トテ馬車の復活を願う


毎日新聞No.505 【平成30年1月5日発行】

 昨年8月、甲府市「昇仙峡」のトテ馬車(道産子馬の観光遊覧馬車)が営業を終了した。報道等によると、トテ馬車は戦後間もなく始まり、最盛期には10数台が運行されていたが、近年は1台のみでの運行であった。終了の理由は、利用客の減少により馬の維持管理費がまかなえなくなったことや後継者難などが挙げられていた。
 ちなみに、トテ馬車の由来は、お豆腐屋さんが吹くラッパを使って「トテー、トテトテトテー」と吹いて、馬の歩くリズムと合わせてお客さんに聞かせていたことから、そう呼ばれるようになったらしい。
 その昔、トテ馬車に揺られて渓谷沿いを眺めた記憶があるが、その蹄の音が何とも愉快でほほえましかったことを今でも覚えている。

 栃木県那須塩原市の塩原温泉街にある大脇観光トテ馬車の大脇さん(64歳)に話を聞くと、塩原のトテ馬車も最盛期には26台あったが、今では1台だけとのこと。「馬は生き物でえさ代だけでも毎日2,000円、年間で70万円~80万円程度かかる、人件費も考えれば割りに合わない、できるだけ続けたいと思うが」と、最後は言葉少なかった。高速化、自動化、効率化が求められる今日、トテ馬車をとりまく状況はどこも似たり寄ったりで、とても厳しい。
 他方、そのような時代だからこそトテ馬車に乗って、ゆっくり、ゆったりと、「日本一の渓谷美」の景色や水音、鳥の声を楽しむプチ贅沢があってもいいのではないか。

 ところで無くなってしまったものもあれば、新たに復活したものもある。
 アルプス市の高尾地区では、過疎化によって1,000年の歴史を持つ「穂見(ほみ)神社」の行事が途絶えていたが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを活用して県内外からの参加者を募り、古道の整備や「ちょうちん行列」を半紀ぶりに復活させている。
 地域資源の「昇仙峡」+「トテ馬車」の復活に向けて、何かできないだろうか。

(山梨総合研究所 主任研究員 相川 喜代弘