Vol.234-2 「バズる」考察 ~あるツイートを追って~
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺 たま緒
はじめに
「バズる」という言葉をご存知だろうか。
インターネットで調べると「特定の単語や物事がインターネット上で爆発的に多くの人に取り上げられることを意味する語」とある。「Twitter[1]やFacebook[2]などのSNS[3]で急に話題となった時に用いられることが多い。『口コミ』という意味のマーケティング用語『Buzz』を動詞化したものと思われる」(実用日本語表現辞典)とのことだった。
ちなみに、「バズる」はインターネット上に短時間で拡散されることであり、じわじわと拡散されるのは「バイラル」というのだそうだ。また、最近、よく耳にする「炎上」は、「バズる状況と同様に短期間に一挙に話題を席巻するものの、好意的な興味・関心ではなく、むしろ反感や嫌悪感に基づく非難・批判によって話題を席巻する状況」(IT辞典バイナリ)と区別されているようだ。
共感などを意味する「いいね」数やリツイート数などが何件を超えたら「バズった」とされるのかについて明確な定義は見つけられなかったが、一般的に「いいね」数が1万件を超えると「バズった」状態というのが通説のようだ。
2016年の新語・流行語にも選ばれた「保育園落ちた日本死ね」はブログからの発信だったが、多くの人の記憶に残る、ある種「バズった」ものだと言えるだろう。
近年は、インターネットが火付け役となり、ニュースとなることも多くなった。
情報通信端末保有率とソーシャルメディア普及率の推移
総務省の「平成29年版情報通信白書」によると、2016年の情報通信端末の世帯保有率は「モバイル端末全体」で94.7%、「パソコン」は73.0%となっている。2010年から2016年までの推移をみると、「スマートフォン」(以下、スマホ)と「タブレット型端末」(以下、タブレット)の保有率の増加が著しい。
タブレットを家の中や庭、店に持ち歩いては常に見ている子ども。母親が「コンピューターで何をしているの」と問いかけると、「コンピューターって何?」と子どもが返す。こんなやり取りを切り取ったテレビCMがあった。「コンピューターの時代は終わった」と印象づけられるCMだった。スマホ、タブレットの保有率から見ても、職場に自分のデスクがあり、そこに据え付けられたパソコンで作業するというスタイルが「古く」なるのも時間の問題だろう。
【図表1】情報通信端末の世帯保有率の推移(世帯)
(総務省「平成29年版情報通信白書」)
※ モバイル端末全体は携帯電話・PHSと、2009年から2012年までは携帯情報端末(PDA)、2010年以降はスマートフォンを含む。
また、主なSNSの利用率を見ると、多く利用されている(利用率が20%を超えている)のは、LINE[4]、Facebook、Twitter、Google+[5]、YouTube[6]、Instagram[7]であった。さらに年代別では、Twitterで10代と20代の利用が多いという特徴が見られた。
Twitterは、その匿名性と手軽さから若者に特に好まれて使われているツールと言ってもよいだろう(図表2)。
【図表2】主なSNSの利用率(全年代・年代別/2016年)(総務省「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」)
「バズる」を追う
筆者の友人のTwitter投稿が「バズ」った。
ある日、筆者は友人から「今から投稿する」と連絡を受けたため、その動向を観察することにした(図表3)。投稿内容は、ある兄弟のほっこりするエピソード。SNSを通じてどんな反応があるのか興味はあったが、「バズる」ことは想定になかった。このため投稿から半日間は記憶による数であり、正確にカウントし始めたのは、投稿翌日の午前11時15分からであることをご了承いただきたい。
投稿したのは平日の13時頃。その瞬間から、ちらほらと反応が出始める。投稿初日24時頃の「いいね」の数、及びリツイート数は120件程度だった。
投稿した友人の普段の「いいね」数は平均30前後、リツイート数も数件なので、友人個人としては、普段より拡散されたと言ってよいだろう。
驚いたのは一晩明けてからだった。5時半ごろの「いいね」数は500件を超え、リツイート数も似たような伸びを見せていた。その後、11時15分には「いいね」数が1,851件、リツイート数は1,564件、さらにその約1時間後には「いいね」数が2,964件、リツイート数が2,861件まで増えた。リツイートがリツイートを呼び数字は加速度的に伸び、19時には「いいね」数は2.2万件、リツイート数は1.6万件まで膨れ上がった。
「いいね」とリツイートの数に関しては興味深いこともあった。「いいね」数が1万件を超えたあたりから、メディアの目に留まり始めたことだ。メディアといっても、紙媒体の新聞、雑誌ではなく、ネット上のいわゆる「まとめサイト」で情報を提供するネットメディアである。「記事でTwitterの投稿を紹介させてください」という掲載依頼のダイレクトメッセージ(直接届く非公開メール)が投稿者に入ってきたのだ。投稿者が掲載の認否を決めかねている間にさらに他社から2件追加された。この時点での閲覧数(「いいね」やリツイート、リプライを残すことはないものの、その投稿にアクセスした数)は、100万件を超えたという。
