Vol.230-1 中小企業とインダストリー4.0、そしてIoT


特定非営利活動法人 ITコーディネータ山梨
理事長 岩田 薫

1.はじめに

 皆さんは「インダストリー4.0」という言葉をお聞きになったことはありますでしょうか?この言葉は、ドイツが最初に言い始め、日本では「第4次産業革命」と訳されています。主に製造業とITの世界で使われている言葉ですが、一方でビッグデータ、クラウド、IoT、AI(人工知能)という言葉なら、1つくらいは皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
 蒸気機関の出現による第1次産業革命、電気エネルギーが登場した第2次産業革命、コンピュータによる第3次産業革命、そして今、IoTによる第4次産業革命として、「インダストリー4.0」が登場しました。
 実は、全てのものがインターネットを中心としたIT(IoT)で結ばれ、そこから大量の情報が「ビッグデータ」としてクラウドに蓄積され、その情報がAI(人工知能)に活用されて、今まで人間では不可能であった膨大な情報の分析結果を予測等に利用し、これにより産業革命を起こそうとするもので、「インダストリー4.0」は製造業だけでなく、あらゆる業種・分野において、影響を受けない業界はない、と言われています。
 その中で、ドイツは徹底的に製造業に特化して、第4次産業革命を行っています。国の施策として始められて6年、既に無人化工場なども操業を始めており、ドイツの「インダストリー4.0」は第2段階に入ったといわれています。
 一方、米国は全ての分野でIoTによる産業革命を進めており、特に車の自動運転では日本の数段先を行っているといわれています。

2 ドイツのインダストリー4.0とは

 ドイツは、日米と比較して単位労働コストが高い国です。現在、ドイツの単位労働コスト100に対して、日本が90,米国が80となっています(アジアは当然格段に低いです)。
 但し、日本は「サービス残業」という見えない労働力がありますので、ドイツは、日本に勝つためにトータルの労働コストを徹底的に削減することを国自身が方向付けしました。要は、ほぼ無人で稼働する工場です。ドイツは、国ぐるみの産業革命を行っています。
 今、ドイツが目指しているのは、主に次の3点です。

① 第1のキーワードは「つなぐ」:自動化された工場が業種を越えてネットワーク化

 センサーや自ら考えるソフトウエア、機械や部品の情報蓄積能力、相互コミュニケーション能力によって、生産工程を高度化し、無人工場を目指します。
 徹底的に全てのものを企業の枠を超えてリアルタイムに「つなぐ」。
 ドイツでは、投資能力のある中規模企業が多く、新しい技術を次々に生産工程に導入してきました。このことが、ユーロ危機にもかかわらず、ドイツ経済が就業者数の減少を最小限に食い止めることができた理由の一つであります。高コスト国であるドイツが、国内に生産拠点を維持するには、インダストリー4.0を断行する以外になく、大企業、中堅企業、中小企業の全てがリアルタイムに「つなぐ」ことを目指しています。
 このため、インダストリー4.0を進めるにあたって標準化が最も重要な課題とされており、国ぐるみで推進しています。

② 第2のキーワードは、「Lot1」:マス・カスタマイゼーションの実現

 「Lot1」とは、「もの」を製造するときのロット数が「1」、要は、全ての製品が個別注文生産品である事を示します。今までのマス・プロダクション(大量生産)に対して、インダストリー4.0は『1個生産システム』を目指します。
 ドイツはインテグレーションコストを極小化し、生産ラインの段取り替えまでも自動化することで「1品モノ」の製品を大量生産と同様の納期・価格で提供することを目指しています。
 実際、既にシューズメーカーのアディダス社は、在庫を持たない小売店舗で顧客がサンプル品より購入品を選択すると、3次元測定された顧客の足の情報が工場に送信され、顧客の元に直接商品が届けられる無人工場を稼働させ、米国に2018年、日本にも2020年に進出する予定です。

③ 労働者は単純作業から付加価値の高い作業へ職域アップ

 徹底した無人工場を目指すため、単純作業の労働者は不要となります。このため、労働者は、より付加価値の高い作業にシフトするよう、再教育が必要になります。
 実は、これが最も難題であり、ドイツのインダストリー4.0が成功するか否かのキーポイントになると思われます。

 ドイツで標準化が最も重要な課題とされているのは、工場内の生産装置の通信規格がバラバラでは効率的な生産工程を実現するためのデータの活用が難しいからで、特に設備機器の技術力で優れている米国、日本との標準化での連携が重要であると認識しています。

