VOL.83 「10の基本わざ」
公益社団法人日本けん玉協会では、級位の認定に、10の基本となるわざを設けているそうだ。級位は、10級~1級まであり、受審する級位の規定のわざを定められた回数成功することにより、「合格」となるそうだ。
けん玉の基本は、皿の上などに玉を乗せるシンプルな遊び(競技)であるが、初めてやる方にとっては、これがなかなか難しい。
けん玉に限らず、仕事でもスポーツでも勉強でも人間関係…でも、初めて取り組むことは、誰でも最初からは上手くいかないものである。しかし、場数を踏み、しばらく試行錯誤を重ねているうちに、ある時、“コツ”のようなものがつかめ、その後は、飛躍的に上手くできるようになった経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。
早稲田大学の伊藤万利子助手らは、けん玉を通して、この“コツ”をつかむことの背後にあるメカニズムを科学的に解明するための研究に取り組んだ。
この研究からは、“コツ”の正体について、1つの仮説が導き出された。
けん玉の熟練者は、玉の軌道にぴったりと合わせて自身の頭部を動かしていることがわかったのだ。この技術により、目的物(玉)の速度を相殺し、視覚情報をより得やすくすることができる(“成功に導く情報の検出に関与する知覚をしやすくする運動”)。高速道路で、2台の車が、同じ方向に時速80キロで併走した際に、相手の顔を見分けられることと同じ理屈である。「ボールが止まって見えた」と言ったプロ野球選手もいたが、これもこのメカニズムの究極の状態なのかもしれない(?)。
この春、就職や進学、転職、異動、引越などで、新しい環境に身をおかれた方も多いのではないだろうか。慣れない環境下では、どうしても目の前のことや自分のことに目がいきがちである。そうした時に、一度落ち着いて、周りを良く観察し、必要な情報を得ることが、“コツ”をつかみ、“わざ”を習得するための近道なのかもしれない。
山梨総合研究所 主任研究員 小林 雄樹