ネットメディアがまとめサイト上で記事にしたことで、「いいね」とリツイートの数にも拍車がかかり、その結果、「Yahoo!ニュース」がネットの記事を「話題」として取り上げたり、Twitterのトップ画面に表示される「今日のモーメント」にもこの投稿が出現。するとそれを見た人たちがまた友人のTwitter投稿にアクセスし「いいね」やリツイートする、という無限ループのような状態が起こり、投稿から丸2日目にあたる13時には「いいね」数が6.9万件、リツイート数は3.9万件、17時半の総閲覧数は960万件を超えた(図表4)。
960万という数字は、東京23区の人口[8](927万人)を上回り、日本の主要5紙の発行部数[9](朝日新聞:612万1千部、毎日新聞:296万部、読売新聞:873万4千部、日本経済新聞:269万5千部、産経新聞:157万8千部)をも上回っている。わずか2日間である。インターネットの情報伝播の威力を感じざるを得ない。
【図表3】「いいね」数とリツイート数の推移
【図表4】2日間経過したときのTwitter画面(左)と2日目17時30分ごろの閲覧数等(右)
今回の爆発的拡散の要因を考えてみると、以下の4点が挙げられる。
- タイトルや内容が多くの人の興味をひいたこと
- もともと投稿者のフォロワー[10]数が約2万人と多かったこと
- ネット上で影響力のある人がリツイートしたこと
- ネットメディアが取り上げたこと
すべて結果論であり、いずれも憶測の域を出ない。ただ「3.」については、「遠足型消費の時代」(中澤明子 古市憲寿著・朝日新聞出版)に、古典的なマーケティング手法であるいわゆるオピニオンリーダーから発せられる情報による情報拡散が現在の「共感型マーケティング」になっているとある。「共感型マーケティング」は、「一部の『感度のよい人』が見つけてきた新しい情報に、その他大勢のフォロワーが後追いで『共感』する」ことにより情報が拡散することだとしている。
今回の拡散でも同じことが起こったのではないだろうか。そして、それをネットメディアが追随することで、さらに多くの人による拡散の連鎖が起こったものと考えられる。
Twitterの光と影
Twitterは読者がリプライと呼ばれる返信(意見)を送れる仕様になっている。寄せられるリプライ数の推移については正確に観察していないものの、リツイート数の10分の1程度の速度で伸びていった。投稿者は当初、すべてのリプライに対して返信していたが、40件を超えたあたりから対応が不可能になった。「いいね」やリツイートほどの数ではないにしろ、リプライ及びダイレクトメッセージが次々と寄せられるため、仕事をしながら全てに対応するのが難しくなったのだ。投稿者は、リプライを寄せてくれたことに対する御礼と、目を通すようにはしているが個別返信ができない旨を投稿することで、個々には対応しない方法に切り替えた。
リプライの内容については概ね好意的なものが多かったものの、中には心無い言葉を残す人もいた。筆者はTwitterをほとんど利用しないため、炎上などのニュースを聞いても他人事と受け流してしまうことが多いが、今回は投稿者が友人だったこともあり、「いいね」やリツイート数が爆発的に増えるのと比例して、否定的、悪意のあるリプライが散見されるようになったことにある種の恐怖感を抱くとともに、良くも悪くも世の中の「生の声」が瞬時に得られることの魅力も覚えた。
2日間で寄せられたリプライ数は、投稿者本人のものも含めて631件。前述のTwitter利用者の年齢層が10代、20代の若者が約60%であったことから、単純計算をすると、約380件は10代、20代のリプライだったということになる。
リプライの良否は別にしても、10代、20代に「自らの意見を自らの言葉で表現できる」人がこんなにもいることは喜ばしいことなのではないか、と嬉しく思う一方で、気がかりなこともある。
30代以上のいわゆる大人が情報をつかんでいない「ネット社会」の中で、これらのツールが犯罪の連絡手法となり、若者が犯罪に巻き込まれるケース、犯罪に手を染めるケースが増えていることだ。
昨年12月、神奈川県座間市のアパートで9遺体が見つかった事件も、被害者と容疑者が出会うきっかけはTwitterの投稿だったと報道されている。また、容疑者は当時27歳、被害者も10代から20代の若者だった。
警察庁の「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」によると、コミュニティサイト[11]がきっかけとなった事件の被害児童数は、データがある平成20年以降、年々増加しており、平成28年の上半期と平成29年の上半期を比べても30件増加している(図表5)。被害児童数919人を年齢別にみると、16歳が最も多く231人、次いで、15歳(201人)、17歳(199人)、14歳(148人)と続いている(図表6)。
