オレンジリング手にして


毎日新聞No.492 【平成29年7月7日発行】

 先日、甲府市の「認知症サポーター養成講座」に参加した。修了証代わりに渡されたのは全国共通の「オレンジリング」という橙色のリストバンド。認知症を正しく理解し、認知症の人やその家族を応援していく認知症サポーターの証なのだそうだ。このオレンジリングの色は柿が基になっている。江戸時代の陶工・酒井田柿右衛門が夕日に映える柿からインスピレーションを得て作った赤絵磁器が海外で評価を得たことから、認知症サポーターの理念や活動が日本から世界に広がってほしいとの思いが込められている。
 認知症サポーターは全国に約880万人。先の講座には平日の夜にもかかわらず20人以上が参加し、関心の高さがうかがえた。

 内閣府の高齢社会白書によると、2016101日現在、日本の65歳以上の高齢者人口は3,459万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%だった。また、山梨県高齢者福祉基礎調査によると、山梨県の高齢化率は16年4月1日現在、28.2%。このうち認知症高齢者は25,789人で高齢者人口の10.8%を占めている。さらに、その半数以上にあたる18,363人が在宅で生活している。なるほど、ここ数年、山梨県内のタクシー業界やコンビニエンスストア等で、見守りなどを実施する高齢者支援の協定締結が増えているのもうなずける。

 今回の講座で教えていただいた認知症患者への対応のポイントは、「見守る」「笑顔で」「おだやかに」「分かりやすく」「相手の言葉に耳を傾けて」など。どこかで見聞きしたなと、ある種の既視感を抱いていると、子育てに悩んでいた数年前、ある育児書に同じようなことが書いてあったと思い出した。
 認知症への対応の「悪い例」をDVD動画で紹介していた際には、受講者から「認知症の人とのやりとり以前に、あの態度は人間としてどうなのか」との意見が相次ぐ場面も。そうなのだ。認知症患者への対応は、子育てにも通じるし、職場でも、地域でも、人間関係全般にあてはまるのではないだろうか。
 見守り、穏やかに、笑顔で―。そんなふうに「人」と接することができる日常は、認知症の人が生きやすくなることはもちろん、私たちにとっても、自分の住む街を豊かにする秘策なのかもしれない。

(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)