Vol.238-1 ソフトウェア業という職業


 株式会社シンク情報システム 代表取締役 高山 尚文

はじめに

 私は、山梨大学在学中にITベンチャーの起業を目指し、大学院修了後、流通業界の知識習得のため山梨県内のチェーンストアに5年間の期限付きで採用していただきました。今考えると、面接の際に将来起業したいという話をしたにもかかわらず、採用していただいたことに大変感謝しております。
 その後退職し、1992年にITベンチャーとして起業しました。現在27期を迎え、今更ですが、ITを取り巻く技術革新や、周辺国の技術進歩のスピードに圧倒されています。
 今回のコラムでは、「BCP/事業継続計画」や「グローバリゼーション」などのキーワードに追われながら、迷走しつつ奮闘している地方のIT企業の取り組みをご紹介させていただきます。

社会貢献というキーワード

 経営者の集まりで、「経営者にとって企業とは?」とか「企業にとって最も大切なことは?」などをテーマとして、グループディスカッションなどを行う場面がしばしばあります。
 私が27年前にベンチャーとして、2人でソフトウェア会社を起業した際には、その答えは単純に「面白い場所!」そして「何かできる。楽しむこと!」と答えていたでしょう。恥ずかしいことですが、設立後10年間くらいは、明確な企業理念・使命が描けずにいました。そして、少しずつお客様や一緒に働く仲間が増え始めたころに、多くの企業で盛り込まれている「社会貢献」というキーワードの意味が分かり始め、今は、企業が必要とされて存続することが使命であり社会貢献だと考えています。同時に、10年、20年と継続的に「必要」とされるためには、と考えると、「ステークホルダー」に対して、「何が必要とされ」、「何ができるか」、「何をしなければならないか」という大きな宿題(問1)が出てきました。

IT企業とは

 「何をしている会社ですか?」

 名刺交換の場面のはじめのフレーズです。私は迷いもなく「IT企業です」と答えます。そう答えると概ね職種が相手に伝わります。
 よく耳にするIT企業の多くは、日本標準産業分類の上では、大分類G・情報通信業/中分類39・情報サービス業に分類されます。その中でも弊社のようなソフトウェアの開発を行う企業は、小分類391・ソフトウェア業に属します。
 ところで、皆さんの会社には情報システム部や電算室、技術部の中のシステム部がありませんか?社内システムの開発や、製品に組み込むためのソフトウェアの開発などをしていませんか?パッケージソフトやゲームソフトを開発しているIT企業は、ソフトウェアそのものが量産製品ですが、受託開発ソフトウェア業は、コンサルタントと同じように時間給の付加価値を対価にしています。

 「どんな仕事をしているんですか?」

 異業種などの会食などで、はじめに聞かれる質問です。私はいつも通り「システムエンジニアです」と答えていました。そう答えると、「IT企業ですね?」というやり取りから始まります。多くの人は、「IT技術者はIT企業でソフトウェアを開発している」と考えています。そして国内では実態として間違いではありません。しかしながら、海外の事情は少々違います。

 日本(中国や韓国も同様)では、IT技術者の7割以上が分類391の「ソフトウェア業」に所属し、欧米では半数以上がIT企業以外に所属しています。

 

 この傾向は、就職時にIT技術者は「IT企業でソフトウェアを作る」という思い込みから来ているのではないか、求人する他産業では、「IT技術者はいらない、ソフトウェアは買うものだ」と思い込んでいるからなのではないかと考えています。

 改めて産業を考える上で象徴的な話題があります。
 最近、静かなハイブリッド車が増えて、狭い道を歩いていて「ひやっ!」とすることがあります。
 私は今まで、自動車産業=エンジン産業くらいに思っていたのですが、今やエンジン性能よりバッテリーや電気モーターの性能が注目され、近い将来、自動車は電機産業に分類されるかもしれない勢いです。
 同時に注目しなければならないのが、これらを制御しているのがソフトウェアであることです。自動車用のソフトウェアは、自動車本体を動作させるためのモーターやバッテリーの充放電、ステアリングの制御、運転を支援するためのナビシステムや空調、安全制御に至るまで、最終的には全自動の移動手段を目指しています。つまりソフトウェア産業の定義は、テクノロジーの進化と社会的な要求に応えるために変化し、ソフトウェアの適用範囲はますます広がっています。その結果、「ソフトウェア業」という産業は、今後集約して巨大化するか、各産業に吸収・分散されるのではないかと考えています。そうするとここで、「ソフトウェア業」とはどんな産業なんだろうという新しい宿題(問2)が出てきました。