【図表5】コミュニティサイト及び出会い系サイトに起因する事犯の被害児童数の推移
(警察庁「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」)
【図表6】年齢別被害児童数の構成比(平成29年上半期)(警察庁「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」より山梨総研作成)
さらに、主なコミュニティサイト種別の被害児童数を見ると、LINE、Twitter、Facebookなどが含まれる「複雑交流系」の増加が著しく、平成25年の上半期には47件だったのに対し、平成29年の上半期には412件と約9倍に増加している(図表7)。中でもTwitterに起因する被害児童は特に多く(図表8)、若者世代のTwitter利用率増加に比例して被害児童が増えていることが分かる。
【図表7】主なコミュニティサイト種別の被害児童数の推移
(警察庁 「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」)
【図表8】主なコミュニティサイト種別の被害児童数
(警察庁「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」)
おわりに
さて、「バズった」Twitter投稿は、丸2日経過後も「いいね」数は1時間に1,000件のペースで伸び続け、「いいね」数は7.3万件、リツイート数は4万件まで膨れ上がった(2日目17時時点)。ネットメディアには合計7社から取り上げられ(うち2社はネットメディアの転載)、ようやく落ち着きを見せたのは3日目からだった。
投稿者のスマホは通知機能が鳴り続け、何万ものリアクションやネットメディアに対応し、投稿を目にした古い知人からも連絡が入り、と最初の一日はスマホを手放せなかったという。「こうなったのはすべて自己責任」と投稿者は笑って振り返ったが、自由、気ままに使えるSNSにはメリットとデメリットの両面が潜んでいることをあらためて認識させられた「Buzz」であった。
〈参考・引用資料〉
- 「平成29年版情報通信白書」(総務省)
- 「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(総務省)
- 「遠足型消費の時代」(中沢明子 古市憲寿著 朝日新聞出版)
- 「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策・関連資料」(警察庁)
[1] Twitter:ウェブ上で短いメッセージ(140文字以内:欧米等では280文字以内)を投稿し合う簡易投稿サイト。匿名・あだ名などで登録可能。
[2] Facebook:原則として実名で登録して利用し、自分の近況を報告したり、友達を見つけたり、共通の興味を持った人が集まるコミュニティを作ったり、写真を共有したりする投稿サイト。
[3] SNS:ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略。人と人とのつながりを促進・サポートするコミュニティ型のWebサイト。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といったつながりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供する、会員制のサービスのこと。Twitter、Facebook、LINE、Youtube、Instagramなどがこれにあたる。
[4] LINE: メッセージ交換や音声通話ができるスマートフォン向けに開発されたサービス(メッセージ交換だけなら、パソコンや一部の携帯電話向けのサービスも提供されている)。文章や写真で自分の近況が報告できる「ホーム」や、LINEでつながっている友人の近況をまとめて閲覧できる「タイムライン」機能を持つ。
[5] Google+:インターネット上でコミュニケーションをとるツールの一つ。コンテンツを共有できる「サークル」、・最大9名まで無料でビデオチャットができる「ハングアウト」、携帯やPCの写真を加工、管理できる「写真共有」、ソーシャルゲームが遊べる「ゲーム」、複数人でグループチャットができる「メッセンジャー」の機能を持つ。
[6] YouTube:利用者がウェブ上で自作のビデオ映像などを投稿・閲覧できるサービス。
[7] Instagram: ウェブ上に画像や短時間動画を投稿・共有するサービス。写真に特化したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。
[8] 平成27年国勢調査による数字
[9] 一般社団法人ABC協会による平成29年10月度の数字
[10]フォロワー:あるTwitterのアカウントをフォロー(自動受信登録)している人のこと
[11] コミュニティサイト:興味や関心を共有する人々がインターネット上に集まり,情報交換を行うコミュニケーションを中心とした Web サイトやインターネットサービスの総称