自殺対策 どうあるべき
毎日新聞No.501 【平成29年11月10日発行】
2016年4月、自殺対策基本法が改正され、自治体に2018年度内の自殺対策計画策定が義務付けられた。同法は、年間自殺者が3万人を超え続けていたことを背景に06年に成立した。それまで個人の問題とされていた自殺を「追い詰められた死」と位置付け、自殺を社会的な問題としたことが画期的だった。現在、自殺者は2万人台前半で推移しているが、自殺死亡率でみると主要先進7カ国で最も高く、なかでも若年層の自殺と事故の死亡率を比べると、自殺が事故を上回っているのは日本だけとなっている。厚生労働省の自殺対策白書(17年版)は「若い世代の自殺は深刻な状況にある」としている。
17年7月に閣議決定された「自殺総合対策大綱」では、社会全体の自殺リスクを低下させる重点施策として、インターネットやソーシャルネットワーキング・サービス(SNS)などの「ICTの活用」を掲げているが、神奈川県座間市で起きた死体遺棄事件では、このSNSが犯罪に大きく関わっていたとされる。自殺志願者と見られる若者がSNSに書き込んだ内容が悪用されて犯罪が行われた可能性が高いという。
SNSを利用した自殺対策としては、厚労省がフェイスブックの中で相談先の電話番号を掲載している。また、アメリカのツイッターは17年11月、利用者に自殺の兆候があると報告を受けた場合は、ツイッターから利用者にメンタルヘルスパートナーの連絡先などの情報を伝える可能性があるとサービスルールを変更した。このルールは今後日本のツイッターにも適用される予定だ。また、自殺志願者の相談を受ける民間団体も、SNSを使った防止策の強化に乗り出している。あるNPO法人は、13年からインターネット上に広告を出し、閲覧者を無料の相談サイトに誘導する取り組みを行っている。
電話や対面でのコミュニケーションを苦手とする若者は多く存在する。特に自殺を考えている若者は、家庭や学校、職場などに居場所をなくしている可能性が高い。そのような若者が逃げ込む場所は、現代ではネットの世界しかないというのが実情と思われる。
行政は自殺対策計画を策定するに当たり、このような若者の特性を認識し、従来型の相談窓口設置などの対応から一歩踏み込んで、SNSとゲートキーパーを組み合わせた対応を積極的に計画に盛り込んでいくべきではないだろうか。社会的に追い詰められた若者にそのようなサイトを通じて、今回の事件のような「悪意」よりも先に「支援」の手を届けられるように、ひいては追い詰められた若者が死ななくてすむように、社会全体でシステムを構築できるようにすべきである。
(山梨総合研究所 主任研究員 小池 映之)