存在に「ありがとう」


毎日新聞No.515 【平成30年5月25日発行】

 母の日に、2人の息子がプレゼントをくれた。中学生の長男は照れ隠しなのか、ペンケースを「はい」とぶっきらぼうに、小学生の二男は画用紙で作った「肩もみ券」を得意気に-。
 私の使っている茶色の革のペンケースは独身時代からの年代モノ。ファスナー部分は壊れ、長男が幼いころボールペンで落書きした線がたくさん刻まれていたのだが、それがまた愛おしく、なかなか新しいものを買えずにいた。長男は自分の落書きを覚えていないが、くたびれたペンケースが気になっていたのだろう。
 二男の手作り肩もみ券は、私があちこち痛い、と言っているのを聞いていたのか、「毎日使えるよ。1年間使えるよ」とたくさん用意してあった。以来、毎日のように「今日、券使う?」とマッサージの腕前を披露してくれている。

 母の日といえば、近年恒例となっているのがアメリカ・メジャーリーグのいわゆる「ピンク・デー」だ。2006年から取り入れられたもので、各球団がバットやグローブ、ユニフォームなどをピンクにして試合に臨む。球場に訪れる観客も多くがピンク色の洋服や帽子を身に着けて観戦する。
 日本でもプロ野球の福岡ソフトバンクホークスが取り入れているほか、今年は六大学野球の公式戦でも、母の日となった5月13日に選手や審判がピンクのリストバンドを着けて試合に臨み、スコアボードにもピンク色の文字がお目見えした。
 日本とアメリカの取り組みは単なる母の日のイベントを超え、乳がん撲滅、検診の早期受診の呼びかけと連動されている。アメリカではまた、選手らのピンクグッズが後日、チャリティオークションにかけられ、全額が乳がん撲滅のために取り組むNPO団体に寄付されるという。
 私の2人の子ども達は子どもながらに、母の私が「必要としているもの」を懸命に考えてプレゼントをしてくれた。日本やアメリカの球界では、母のみならず全ての女性のためのイベントになっている。程度の違いこそあれ、どちらも人に寄り添った行為に心が温かくなる。「何かしてくれたから感謝する」のではなく、「いてくれてありがとう」と存在そのものを受容してくれているように感じるからだ。

 さて、もうすぐ父の日。子供たちの想いを見守るとともに、世の中の「お父さん」の存在を尊びながら過ごしたい。

(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