Vol.236-2 山梨は健康寿命がなぜ長いのか


公益財団法人 山梨総合研究所
上席研究員 古屋 亮

1 はじめに

 健康寿命とは、健康上問題なく生活できる(介護や支援を必要としないで、日常生活に制限のない状態)自立期間のことをいう。
 平成30年3月[1]厚生労働省が発表した都道府県別・男女別の健康寿命をみると、山梨県は、平成28年の都道府県ランキングで男性1位、女性3位となっている。
 平成25年の調査では、山梨県は男女とも全国第1位となっており、また、資料が残る平成11年の旧厚生省橋本修二研究班の報告においても、山梨県は男女とも健康寿命が長く、女性は全国第1位となっている。山梨県は健康寿命が長い県となっている。
 山梨県が健康寿命の上位に位置することについては、地域性、社会習慣、食事等を含め多様な要因があると考えられる。そのため、健康寿命の長さに直接的に関わる要因を明らかにすることは難しい。
 しかし、健康寿命が上位に位置する県と、そうでない県には何らかの要因があることが考えられる。そこで、本稿ではいくつかの項目を挙げたうえで、健康寿命との相関を明らかにしてみたい。

2 健康寿命と平均寿命の変遷

 図表1で健康寿命についてみると、平成28年の全国平均では、男性が72.14歳、女性が74.79歳となっている。
 次いで平均寿命[2]をみると、男性が80.98歳、女性が87.14歳となっている。
 平均寿命から健康寿命を引くと、男性では8.84年、女性では12.35年となっており、この期間は、何らかの介助・介護等が必要な日常生活に制限のある生活を送る「不健康な期間」といえる。
 図表1から平成22年と平成28年の平均寿命と健康寿命を比較すると、平均寿命では男性は1.43歳、女性は0.84歳の延伸であるのに対して、健康寿命は男性1.72歳、女性では1.17歳と平均寿命より延びており、健康でいられる期間が長くなっているのがわかる。

図表1 男女別 平均寿命と健康寿命

出典:厚生労働省:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料

 

 次に、図表2から都道府県別に、男性の健康寿命の変遷をみると、山梨県は平成11年で1位[3]、平成22年には5位、平成25年、平成28年は1位となるなど、常に上位に位置している。
 また静岡県も平成11年で3位、平成22年で2位、平成25年は3位、平成28年は6位と常に上位に位置している。
 この順位は年度により変動しているようである。例えば平成11年以降で、常に上位10位以内に位置しているのは山梨県、静岡県のみであり、平成22年からでみても、山梨県、静岡県、福井県、石川県の4県となっている。平成11年に7位であった秋田県は、平成28年では47位と全国最下位、同9位であった徳島県は45位となっているなど順位の変動も大きい。
 女性をみると、山梨県は、平成11年で2位、平成25年に1位、平成28年は3位と男性同様に上位に位置している。しかし、男性同様に、女性も順位変動が見られ、健康寿命上位10位については、平成11年から継続してランクインしている県は茨城県の1県のみである。
 また、下位10県をみても変動がみられ、男性では高知県が平成11年度からランクインする唯一の県となっており、範囲を平成22年からと拡大しても大阪府のみである。
 女性についてみると、平成11年からみると、ランクインしている県はなく、範囲を平成22年からに拡大すると、東京都、広島県、滋賀県、徳島県の4県となっている。
 このように、健康寿命は、都道府県でのランキング入れ替わりがある中で、山梨県は男女とも安定的に上位に位置している県であることがわかる。

図表2 健康寿命の推移

※平成22年の山梨県女性の健康寿命は、全国12位となっている。

出典:平成11年山梨県「健康寿命実態調査報告書」(平成16年3月)
平成22年、25年、厚生労働省 健康日本21「健康寿命の都道府県格差の縮小について」資料2
平成28年は厚生労働省 第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料

 次に、図表3から都道府県別の平均寿命[4]の変遷をみると、男女ともに、ランキングは固定されている傾向にあることがわかる。平成17年から平成27年にかけて継続してランクインしている県が、男性では長野県、滋賀県、福井県など7府県、女性も長野県、沖縄県、島根県など7県となっている。また、下位10県も継続してランクインしている県が多く、男性では岩手県、秋田県、青森県が10年間下位3県となるなど、5県が常にランクインしている。また、女性では、下位2県の青森県、栃木県をはじめ、実に8府県がこの10年間、常に下位10県にランクインしていることがわかる。
 これら平均寿命については報道されることが多く、長野県、沖縄県、滋賀県等が長寿県とされる一方で、青森県、秋田県、岩手県等が短命県として認識されていることについて異存はなかろう。
 しかし、平均寿命が長いと健康寿命が長いというわけでもないようである。平成28年の健康寿命の上位10県と、平成27年の平均寿命の上位10県を比較すると、両方にランクインしている県は、男性では愛知県(健康寿命3位、平均寿命8位)、福井県(健康寿命10位、平均寿命6位)の2県となっており、女性では島根県(健康寿命5位、平均寿命3位)、沖縄県(健康寿命10位、平均寿命7位)、富山県(健康寿命4位、平均寿命8位)となっている。女性でいうと、平均寿命が10位の広島県は、健康寿命では最下位の47位となっているなど、平均寿命の長さがそのまま健康寿命の長さとはなっていない。
 このように健康寿命は、平均寿命と比較し、男女とも調査年による変化が大きくなっている。また、都道府県別のランキングからみると、平均寿命が長いからといって、健康寿命も長い傾向があるわけではない。