宿題を解く前に

 弊社では、BCP(事業継続計画)において、「次の10年、さらに20年に対応できる人材と組織づくり」を目指して、3つのテーマに取り組んでいます。

1.経営者の創出

企業経営に必要な先進性と、グローバルな俯瞰能力を持った人材の育成。
長期的視野で思考できる人材の育成。

2.先進技術者の創出

独創性と高度な技術、フェールセーフ能力を持った人材の育成。

3.グローバル人材の創出

各業界のマーケットをグローバルに俯瞰し、ワールドワイドでサービスを創出できる人材の育成。

 私は、経営者(employer)と従業員(employee)の考え方で大きく異なることは、「時間・スパン」の長さだと考えています。仕事を遂行する上でスケジュールは重要な要素ですが、短期的なスケジュールではなく、長期的な計画の立案能力が経営者には問われます。この感覚を訓練・育成するためには、経営者をやってみるのがもっとも近道だと考えています。
 現在、弊社には4社のグループ企業があります。

 

 いずれの会社も、代表取締役と取締役が存在し、各社得意な分野で経営しています。

IoTと農業事業

 企業活動において最も早く浸透したICTの適用分野は、事務分野です。

 2008年頃、日本では「ユビキタス」というキーワードが氾濫しました。「いつでも・どこでも・あらゆるものがネットワークで接続される」というモデルですが、当時の通信環境やインフラのコスト面で、デジタルサイネージ程度にしか普及しませんでした。現在「ユビキタス」というキーワードは影を潜め、「IoT」というキーワードに代わり、その活用に向けて世界的な盛り上がりを見せています。

 IoTを構成する要素は、エッジデバイスとセンサー、ネットワーク環境、サービスアプリケーションで構成されます。そこで、近年IoTの活用先としてフォーカスされている分野が、第一次産業(農林水産業)です。特に農業分野においては、センサーネットワークによる農・畜産業支援に向け、多くのICT企業が新規参入しています。一般的に営業規模を拡大するためには、既存製品・サービスのマーケットシェアを拡大するか、新たな商品・サービスによるマーケットの開拓かの二者択一しかありません。弊社では後者を選択するために、2010年に農業分野に参入し、2017年に農業生産法人(ドリームファーム株式会社)として法人化しました。

株式会社ドリームファームの畑にて

 当初は農業で自立(農業のノウハウ獲得と課題抽出)するために、農産物のネット販売による直販モデルでスタートし、商品の差別化を目指し新品種の生産や加工農産物の開発を行いました。その後、圃場センサーによる農業支援システムの開発のためのデータ収集や、農産物の販路拡大、農産物加工品のパイロット販売によるマーケティングのために直営レストランをオープンしました。

 事業にとって「スピード」は最重要キーワードです。新しい取り組みを行う際には、協議会やコンソーシアムというスタイルがあります。
 コンソーシアムは広く団体を巻き込んで意見交換する場合や、FS(事業化可能性調査)などの上流工程では有効ですが、「スピード」感が足りません。農産物のビジネスサイクル(=製造業における1バケット)は1年で、圃場センサーを活用したビジネスモデルの商品化において、今年データが取れず来年までデータが収集できないということは、商品開発がそっくり1年遅れることを意味します。農業法人設立の背景には「スピード」感が大きく影響しています。

正しい知識と経験

 弊社では、2009年より留学生(県内の大学生)への独自の奨学金支援を実施しています。
 近年のアジアの国々の発展は目覚ましく、少子高齢化の人口問題をかかえる我が国からすれば、海外との連携(マーケット&人材)は事業の継続と発展には欠かせないと考えています。島国の日本では、海外の文化やライフスタイル、社会情勢などの正確な情報を得るのは意外と難しく、ネットやテレビや雑誌などの第三者の情報はあくまでも参考情報でしかありません。

インドネシア大学留学生のインターンシップ

 長期のインターンシップによる外国人との接点は、単なる採用目的ではなく、海外でのビジネスの可能性や、日本国内で当たり前のように享受しているサービスや製品の見方を変えることで見えてくる新たなサービスの可能性を考える近道になります。また、留学生の現地所属大学の先生や学生さんとのテレビ会議(Skype)による意見交換なども、将来の海外進出にとって貴重な人脈になると信じています。

宿題の答え

 問1.「必要」とされるためには、「何が必要とされ」、「何ができるか」、「何をしなければならないか」。
 問2.「ソフトウェア業」とはどんな産業か。

 まだこの宿題に対する明確な答えは出ていませんが、少なくとも、まずは現場を知ることで正しい知識を持つこと、その中で自分にできることは何かを考え、スピード感をもって一歩踏み出すことで、様々な課題を早く見つけること、そしてその課題を解決するための重要な道具の一つが「ソフトウェア」かもしれないと感じています。同時に、今後「ソフトウェア業」がどのように変化し、どのように社会貢献できるかひそかに楽しんでいます。