VOL.84 「26.6%」
八ヶ岳南麓の農村集落内にある我が家の生垣の葉はまばらである。特に下の方はスカスカで目隠しの役目を全く果たしていない。
この生垣は、静岡出身である私の父が植えた「茶の木」でツバキ科ツバキ属の常緑低木である。茶の木というと、一般には丸く刈り揃えられた茶畑をイメージされる方が多いと思うが、人が手を加えなければ高さ7mを超える品種もあるという。
冬場に葉が極端に減るという現象は、温暖湿潤な気候を好む茶の木が、標高900mの寒冷地に適応できずに葉が枯れ落ちたという理由で納得しようとしていたのだが、ある日、その理由が一瞬で解決することとなった。茶の木の根元に転がっていたのは、ちょっとした臭いを放つ直径1cmほどのコロコロとした黒い物体。どうやらシカが食べていたようなのである。甲府盆地とちがい、厳冬期には田畑のあぜに緑色の草は一切無く、辺り一面が枯草色になる。強いて緑と言えば、植林された針葉樹くらいである。シカにとっては、目線の高さにある青々とした茶の木の葉は、ご馳走に見えたのかもしれない。
シカ、イノシシ、ハクビシン、タヌキなどの鳥獣害をもたらす動物はどうやって集落にやってくるのか。道路の真ん中を堂々と歩いてくるのではない。森を抜けると、茂みや物陰など、身を隠しやすいルートを選んでやってくる。そのルートには耕作放棄され茅場のようになってしまった畑や、廃墟のようになってしまった空き家も含まれる。言い換えれば、鳥獣害が起きやすい環境を人間自身が造ってしまっているということである。
平成28年には農林水産省が、所有者の死亡後に相続登記が行われず権利関係が不明確な農地について調査を行った。これに該当する農地は全国の農地の約2割にあたる約93万haにのぼり、山梨県においても11,424haで全農地面積の28.8%を占めた。
法務省では、長期間にわたり相続による所有権の移転の登記等がされていない土地を調べるため、全国10地区の約10万筆を対象に初の実態調査を行った。その結果、中小都市・中山間地域の宅地、田畑、山林において最後の登記から50年以上経過しているものが全体の26.6%にものぼることがわかった。
一般的に、相続登記が行われない場合、相続の権利を有する人の共有資産として扱われるが、数世代にわたり相続登記が行われなかった場合、権利者が数十人にのぼり、所在や意思の確認ができず、実質的に売買ができない土地となってしまう事例も多い。
東日本大震災の復興事業においても、高台への集団移転先の土地所有者が特定できず、用地買収の遅れが問題となっている。
国も農地中間管理機構への貸付要件の緩和検討など、所有者不明の土地の活用を進める方針をとっているが、これは所有者不明になってしまった土地への対策であり、今後、新たな所有者不明の土地の発生を抑制するものではない。
土地に限ったことではないかもしれないが、「所有する」という権利を有することは、同時に「責任を負う」という義務があることを、所有者自身が再認識しなければならないのではないだろうか。
山梨総合研究所 研究員 大多和 健人