地域で暮らし続けるために
毎日新聞No.495 【平成29年8月18日発行】
65歳以上の高齢ドライバーによる交通事故が全国的に数多く報じられている。こうしたなか、県や県警では1998年から運転免許の自主返納制度を推進しており、2016年には約2000人がこの制度を利用して返納しているが、高齢ドライバーが約15万人いることを考慮すると決して多いとは言えない。自治体によっては、免許を返納した高齢者に対する支援事業として、コミュニティーバスの運賃割引や回数乗車券、タクシー券などの交付を行っているが、返納時に1回のみの交付となっている場合が多く、継続的な支援を行っている自治体はごく僅かである。
免許返納が進まない最大の理由として、返納後に自家用車に代わる交通手段の確保について高齢者が不安を感じているという点が挙げられる。
地域の交通を担う手段の代表例としてバス交通があるが、人口減少が進む地域においては、民間事業者が採算を確保するのは難しく、自治体が主体となった運営を行っている場合が多い。その他にはタクシーやデマンド交通、病院や小売店、教習所などが運営する送迎バス、カーシェアリングを用いたボランティア送迎などが挙げられる。
一方、利便性を向上させ、高齢者が遠方まで出向く必要をなくす取り組みも進められている。地域に目を向けると、身延町や北杜市などで移動販売車の事業開始や拡大の流れが起きている。また、全国的な動きとしては、デビットカードの仕組みを活用して、小売店のレジで銀行口座に預けられた現金を引き出すことができる「キャッシュアウト」というサービスが来年開始予定であり、移動販売車や宅配業者が導入することで現金自動受払機(ATM)が少ない地域での利便性の向上が期待されている。
現在のところ、地域交通の充実について特効薬と呼べる方法は見つかっていないが、考えることをやめ、高齢者だけの問題であると切り捨てたり、自動運転などの新しい技術開発をただ待っていてはならない。愛着のある地域で暮らし続けるために、住民一人一人が当事者意識を持ち、物流ネットワークの活用も含めて各地域の特性に合った交通の組み合わせを考えること、つまり、その地域独自の「ライフスタイル」を確立することが必要なのではないだろうか。
(山梨総合研究所 研究員 大多和 健人)