富士山チャレンジ


毎日新聞No.502 【平成29年11月25日発行】

 先日、環境省から2017年夏季の富士山登山者数が公表された。富士山8合目における開山日(吉田ルート:7月1日、須走・御殿場・富士宮ルート:710日)から910日までの登山者数の合計は、前年から約3.9万人増え、約28.5万人。うち山梨県側の吉田ルートからの登山者数は、約17.3万人(前年比約2.1万人増)に上った。

 世界文化遺産「富士山」を巡っては、18年までに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産センターへ「保全状況報告書」の提出が求められている。その中で「望ましい富士登山の在り方」を実現するため、登山道毎の1日当たりの登山者数の水準を盛り込むこととしている。こうした中、この夏、富士山をフィールドに民間主導の興味深い実証実験が行われた。
 富士山登山者の安全を確保するために立ち上がった、「富士山チャレンジ」プロジェクトである。きっかけは14年の御嶽山の噴火災害だった。登山者の安全を守り、登山者の家族や関係者の不安をなくしたい――。そんな思いから始まった取り組みだ。
 「富士山チャレンジ」は、近距離無線通信「ブルートゥース」を使った小型発信機「ビーコン」を登山者に身につけてもらい、山小屋など登山道沿いに設置した受信端末で通過情報を測定し、登山者数や通過に要した時間、登山経路などを把握。受信したデータはサーバーに送信され、登山者や関係者などの登録したメールアドレスへ登山道の混雑状況や位置情報、山頂到着予想時刻などの情報を即時に提供する仕組みである。

 当初、数人で始まったプロジェクトは3年目の今年、30もの企業や団体、研究機関が参加し、2,368人の登山者を対象に実証実験を実施するまでに拡大した。「安全安心で、皆が楽しめる登山環境を創る!」という共通理念の下、それぞれが、資金や機材、技術、知見、人脈などを持ち寄り、連携して取り組んできた結果である。プロジェクトからは、ドローンによる上空からのビーコン検知(登山者の見守り)や精密な登山道三次元地形図の作成といった新たな試みも数多く生まれている。
 プロジェクトの目標には、富士山に登るすべての人へのビーコンを活用した安全、安心な仕組みの提供を掲げる。さらに先の目標には他の山や国立公園、海外への展開を掲げている。これからの“挑戦”も楽しみな取り組みである。

(山梨総合研究所 主任研究員 小林 雄樹