 図表3 平均寿命の推移

出典:厚生労働省 第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料

3 健康寿命が長い要因についての考察

 前章までに、健康寿命と平均寿命の関係や、山梨県がこの20年ほどの間、健康寿命が長いことについて明らかになった。この要因[5]はどこにあるのであろうか。
 図表4は、健康寿命の3ヵ年(平成22年、平成25年、平成28年)の平均値を都道府県別にランキング付けしたものである。

図表4 健康寿命の都道府県ランキング(平均)

出典:厚生労働省:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料より著者作成

 健康寿命は、年度によりランキングの変動は激しいものの、男女とも山梨県がトップであり、男性では愛知県、静岡県、女性では静岡県、愛知県と続く。男女とも、これら3県が健康長寿県となっている。
 3県に共通する事項について、瞬時に思い浮かぶものは何であろうか。人それぞれにあるのではなかろうか。そこで、健康寿命が長い県における要因について、いつくかの項目を挙げ、スピアマン順位相関分析[6]を行うことで相関関係を明らかにしていきたい。

 まず、高齢者の居住形態を項目に挙げる。これは、独居老人の場合は、一人で生活の全てを行うことになり、手助けが必要となった場合は、何らかの介助、介護を受ける必要が発生する。また、独居老人の割合が高いほど、人との接点や食事等の面で、子供や孫といった家族で生活する居住形態の方とは異なり、それが健康寿命に影響するのではないかという点から項目に挙げた。また、独居老人、高齢者夫婦世帯で何らかの介助・介護について必要となるものが、三世代同居では軽減されるのではないか、また日々の生活で人と接する機会があることが影響するのではないかという理由から選定した。
 結果は、女性について、独居老人である率が下がると、健康順位の順位が上がるという若干の相関関係がみられた。
 次に高齢者の就業者割合、農作業についてみてみる。
 これは、いつまでも元気で社会と接することや農作業等の適度な運動が健康寿命に影響しているのではないかという理由から選定した。
 なお、就業者数については、男性の方が就業している割合が高いとの想定から、男性について明らかにした。結果は0.37となっており、若干の相関関係がみられる。
 農作業については、農業就業人口をもとに算出した。男性0.22、女性0.16となっており、相関関係はみられない。
 次いで、健康であるためには食生活が影響しているのではないかという理由から、野菜摂取量、マグロ、あさりの消費量、食塩の摂取量を選定した。なお、マグロ、あさりの消費量については、山梨県が全国トップレベルであるため選定している。

図表5 スピアマン順位相関分析結果

 これをみると、野菜摂取量については男性0.32、女性0.45と若干の相関関係がみられた。またマグロの消費についても、女性0.42と若干の相関関係がみられた。なお、健康に影響するといわれる食塩摂取量については、男性、女性とも相関関係はみられない。
 次いで、健康全般と健康寿命について、何からの影響があるのではないかという理由から、肥満率、喫煙率、糖尿病、スポーツ活動について選定した。
 結果としては、全ての項目で0.3以下となっており、相関関係はみられない。
 以上、いつくかの項目を挙げて相関関係を明らかにした。野菜摂取やマグロ消費、居住形態、就業で若干の相関関係がみられたが、健康寿命の順位と大きく関係している項目は見当たらない。やはり健康寿命には、複数の要因が関係していることが想定される。
 山梨県、愛知県、静岡県とも天候(日照時間)が良く、山梨県では無尽文化[7]が残り、愛知県では喫茶店文化がある。静岡県もお茶の生産量日本一を誇り、お茶の消費も多く、おそらく高齢者同士の交流が盛んなのではなかろうか。
 交流という項目については、統計上のデータが無いため、相関関係を明らかにすることができないが、これら3県では、交流が高齢者のひきこもりを防ぎ、外部との接点を通じた適度な緊張感を持ち、ストレスの発散機会を持つことで、健康寿命が長いという要因も想定できる。
 3県に共通して考えられる要因として、外部との交流というキーワードは見逃せない。

4 今後にむけて

 ここまで、健康寿命と平均寿命の変遷と都道府県ランキングによる特徴、健康寿命が長い要因について述べてきた。しかし、今回の個別項目を挙げての単純な相関分析では、何が直接的に影響しているのか、十分に解明はできなかった。今後は、重回帰分析等をもちいて、それぞれの項目を組み合わせることで、複数の要因分析を試み、再度健康寿命が長い要因についての分析を進める予定である。


[1]厚生労働省:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料を参照した。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000196943.html

[2]平均寿命とは、0歳時の平均余命のことである。男女別にみた年齢別死亡率が将来もそのまま続くと仮定し、各年齢に達した人たちが、その後平均して何年生きられるかを示したものを平均余命といっており、平均寿命とは、つまり0歳時の平均余命のことを指している。

[3] 平成11年は、平成22年、平成25年の公表の形式ではなく、65歳以降85歳までの5歳区分による平均自立期間の平均で順位付けしているため、都道府県名のみとする。

[4].平成17年、平成22年、平成27年の比較となっており、健康寿命で使用した年次とは異なっているが、変遷の傾向をみるためであり、情報として公開されている年次を使用した。

[5]結果の概要については、弊財団ニュースレター平成29428日発行のVol.225-2を参照のこと 

[6] スピアマンの順位相関係数(じゅんいそうかんけいすう)は統計学において順位データから求められる相関の指標である。

[7] これらの研究については、山梨県ホームページに明らかにされている。http://www.pref.yamanashi.jp/koucho/radio/radio110603.html