Vol.241-1 ISO9001-2015年改正を業務成果に結びつける


(株)業務の質評価センター 代表取締役 中泉 純

 ISO9001が2015年に改正され、それに合わせて認証を取っている企業のマネジメントシステムの改定もすすんでいるが、果たしてその運用はうまくいっているのだろうか。

1.ISO9001認証取得企業の現状

 ISO9001認証取得企業の現状として、以下のような事柄がよく聞かれる。

  1. 導入の際に外部コンサルタントに丸投げして品質マニュアルを作成してもらったが、ISOの要求事項が項番どおりそのまま明記されていて、会社の実務と乖離したシステムになっている。ISOと業務が一体化されていないのでISO認証取得が本業に役立っているのか疑問だ。
  2. ISO推進事務局以外の誰も(最近の傾向では、事務局の人たちも)ISOの本質を理解しておらず、社員は全体的にやらされ感が強く、業務の改善や事業業績向上に役立っていない。ISOISOで仕事とは別だ。
  3. 内部監査では本質的な指摘ができず、品質目標も達成できて当たり前の目標を掲げてお茶を濁している。マネジメントレビューでも毎年同じような内容を繰り返している。ISO業務は形骸化していて、経営に貢献するという視点での活動(有効性)が欠如している。
  4. 経営者は何も関与せず、管理責任者は審査月が近づくと、またISOかと気が重くなるが、審査のために取り繕って維持活動をしており、審査当日に「重大な不適合」を指摘されなければよく、年1回の審査さえパスすれば問題ない。
  5. 審査登録機関の外部審査員の指摘は認証取得以来、ずっと文書や記録ばかりに審査時間を費やしていて、現場を見ることも少なく、現場での問題点をマネジメントシステムに反映させられない。

 その反面、少数であるが次のように成果を上げている企業(組織)もある。

  1. 審査のためでなく、自社のレベルアップのための「継続的改善」ができていて「不良撲滅」「顧客満足向上」「顧客拡大」に繋げている。
  2. ISO認証取得後も「適切な目的」「具体的目標」を持って、事業活動と一体化させている。同一業界でダントツを目指している。
  3. パートから経営者まで、みんながISOに関わる体制ができ上がった。
  4. ムダな仕事(不良のムダな手直し、要因追究や是正報告書作成、納品先の打ち合わせ・監査)が減って仕事がスムーズに流れるようになり、残業も減った。
  5. 日常業務に沿った、誰もが使いやすいマニュアルや作業手順書ができた。以前は担当者が退職してしまうとノウハウがそっくりなくなり、新たな教育ばかりしていたが、新人教育や職人の技術継承にも活用でき、ISOの基本である「業務の標準化」ができた。

 ISO9001認証取得に関する、このような差はどこからくるのであろうか。会社の歴史、風土の違い?トップの考え方?大手企業で人的・経済的資源や時間が豊富だから?
 決してそうではなくて、成果を上げているほとんどの企業では、経営者や管理責任者・社員が本気で改善に取り組み、審査を維持するだけのISOマネジメントシステムではなく、使いやすい・作りやすい・続けやすい実際に役立つシステムに取り組んでいるからである。

2.ISO9001-2015年版改正の背景と重要概念

 ISOと実際の仕事が乖離している現状は、日本企業だけでなく世界中で同じような実情にあることが報告されている。そのことをISO本部・事務局は十分認識していて、今回の改正の背景として、

  1. 事業活動とISO活動が乖離している。
  2. 認証取得企業での不祥事や品質問題などISO認証の有効性への疑問がある。

2点を重視し、それらを受けて次の3点を挙げ、今回の改正の重要概念として取り上げている。

  1. プロセスアプローチ
  2. PDCAサイクル
  3. リスクに基づく考え方

 従来の要求事項では「決められたことが守られているか」→「実施されているか」→「実施されていればよい」→結果として手順重視、文書/記録重視としていたが、今回の改正では「望ましい結果が出ているか」そのための「プロセス重視」「結果重視」「PDCAサイクルが回っているか」が重要目的に変更されている。
 ただ、残念ながら多くの企業での2015年版切り替えの指摘事項を拝見したが、新しく追加されたリスクマネジメントを少し加えたぐらいで、ほとんど従来どおりの文書/記録重視の指摘のままであり、今回の規格改正の意図を審査登録機関も審査員も十分理解しているとは思えないばかりか、審査時の指摘にもほとんど反映されていない。
 読者諸氏の所属されている組織の2015年改正の審査結果には、今回の規格改正意図が十分反映された指摘になっているだろうか。反映されていないとすれば、2015年版に改正した意味が、まったくないといえる。

