「稼げる」地方創生へ
毎日新聞No.491 【平成29年6月23日発行】
「地方創生」や「ローカル・アベノミクス」という言葉を耳にするようになって久しい。
第2次安倍内閣の経済政策、いわゆる「アベノミクス」は、都市部や大企業においては、一定の効果が見られたが、地方や中小企業への波及効果には乏しかった。
こうした状況から、2014年、政府は、人口減少や地域経済の縮小といった諸課題の解決によって経済成長を図ろうと、アベノミクス第2弾となる「ローカル・アベノミクス」を打ち出し、その大きな柱として「地方創生」を掲げた。これを受けて、各地方自治体においては、「地方版総合戦略」が策定され、16年度から本格的な「事業展開」に取り組む段階に入った。この6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」には、ローカル・アベノミクス推進のため、地域の「稼ぐ力」の強化が掲げられた。
こうしたなか、最近、アメリカの経営学者マイケル・ポーター氏が提唱するCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念が、注目を集めている。社会問題の解決と企業の利益、競争力向上を両立させ、社会と企業の両方の価値を生み出すための経営フレームワークである。まさに、「三方よし」の概念であるが、一足飛びに事業化できるわけではない。まずは、何から始めたらよいだろうか。
ソニーのウォークマンが、アップルのiPodに市場を奪われたのは、ソニーが事業ごとに厳格な独立採算制を取っていたのに対し、アップルは、社会システムや人々の日常生活の変革までも見据えたうえで、全社利益を追求する組織体制をとっていたことに一因があるという意見がある。部門を越えて社員が協業できる環境は、様々なアイデアが飛び交い、新しい発想が生まれやすい。こうした体制が、地域の企業、行政、大学、団体等の多様な主体間やその組織内でも実現できたとしたら――。後藤知事は、今年度の年度はじめの訓示で「連携」を強調した。
持続可能な地方創生に向けては、地域と企業とで課題を共有し、継続的に「稼げる」仕組みの構築が期待される。そのためには、既存の組織や部門の壁を越えて橋渡しのできる人・組織づくりが、カギとなるのではないだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 小林 雄樹)