移住者に優しいまちとは
毎日新聞No.508 【平成30年2月16日発行】
神奈川県から山梨県に移住をして来てもうすぐ10年になる。テレビの天気予報を神奈川県ではなく、甲府から見ることにはじまり、買い物環境、飲食店、道路事情をクリアし、周囲の山を見ながら東西南北で自分の現在位置を確認するまでになった。
両親は山梨県出身だ。幼少期から甲州弁に接していたこともあり、神奈川県に在住していた当時から荷物を「もちに(取りに)」行ったり、背中を「かじって(かいて)」もらったりと、神奈川県ではおかしな言葉を話す人間として有名だった。最近では日々、標準語として甲州弁を使って会話をしている。
この移住者が山梨県で生活してみると、山梨は、視点によっては他県が優れていると感じる部分が多々あることを認めながらも、住むには最も良い場所と感じる。これは、自然環境や住宅、通勤環境、教育や雇用環境など個々の要素について加点・減点しながらトータルの評価で考えるような、当たり前の理由からではない。
なぜ住むのに最も適しているのか。ずばり人間関係である。山梨県には、強固な人間関係に縛られることなく、「無尽」をはじめとしたゆるい仲間同士で集まる会合が多々ある。お互いに軽く悪口を言い合いながらも、どこか楽しく心でつながるような集団である。また、自分の知り合いと仲間の知り合いが共通の友人としてつながっているような集団も多い。顔が見えやすい。そのつながりの中で、緩いながらもしっかりと自分の空間を保てる場所として、山梨県は最も確立されていると感じている。
山梨県には、元々無尽があり、仲間を作ることや他人を受け入れる土壌がある。他県の人間から見ると、それぞれの集団は強固な人間関係に見えるが、入ってみるとそうでもない。他県の人間は、なかなか敷居が高く感じ、第一歩が踏み出せないが、どことなく勝手に、そう言いながらも少しは気にかけて受け入れてもらえる。その素地は山梨県が最も有していると感じる。
筆者はこのような環境に身をおけるようになった恩人の言葉を今でも忘れていない。
「こっちこーし(こっちにおいで)」。移住者を見つけたら、どうか気軽にこの言葉をかけてほしい。
(山梨総合研究所 上席研究員 古屋 亮)