3.経営に役立つISOマネジメントシステムとは

 経営に役立つISOマネジメントシステムとは何だろうか。年1回の審査をパスするだけでよいと考えている企業(組織)には必要ないかもしれないが、上記の成果を上げている企業では自分たちはISOマネジメントシステムを役に立つツールとして、会社をこうしたいという願望、つまり「目的」を明確にしている。

  1. 売り上げを確保し、伸ばしたい。
  2. ライバルとの競争に勝ち残りたい。
  3. 付加価値のある商品を開発したい。
  4. コストダウンを実現したい。
  5. 顧客ニーズ向上に対応したい。
  6. 各社員の力量のレベルアップを図りたい。

といった目的を、各社ともISOマネジメントシステムの仕組みである、P(計画)→D(実施)→C(評価)→A(改善)のサイクルに落とし込んでいる。ISOの要求事項を満たすだけの仕組みではなく、課題を解決し、目的を達成する機能を強化した仕組みを構築している。

 ISO9001-2015年版4.1項の「組織及びその状況の理解」の本来の意味は、QMS[1]を経営の視点で考慮するということで、組織が目的とするものは何か(例:売上を伸ばす、顧客ニーズに対応する)

→それを実現するために必要なことは何か(例:専門知識を持つスタッフ育成)
→実現を阻んでいるのは何か(例:人材不足、教育不足、技術力が弱い、資金不足)
→現状を打破するために何をすべきか(例:計画的な人材育成、他社との技術協力、融資制度の活用)

を明確にし、「あるべき姿」を考え、「現状分析」を行い、明確な「行動指針」をとり、そのプロセス、結果を検証し、次の計画に組み入れることである。
 この4.1項では、あるべき姿に近づけていくためにPDCAサイクルを回し、改善に結びつけていくことが要求されている。
 反面、成果に結びつけていない企業では、確かにPDCAを回せという話はよく知っているが、実際どのようにすればPDCAが回るようになるのか、具体的には理解できていない。
 一番良いのは方針管理と日常管理を明確にして目的・目標に向かう方法で、成功している企業では、ほとんどの企業が何らかの形でこれを実践している。(図表1参照。内部監査では、このあるべき姿と現状の差を解決するために、何をしなければならないかを指摘しないとダメである。)

図表1 「方針管理」と「日常管理」

 成果を上げている多くの企業の内部監査の指摘事項では、書類や文書・記録が不備という項目ばかりではなく、中期計画に基づく年度目標を達成するために、目標と現状の差を問題ととらえ、この問題を解決するために、各部署では現状では何が必要か、何が不足しているのか、どうすれば達成できるのかを徹底的に指摘している事例がある。
 その結果をマネジメントレビューでも検討し、経営者が対策を立て実行している。

 また今回の規格改正に合わせて、品質マニュアルを廃止し、会社の実際の仕事の流れ(会社方針、全社目標、部門目標、各部署目標、各業務、担当部署等)を業務管理体系図(図表2参照)として作成し、その実際の業務の流れにISOの項番をばらして当てはめている企業では、仕事とISOが一体化して、経営者、管理者、社員にも喜ばれ、具体的成果を上げている。

図表2 業務管理体系図

 

 中には今回の改正を機に、仕事とISOマネジメントシステムを一体化させることができたので、毎月実施している役員会をマネジメントレビューと統合し、部課長会議を内部監査の報告と対策会議を兼ねるものと位置付けて、わざわざISOのためだけに行っていた作業を廃止した企業もある。
 その企業では、従来の役員会の議題に、9.3.2項マネジメントレビューへのインプットと9.3.3項マネジメントレビューからのアウトプットの項目を追加した結果、組織の戦略的方向性とも一致し、経営課題のモレがなくなったと感じているそうだ。実際の経営とISO9001を一体化させた成功例といえる。
 ただ、毎年高額な審査費用を負担し、忙しい時間を割いているのに、あまり経営にも、自分の仕事にも役立っていないのであれば、それこそノーベル平和賞受賞のマータイ氏でなくても「もったいない」のではないだろうか。
 このように、今回の規格改正の主旨に沿って、ISOを経営に役立つ方法に変更し、成功している企業に学ぶべきことは多い。

