Vol.234-1 外国人人材をどう受け入れるか
ユニタス日本語学校
校長 上田 一彦
昨日、帰りがけの学生に問いかけてみた。
「どこの大学に行くの?」「島根大学です。」隣にいたもう一人の学生は、「広島大学です。」
志望理由を聞いてみると、一人は、古事記が好きだから、もう一人は、毛利元就が好きだからと答えた。
外国人人材をめぐる動き
外国人労働者の数が100万人を超えた(厚生労働省統計で108万3,769人)。外国人人材をめぐる動きは、ここ2~3年で大きく変貌をとげた。
現在の在日の外国人の在留資格を種類別に分けた割合は、グラフの通りだが、なかでも最近話題となっているのは急増する技能実習生と留学生のアルバイトである。
その場合、彼らは500万人ともいわれる労働力不足を補う戦力としての位置づけとなる。
技能実習生については、もともと国の肝いりで1992年にスタートした制度だが、発足当初から何かと問題が多く、何度か厳格化が試みられた。結果、待遇が改善され適用範囲が広げられ、期間も5年へと延長されたが、給与の未払い、パワハラ、セクハラ問題が一向に改善される気配がない。オーバーステイも増え始めている(国際的にも“奴隷制度”との批判を受けている)。
そもそも国は、高度人材確保を謳い、単純労働者は認めていないので、やむなくひねり出した方法だが、実態は単純労働者、実習生が帰国後それぞれの国で日本で実習した技術を移管している例は私の知る限りではごくわずかだ。
そもそも玄関を閉めて、勝手口から入れようとする制度がうまくいくはずがない。
加速する人手不足に対応するため、IT、農業、旅館、建設分野への緩和を進め、2017年11月からは、介護実習制度に加え、介護ビザの制度も新しくスタートしたが、そのことがさらに混迷を深めている。
法務省は、今年から、日系4世の数千人の受け入れを決定している。コンビニ業界も技能実習生制度にコンビニを加えるよう申請を始めた。
一方、高度人材の一翼を担う留学生をみてみると(大学等への進学者の約7割は日本語学校経由)、ここ3~5年で派遣、不動産、塾等の参入もあり、日本語学校が200校近く新設され、630校を超えた。それに伴い、留学生も急増し、一部とはいえ新設校を中心に問題を起こす学校も出て、マスコミで取り上げられてきている(古くから真面目に教育を行ってきている学校としては、一緒にされたくないというのが本音だろうが、そうは見てくれない)。
おかげで首都圏の専門学校は、満杯状態である。大学も留学生の受け入れに本腰を入れ、日本人学生の減少もあって留学生確保に活路を見出そうと急ハンドルを切り始めている。
様変わりする留学生のアルバイトと就職状況
しかし、ここでも人手不足を補う戦力として留学生が使われ始めている。都内のコンビニでは深夜時間帯は外国人スタッフの方が多いという。留学生が働けるのは、週28時間と決められているため、賃金の高い深夜勤務を選ぶケースがあるからだ(週28時間を超えて働くと、原則母国へ強制送還される)。
つい2~3年前までは、留学生のアルバイト探しに学校スタッフが奔走していたのがウソのように、ほぼ連日、大手企業も含めアルバイト学生を求め求人担当者が来校する。
日本語学校から直接就職するケースも増え始めている。母国で大学等高等教育を受けた学生は日本での就職が可能なので、すぐに人が欲しい企業にとっては好都合とあって、卒業を待たずに就職の道に走る。
せっかく日本に来ているのだから、少なくとも3~4年位は日本で働く機会があった方が良いとは考える。しかし、日本語能力が不十分なまま、やみくもに就職をするのは考えものである。日本人的に、本人の学歴等からしてもったいないとは思っても、最終的には学生本人が決めることなので、今のところ学校は、確かと思われる団体の説明会を推薦し、就職先の企業がブラックでないかどうか気を配ることくらいしかできていない。
何が問題を起こさせ、何が問題なのか
外国人人材を受け入れるにあたっての問題点は多く存在する。いったい何が足りないのか?
ここでは“移民”の是非を問うつもりはないが、現場にいるものとしては、国、企業、大学等がもう一度受け入れ態勢について考え直さないと、双方ともに不幸な結果になるような気がする。
地方と首都圏との違いも浮き彫りになってきている
観光立県の山梨に宿泊した人数は、昨年の統計を見ると予想に反し減ってきているが、外国人客は3万人強増えた。中国、韓国、台湾、タイと軒並み増加だが、一方では、大学の学生、中小企業の人手不足は首都圏とは違った意味で深刻さを増している。
若者は大都市を目指す傾向にあるが、地方に思ったような就職先がないというよりは、魅力が欠けている、もっと言えば若者にとって面白くないからだろう。
私は、かねてから山梨に留学生を呼ぶためには、オール山梨で対応しなければ無理だと考え、各大学に働きかけをしてきてはいるが、事態が深刻な割に、意思決定・対応が遅い。大学に限らず、A校、B校といった個別の組織の壁を越えて優秀な人材を確保していかなければならない時代なのに、なかなかその壁を超えようとはしない。
官・学だけに頼らず、もっと幅広い人材を活用し、アイディアを出してほしい。いくらでも方法は見つかるはずだ。
これからの受け入れについて
留学生の就職に関しては、かねてより、学生と企業側のミスマッチが言われ続けているが、なかなか有効な手立てが見つかっていない気がする。
本当に外国人人材を受けいれようとするならば、当然、基盤となる各国の事情を理解する努力が今より必要となってくる。
情報が少ない、受け入れ方法がわからないとの声も聞くが、それは人任せで、勉強不足にすぎると考えたほうが良い。
外国人人材の使い捨てをやめない限り問題は解決しないと思うが、まずは受け入れ側がきちんと意識を変えて、日本人と同じように戦力としての受け入れを図るべきだと思う(社会は何よりも生活している人たちのためにある。生活していればルーツが日本であろうがなかろうが同じはず)。
多文化共生社会に向け、まずは受け入れ側の意識を変えていく必要があろう。
そのためには長期的には、子どもの教育等包括的な受け入れ態勢の整備も必要になるだろうし、日本語教育も今以上に大切になってくる。それもキチンとした生活日本語、ビジネス日本語の習得が必要となる。
留学生の多くは,かつての日本からの留学生同様、苦学生が多い。日本より経済的に遅れている国から人材を入れようとするなら、奨学金の充実も考えるべきだろう。
働き方改革とやらを言うなら、もっと真剣に外国人人材のことも考えるべきだ。
日本語学校は監督官庁をもたない状態の中で、数々の失敗を重ねながら必死に学んできた。
手前みそになるが、少なくとも失敗から学び、学生受け入れのノウハウを持つ、まじめに運営をしようとしている適正な日本語学校の活用くらいはもっと考えてもよいと思う。
大谷選手を育てた花巻東高校の監督が言った「へたな先入観は可能を不可能にする」という言葉がそのまま当てはまるかもしれない。
留学生30万人計画と外国人人材の受け入れ
留学生30万人計画は、早晩達成されるだろう。大切な役割を課されながらも、いまだに監督官庁を持たない日本語学校の位置づけをはっきりさせる必要がある。関係者の努力で、文部科学大臣経験者等による議員立法“日本語教育基本法”が今年中には成立する可能性が高い。
このことが認知への第一歩となることを願う。そして、外国人人材の適切な受け入れの一助となることを。
先入観を捨てて、外国人人材とまともに向き合ってほしいと願っている。