早期の体制づくりが望まれる。
 また、個別の施設の対応までスケジュール化されている自治体は、個別施設の方針が策定されていないとできないものであるが、南アルプス市、北杜市の2自治体にとどまった。

 8 先進自治体の取り組み状況

 以上、計画の記載内容について整理してきたが、すでに計画の実施段階に移っている自治体もある。今回、比較的早期に計画を実施した3自治体について簡単なヒアリングを行なった。ここにその概要を紹介する。
 すでに庁内体制を整え、基礎的データを整理しているが、今後想定される個別施設の計画策定、廃止・統合など方針遂行に向けた住民合意等に懸念が感じられる。

 (1)A自治体

◇「全庁的な取組体制の構築」について
  • 関係する各課の担当リーダーや課長補佐クラスによる「推進チーム」を設置し、昨年23回、会議を開催した。
  • 会議では、施設の概要・収支状況、設備の状況等を記載した「情報シート」(更新後の最新版)をベースに、施設の状況を共有している。「情報シート」は、年1回、最新の数字に更新しているが、職員から負担だという声は特に出ていない。
  • 首長の公共施設の老朽化問題に対する危機感は強い。しかし、職員の問題意識においては温度差がある。推進チームの構成員や情報シートの作成に携わる職員は、計画遂行に関わっているだけに関心があるが、そのほかの職員の中には、関心が薄い人もいる。なかなか、自分の問題として考えにくいと思う。
  • 財政部門との連携について、他の市町村では企画部門や施設管理部門などで本計画を担当していることもあると思うが、当自治体では財政担当で計画を策定したので、財政との連携は基本的にできていると認識している。

◇計画の実行について

  • 今年度、個別の施設の方針を決める施設計画を策定する。ただし、今年度から開始するということであって、全ての施設について今年度策定するわけではない。建て替え等で国の補助金を申請する場合、施設計画が求められるため、優先順位をつけて順次策定していく。
    なお、個別の施設について、存続、廃止等の方針表明はもう少し先になる。
◇市民との情報共有・合意形成の推進
  • 今回の計画は、全体の方針・方向性を決めただけであり、住民の関心もまだ低い。計画はホームページに載せ、概要については広報により一度周知をしたが、まだその程度。
    今後、施設の方針を決めるに当たって、住民の声を聞くかどうかについては、まだ何も決まっていない。
◇その他

 今後の焦点の一つは、廃止施設の売却。民間企業に売却をするに当たり、買い手が出てくるかどうか、懸念している。

 (2)B自治体

◇「全庁的な取組体制の構築」について
  • 部長クラスをメンバーとする推進本部を立ち上げ、その下部組織として実働部隊であるプロジェクトチームを設置した。同チームは、課長、リーダークラスで構成しており、昨年度は会議を4回開催した。
  • プロジェクトチームでは、進捗状況を確認する中で、進捗における問題点の検討などを行なっている。予定通りに進まない案件は、方針の見直し案を推進本部に上程し、了解を受け、進めている。
  • 職員の公共施設の老朽化問題に関する認識について、計画策定前に公共施設白書を策定しており、また、会議等の折に触れて今後の財政状況の厳しさを訴えているので、このままでは立ち行かなくなるという意識は持っていると思う。
    当自治体の場合、まもなく合併特例債の発行期限が終了する。このため、比較的財政に余裕があるその時期までに集中して取り組むことにしている。
  • 財政部門との連携について、本計画の事務局・取りまとめ部署は元々財政担当部署内にあったため、常に財政担当部署とは連携を取って計画を進めており、スケジュールに沿って予算化がなされている。
◇計画の実行について
  • 進捗状況について、平成28年度の事業は、ほぼ計画どおりに実施できた。一部の施設において、総論では賛成だが個別方針には協議が必要なケースが発生した(方針を一部変更)。施設に国の補助金が使用されていた場合、目的変更の申請等でスケジュールが遅れる場合もある。
  • スケジュール化について、実施計画を3年後に見直す。小さな修正等は随時実施している。また、具体的な統廃合対象施設の選定について、すでにおおまかな方針は出してあり、個別計画については今後順次策定していく。
◇市民との情報共有・合意形成の推進
  • 計画策定に当たっては、事前に地区の議員を通じて公共施設のあり方など、地域の意見を聴いている。
    また、計画策定後、自治会の長等には説明を行なっている。広報でも周知を行なった。このため、住民のかなりの人たちは、計画について認識している。
    計画について総論では賛成していると考えており、現状、特に反対意見等は出てきていない。実施段階では、細かい調整だけと考えている。
◇その他