4.標準化の意義

 ここまで述べてきたように、ISOマネジメントシステムの基本は「業務の標準化」である。標準化の意義としてISOマネジメントシステムを下記のように定義付けていけば、維持・継続していくことが明確になると考える。

  1. 業務品質の向上、継続、継承と業務の効率化
  2. 教育、引き継ぎがしやすい→新人などの早期戦力化
  3. ノウハウの継承・蓄積→仕事のレベルが落ちにくい(変化があっても)
  4. 改善活動がしやすい→仕事の質の向上→業績向上

 目標達成能力を向上させるには、仕事のやり方を少しずつ改善していけばよい。そのためには改善のベースとなる標準が必要である。(図表3参照)

図表3 ビジネスのゴール

 標準は業務を行うための基本的ルールなので、本気で役立てようとすればISOマネジメントシステムは極めて有効な手段といえる。
 標準が何もない段階で、社員に個人の能力と経験だけで、ただただ頑張れ頑張れ、業績や仕事の質を向上しろ、といっても、なかなか達成されないが、改善された業務のやり方を全社標準として組み入れ、決めたら全員で必ず守る、できるようになったら、また少し高いレベルを目指す、ということを徹底して繰り返していけば少しずつ達成していける。
 改正されたISO9001を活用して(むしろ、ISOマネジメントシステムを維持しなければならないという大義名分にして)全社で無理なく実践している企業が増えている。

5.実質的な成果を生み出す工夫を

 今回の規格改正では「望ましい結果が出ているか」、そのための「プロセス重視」「結果重視」「PDCAサイクルが回っているか」に変更になったと述べたが、ISOマネジメントシステムを形式だけにせず、従来日本が実践してきたTQM[2]と融合させるのが最良と考えるが、現状では、これだけ品質データ改ざん等の品質不祥事が発生していても、各企業とも対岸の火事ととらえている感が強く、全社マネジメントの課題として認識されていない。
 今さら、誰かが声を大にして、社内でTQMを導入しよう、品質改善に取り組もうと発信しても、賛同されにくいのではないだろうか。
 その反面、多くの企業では、それほど役立っているとは思えないISO9001を返上するかというと、何となく継続・維持している。
 それなら、むしろ反対に、改正されたISO9001の本質を理解して、ISOマネジメントシステムをベースに日本の優れた品質管理の仕組み、ツールと融合させることにより、ISOマネジメントシステムを使いやすく実用性が高いものにしたほうがよい。
 ISOマネジメントシステムを使ってPDCAを回しながら、パフォーマンスを改善し、継続的に活用する方が容易である。
 そのためには、まず経営者・社員の意識改革が必要となる。
 ISOマネジメントシステムを何のために維持するのかを会社全体で考え、経営者から全社員の共通認識を広げていくことが重要である。ISO基準の品質保証を運用していくのは人である。人の意識がよい方向に向かわなければ、運用もうまくいくはずがない。
 まず、第一に取り組むのは、マネジメントレビューと内部監査の質的改革・レベルアップが必要である。
 内部監査は、従来のようなISOのためだけの文書・記録重視、手順重視を改め、事業に直結した結果重視、プロセス重視に役立つ指摘事項に変更する。
 年度実施計画を達成するためには、目標と現状との差が問題だと認識して、何が不足していて、どのような方法を用いれば達成するのかを内部監査員は徹底的に追及する必要がある。
 各社とも現在のチェックシートを改正して、年1回の定期審査に訪れる外部審査員では追及しきれない内部問題を指摘しなくてはならない。
 成果を上げている企業の中には、経営者が毎年内部監査開始前に、内部監査員を集め、当社の今年の年度目標は○○である。この目標を達成するためには、各職場では何が問題なのかを、徹底的に内部監査せよと説明している企業もあるし、なぜ達成できないのかを「なぜ・なぜ分析」をして真の要因を探り当てるようにすることを義務付けている企業もある。