3 米国のIoTとは

 国が主導するドイツに対して、米国はあくまで民間が主導する組織としてIIC(Industrial Internet Consortium)が2014年に設立されています。GE、インテル、シスコ、IBM、AT&Tの5社が発起人となり、主にIoTビジネスの実証実験、実行環境の提供を行っており、ドイツと違い、「標準化団体ではない」と強調しています。米国の場合は、伝統的に市場を制したものがデファクトスタンダードであるとの思想があり、ドイツとは基本的に異なります。
 とはいえ、全ての業界を米国企業が主導できているわけではありませんので、ドイツ、日本との通信規格、センサー技術等での標準化を否定しているわけではなく、ドイツ、日本とそれぞれ標準化に向けた提携をしました。

資料:経済産業省『ものづくり』基板技術の現状と課題」より

4 日本の現状

 では日本は?日本でも一部の企業は世界の最先端を走っていますが、多くの企業が出遅れ、米国からはかなり引き離され始めています。精密部品に強い日本は、一部のセンサー技術では最先端ですが、既にビッグデータを活用するクラウドの世界は、米国の大手企業(アマゾン、マイクロソフト、グーグル、IBM)に完全に市場をとられ、日本の企業が入り込む隙間もない状態にまで追い詰められています。最近、東京三菱UFJ銀行が基幹システムをAWS(アマゾン)に移管する報道がありましたが、米国クラウドの寡占化を象徴する衝撃的なニュースでありました。
 また、AIにおいても、米国と中国が巨大な投資を行い、中国が米国を凌駕するのではないかとまで言われ始めており、日本のAIは完全に出遅れています。AIは、膨大な情報を学習することにより、より精度の高い最適制御が可能となりますが、中国の収集する情報量に米国もかなわず、日本は全く相手にならない状態になっています。

資料:経済産業省より

 

5 IVI(Industrial Value chain Initiative)コンソーシアムの紹介

 さて、日本のインダストリー4.0ですが、2015年に法政大学の西岡靖之教授が中心となり、民間企業22社の賛同者等が発起人となって、IVI(Industrial Value chain Initiative)コンソーシアムを設立しました。
 IVIは、日本のものづくりの強みを生かしたインダストリー4.0を目指すべく、「つながる工場」、「つながる現場」を目指しますが、ドイツと異なり、IVIは、“人”の存在をあえてクローズアップし、人が中心となったものづくりが、IoT時代にどのように変わるか、変わるべきかを現場で実験しています。
 この中で、「IVIプラットフォーム」の構築を目指しており、

① ゆるやかな標準
 個別の差違を許容し、共通化する部分が段階的に進化

② しなやかなインフラ
 システムの成長に合わせて、柔軟にその構成やスケールを変更

③ したたかな実装
 独自技術を隠蔽し、共通部分のみ大胆にオープン化

をめざし、標準化作業を行っています。
 個々の企業の核となる技術、ノウハウは隠匿し、「つながる工場」を実現するためにどこまでオープン化しなければならないか、業種、競合の枠を超えて、実証実験を行っています。
 例えば、トヨタ、日産等の自動車業界、日立、東芝、パナソニック、三菱等の弱強電業界、富士通、NEC等のIT業界等に、主に機械電子部品系の中小企業、三菱総研、富士通総研等のサポート会員まで200社を超える企業が日本版インダストリー4.0を推進しています。

資料:経済産業省 糟谷敏秀「第四次産業革命への対応」より

6 日本の中小企業の目指すべき道とは

 ドイツでも日本でも目指している「つながる工場」では、外注先の中小企業も例外ではありません。工場の内外を含めて「つなぐ」ことが求められますので、外注先の中小企業も例外ではなく、委託した部品の製造がどこまで進捗しているか、常に情報提供できる仕組みが要求されます。
 現状、リアルタイムに在庫管理と工程進捗管理ができている日本の中小企業は何%あるでしょうか?私の予想では多くて10%と見ています。残り90%の企業は今部品がいくつあるか、目で見なければ委託元に報告できませんし、進捗も現場に行かないと確認できません。
 今からインダストリー4.0で求められるのは、委託元が手元のコンピュータで、外注先の在庫、進捗状況が見られることです。部品の欠品は起きないか、設備の故障は発生しないか、これらを事前に察知して未然に防ぎ、計画通りの生産ができる。これに対応できなければ、将来、部品加工の依頼は来なくなるでしょう。匠の技があれば大丈夫と高(たか)括(くく)っている企業もありますが、その「匠の技」もセンサー、画像認識等で丸裸になりつつあり、いつまで優位性が保てるか疑問です。
 実は、IVI自身が、中小企業の現状を良く理解しており、中小企業向けの実証事件では、受注、進捗等の情報連携を中心に行っています。経済産業省の補助金事業でも、中小企業がFAXをやめ、業種を超えてコンピュータで情報連携できるよう、本年度1年間で実証実験を行っており、来年には実際に有料でサービスが提供され始めるであろうと思われます。そのときに、社内の在庫管理、進捗管理のシステムが稼働できていない企業は、生き残りがきつくなることを覚悟しなければなりません。

 

資料:経済産業省『第4次産業革命への対応』