見方と見え方


毎日新聞No.493 【平成29年7月21日発行】

 お茶筒を上から見ると丸が、横から見ると長方形が見える。このように見方を変えると見え方が変わるという事実は、自明なこととして受け入れられている。この事実に基づいて確立された製図法は、直交する3方向からの正投影図とそれらの関係を記述することにより、どのような形をしたものかを示すことができる。
 これに対して、我々が抱えている問題は形がなく、文章として記述することにより、どのような問題かを示すしかない。そのため、曖昧さを避けることができず、問題が正しく表されているか検討する手段もない。
 価値観が多様化し情報が錯綜する現代社会はさまざまな問題に直面しているが、それがどのような問題か文章で記述した途端、問題の真の姿から遠ざかってしまう恐れがある。なぜなら、真の問題が何か見えない中で、これが問題だと文章で示すことは、問題を切り出しているからにほかならないからだ。切り出された問題は、切り落とされたものとの関連が失われることにより、変質してしまうことに注意が必要だ。

 それでは、どのように対応したらよいであろうか。それには、製図法の原理がヒントになろう。つまり、正投影図とそれらの関連を記述すればよい。もちろん、形がないのであるから厳密に直交性が保証されるわけではなく、三次元かどうかわからないため3方向で十分かもわからない。それでも、近似的にではあっても、このような原理で記述しようとすることは重要である。

 山梨大学に在職されていた、赤尾洋二先生が新製品開発における品質保証のために提案された品質機能展開(QFD)では、品質表という2元表が重要な役割を果たしている。これは、消費者と生産者という異なる視点からみた品質を相互の関係と共に記述した表で、品質企画や設計に活用されている。つまり、異なる二つの視点からみた「見え方」を記述したものであり、品質という形のないものを記述する一つの方法ということができる。QFDは、2016年に国際標準ISO16355となった。日本発のマネジメント規格として画期的な快挙といえる。

(山梨総合研究所 理事長 新藤 久和)