Vol.240-1 事業承継問題の最前線から
山梨県事業引継ぎ支援センター 統括責任者 深澤 克己
1.はじめに
昨年、新聞紙上に「大廃業時代の到来」というセンセーショナルな記事が掲載され、社会的問題として一般に認識されるようになったのが「事業承継問題」です。
「事業承継問題」とは、後継者がいない企業は早めに対策を取らないと廃業に至ることが多く、廃業によって、雇用や生産能力が失われることです。中小企業庁は「後継者不在による廃業は、今後10年間で約127万社に達することが予想され、現状を放置すれば、2025年頃までの10年間で累計約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」として「今後10年間集中的な取り組み」を行うとしています。
2.山梨県事業承継問題の現状(帝国データバンク資料、2018版による)
- 県内経営者の平均年齢は60.2歳(全国平均を0.7歳上回り全国11番目)
- 県内経営者の後継者不在率69.6%(全国平均を3.1ポイント上回り全国12番目)
- 県内経営者の交代率は3.84%(全国平均を0.13ポイント下回り全国25番目)
- 県内の「休廃業・解散率」は2.126%(全国平均を0.459ポイント上回り全国4番目)
- 県内中小企業・小規模事業者はこの5年間(2009~2014)で4,070社減少しています(2017中小企業白書)。業績が悪くないにも関わらず後継者不在により、廃業に至る企業が含まれていることから、早期・計画的な事業承継の取組と、M&A等による事業引継ぎが求められます。
3.山梨県事業引継ぎ支援センターについて
「事業承継問題」は、中小企業白書等で従来から指摘をされていましたので、平成20年に「経営承継円滑化法」が施行され対策が講じられてきました。また、平成23年7月、全国47都道府県に「事業引継ぎ相談窓口」が設置され、山梨県でも認定支援機関であるやまなし産業支援機構内に設置されました。その後、順次、体制の拡充を図り、平成29年4月に現在の「山梨県事業引継ぎ支援センター」となりました。
当センターの役割は「中小企業の持つ貴重な経営資源の喪失防止を目的に、事業承継に関する様々な問題解決を支援し、山梨県経済の活性化・発展に貢献すること」です。
具体的には、次の事業等を行っています。
- 事業承継全般の相談
後継者不在などで事業の継続に悩みを抱える中小企業者などに、事業承継・事業引継ぎに関する情報提供やアドバイスを行います。 - 専門家の紹介
円滑な事業承継を実現するため、専門家の紹介などを行います。 - 事業引継ぎ(M&A)の支援
事業引継ぎの可能性があり、M&Aにて事業承継を希望される場合には、仲介機関の紹介や、専門家と連携し成約に向けた支援を行います。 - セミナー・研修会の開催
事業承継対策の重要性と支援センター業務の周知のために、中小企業者や金融機関・専門家向けのセミナー・研修会を開催します。 - 問題意識の醸成
商工団体、金融機関、行政などと連携し、事業承継問題を抱える中小企業者に問題の重要性・早期取組の必要性を認識していただきます。
4.相談案件の流れ
事業者が事業承継の悩みを相談する場合、当センターで直接受け付けるほか、事業者が普段取引をしている商工団体や金融機関の窓口・担当者に協力していただき、受付を行っています。
受付後、改めて面談を行い、後継者がいる場合は、円滑な承継に向けてアドバイス・情報提供をさせていただきますが、問題が多岐にわたることから、税理士、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士などにも協力をお願いしています。
また、後継者がいない場合には、プロフェッショナル人材拠点(やまなし産業支援機構内)、M&A専門民間機関などと連携し、後継者となる候補者の発掘、外部の承継候補企業の選定などを行っています。
当センターは少人数での体制のため、多くの専門家と連携して対応を行っています。
5.相談内容の現状
当センターには平成23年の開設以来様々な相談が寄せられています。累計の相談件数は平成30年3月末日現在で337件となります。内訳は譲渡(売り)76件、譲受(買い)41件、その他(親族内承継・従業員承継等)220件です。
譲渡(売り)の相談内容 |
後継者不在のため、第三者に譲渡したい |
譲受(買い)の相談内容 |
後継者不在企業の譲受を検討している、アドバイスが欲しい |
その他(親族内承継・従業員承継等) |
後継候補者に適性があるか知りたい |
また、業種別でみますと、製造業が40%、卸・小売業が17%、建設業が16%、サービス業が16%、その他が11%となっています。
6.成約の事例について
親族内承継
|
製造業が長男に事業承継1件、食品製造業が長男に事業承継1件 |
従業員承継 |
従業員に株式譲渡1件、役員に事業引継ぎ2件 |
M&A |
製造業が同業者に事業譲渡1件、食品小売業が同業者に事業譲渡1件、製造業が協力工場を子会社化1件、卸売業が取引先社員に事業引継ぎ1件 |
7.事業承継問題の解決のための課題
相談件数・内容については、上記5に記載のとおりです。いろんな相談が寄せられていますが、当センターの場合、多くは、金融機関、商工会、商工会議所等を通じて寄せられています。これは、普段から付き合いがあり、面識のある人に相談をしていることが窺えます。しかし、県内中小企業約32千社(平成26年中小企業白書)を勘案しますと非常に少ない相談件数と言えます。
事業承継問題の相談相手に関するアンケート(法政大学院中小企業研究所・エヌエヌ生命保険)によりますと、事業承継問題の相談相手は「特に相談相手はいない」という回答が36.5%となっており多くの企業の事業承継問題は水面下に隠れている現状を示しています。事業承継問題は中小企業が必ず遭遇する問題ですが、相続問題等も含み非常にセンシティブな面もあります。加えて、喫緊の課題ではないと考えてどうしても先送りにしてしまう傾向があります。
当センターはその第一の相談相手となるべく設置をされていますので、事業者の方に当センターの存在を知っていただくことが第一と考えています。そこで、セミナーの開催、ポスターの作成、フリーペーパーの配布、事業者の方へのDMの発送、新聞広告、ラジオCM等を駆使してPRに務めている現状です。
当センターの事業は、経済産業省の委託事業ですので、相談無料・秘密厳守・安心中立で運営されています。是非、お気軽に相談してください。
8.終わりに
平成20年5月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立し、事業承継税制、民法の特例・金融支援等の諸施策が実施され、親族内事業承継が円滑に行われる土壌が整備されています。
また、後継者が不在の場合は、M&A(事業引継ぎ)が解決策となります。M&Aというとどうしても「企業乗っ取り」とか「ハゲタカファンド」等のマイナスイメージがありましたが、現在では、中小企業も積極的に対応をしています。特に、「事業の多角化のため」・「技術者・有資格者等人材確保のため」・「許認可事業獲得のため」等の買いニーズも旺盛であり、このニーズに後継者不在の企業が応える事例が増えています。
事業承継には5~10年の期間がかかります。まだ先のことと先送りせず、すぐに取り組みを始めましょう。