『知識・技能』習得の重要性


毎日新聞No.490 【平成29年6月9日発行】

 2015年に実施されたPISA(OECDの学習到達度調査)の結果を見ると、日本は「科学的リテラシー」、「数学的リテラシー」、「読解力」の3分野中「読解力」のみ前回から順位を落とした。文部科学省は本結果を踏まえて、「読む能力」や「自分の考えを表現する能力」の育成など、七つの学習指導改善の例を示している。
 現在、教育再生実行会議や中央教育審議会などで、20年度からの大学入試改革が議論されている。改革による主な変更点は、国語と数学への記述式問題の導入、英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能の評価の導入とされている。さらに出題傾向についても、これまでの「知識・技能」中心の問題から、「思考力・判断力・表現力」を一層重視した設問内容に変わるという。

 この大学入試改革の流れは、早くも中学校の入試問題に変化をもたらしている。某有名私立中学校の算数の入試問題で、「今まで算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じた出来事について簡潔に説明しなさい」という設問が出題された。国語で出題されたのかと思うような設問である。このような中学入試の出題内容の変化が広がっていくとするならば、これは小学校での学習内容にも影響を及ぼす。特に私立小学校では、「思考力・判断力・表現力」の醸成を学習カリキュラムの第一に掲げ、自校の特色として打ち出す学校が増えてくる可能性がある。
 この時、「思考力・判断力・表現力」の育成にとらわれるあまり、「知識・技能」の習得が従来より重視されなくなる恐れがないか懸念される。先の算数の入試問題では、例えば面積や体積の求め方に関する「知識・技能」を、実生活と結びついた、「感動したり、面白いと感じた出来事」として「表現する能力」が必要になる。つまり「知識・技能」の土台をしっかり固めて、それを「思考力・判断力・表現力」を駆使して結論に結びつける能力の醸成が必要なのである。きちんとした知識の裏づけがあってこその思考力である。

 子どもたちに学ばせるべきことは何か。しっかりと見極め導くことが、親や教育機関の責任となる。

(山梨総合研究所 主任研究員 小池 映之)