 今後想定される施設の再配置について、旧集落の枠組みを排除した案は賛成を得にくいと認識している。 

(3)C自治体

◇「全庁的な取組体制の構築」について
  • 計画策定のための組織を推進管理にも利用している。部長級が出席する統括会議は、情報共有が中心。昨年度は23回実施。課長級が出席する下部組織の部会は、組織横断的な調整まで実際に担当。昨年は再配置計画の素案策定のため、2回開催。
  • 現在、再配置計画の素案作りを進めている。再配置計画は、来年半ばを目処に策定を進めている。再配置計画では、個別施設ごとの方針を出していくが、計画としてどこまで公表するかは、今後検討していく。
  • 職員の合意形成は難しい。この計画の目的は財政状況が厳しくなる中での施設保有コストの削減であるが、所管部署の職員は、遊休施設・低稼働施設の処分を打診すると、「活用努力の欠如」と捉えられることを嫌うためか、処分等の方針に対して同意が得られないことがある。職員の意識向上を図るため、公共施設のあり方に関する研修を実施している。
◇計画の実行について
  • スケジュール化について、住民への説明には時間を要すると思われるが、計画で方針を定める施設はかなりの数に上るため、早急に方針を決定し、実施していかなければならない。このため、モデルとなるような取り組み(モデル事業)をまず一つ実施し、ノウハウを習得した後、パターンを活用して計画を推進していこうと考えている。モデル事業については、早ければ来年度にも着手したい。
  • 今後施設ごとの個別計画を策定していくことになるが、大半の施設は単独施設のため所管部署がなく、本計画の取りまとめ部署で策定することになると思われる。
    施設ごとの個別計画については、総務省の通達では必ずしも策定が義務とは書かれていない。しかし、ある省庁へ問い合わせたところ、「個別計画を作ることになっています」と言われており、いくつかの省庁では策定が前提との認識にある。
◇市民との情報共有・合意形成の推進
  • これまでのところ、積極的には実施していない。計画策定後、議会へは報告した。しかし、ホームページには掲載しているが、広報には載せていない。施設ごとの方針を作っていない現段階で周知を図れば、個別施設に対する方針照会が想定される中で何も答えられず、混乱が予想される。このため、周知は再配置計画ができた時点でと考えている。
    なお、策定に当たり、住民は計画を進めていくことに対して総論では賛成との認識を持っている。

 終わりに

 今回整理を行なった公共施設等総合管理計画は、今後の公共施設の保有のあり方を方向付ける重要な計画である。ただし、必ずしも個別施設ごとの詳細な方針、実施スケジュール等は求められておらず、こうした具体的な内容は再配置計画で検討されることになる。
 住民の多数は、財政状況が厳しくなる中で全ての施設をいままでどおり保有し、従来の負担で利用することはできない、という状況を理解している(今後理解する)と思われる。
 こうした中で、困難が予想されるのは個別施設の統合、廃止、民間譲渡などに対する合意の形成である。耳の痛い情報も積極的に開示するとともに、個別施設の方向性を決める議論には関係住民の参加を促し、「自分たちが決めた方針」という認識を持ってもらうことが必要であろう。「子孫の代に多くの負債を残さない」取り組みとしての理解も訴える必要がある。
 20年、30年という長期の計画ではあるが、人口対策と同様で、悠長に構えていると手遅れとなりかねない。早期に住民も当事者として積極的に関与していくことが望まれる。