 第二は、経営者がマネジメントシステムにおける経営方針の展開を明確にし、ISO活動と一体化すべきである。

  1. 中期経営計画により、経営課題と重点施策を明確にする。
  2. 年度経営計画により、年度経営方針・目標を展開する。
  3. 実施計画書により、部門目標・方策及び改善テーマを設定する。
  4. トップ診断により、経営方針の達成を確実にする。
  5. トップ診断結果から、方針管理の仕組みを改善する。

 あまり成果を上げていない企業(組織)でも、中期計画や年度目標は掲げているが、3,4,5の具体的展開ができていないので、結果としてPDCAが回らず、毎年PDPDだけの繰り返しとなっている事例が多い。このような企業を故赤尾洋二氏(元山梨大学教授)はプラン・プラン(Plan Plan)で堂々(Do Do)巡りしていると評したが、まさに言い得て妙である。
 内部監査の結果を受けて、マネジメントレビューでは年度目標を展開するのに阻害する要因は何かを検討し、確実に対策実施することが必要になる。従来のISOのためだけのマネジメントレビューでなく、経営方針の展開に基づきレビューすべきである。
 ISOマネジメントシステムによる品質保証活動を経営者・社員が一体となって、やり続ける必然性を見出すことができれば、品質保証活動を維持する意識も定着してくるのではないだろうか。

 第三は、審査登録機関に対して、2015年改正の主旨を反映した業務成果向上に結びつく審査・指摘をしてほしいと強く要望すべきである。審査登録機関がその要望に応えられないのであれば、審査能力の高い審査登録機関に変更することも考慮したほうがよい。
 本来は、事業は一つなのに、従来の経営とマネジメントシステムが乖離しているので、一つに統合することで品質経営を実現できると考える。
 上述した成果を上げている企業では、間違いなくこれらのマネジメントシステムが定着している。

 ここで、最後に、町の畳屋さんでISO9001の認証を取得し、業務成果に繋げている事例を紹介したい。畳業界はご存じのように、畳表生産量が平成17年の6,880千枚から平成27年には2,780千枚と60%も市場が減少している産業である(農林水産省調べ)。
 経営者の方も、町でよく見かける自宅の1階で作業している60歳代、70歳代の方が多く、後継者もいない方が多い。それでも畳産業の文化に落とし込んだ、モノマネでない品質マニュアルを作成して、ISO9001の認証を取得し、中国産に対抗する高品質の製品改善やコストダウン、不定形畳の開発、新JIS畳高規格作成等を達成して、顧客満足の向上を維持している。
 東日本大震災の後に、避難所になっている学校体育館の床板で暮らすお年寄を見てお気の毒と思い、ISO取得グループが中心となり自主的に何千枚もの畳を無償で贈り、被災者の方から感謝された活動に繋がっている。
 その活動は、現在では、九州北部豪雨災害地区も含めて、全国35の自治体と「5日間で5,000枚の約束」無償提供のプロジェクトを立ち上げている。全国の被災者の方々から送られてきた「体育館に畳を敷いてもらったお陰様で、心が安らいだ」「辛い避難所暮らしだが、豊かな気持ちになれた」等の感謝の手紙を多数見て、改めて自分たちの仕事への誇りと、日本人が畳により、生活・健康・人生を支えてきた関係を再認識されていた。
 これも、まず最初に、ISO9001認証取得目的を顧客満足度の向上と明確に決め、その後も満足度アップのための改善・維持活動を継続していることから、震災時に役立てることに展開した成果となった。
 その結果、改めて畳の良さが再認識され、被災経験者家屋だけでなく、全国でもフローリングの床の上に、一部畳を敷く家庭が増えてきている。
 60歳代、70歳代の畳職人さん個人でも、と言っては大変失礼だが、その方たちがISOマネジメントシステムをベースに改善や顧客満足向上に必死に取り組んで成果を上げていることは高く評価されるべきである。
 一般の会社組織で、できないはずはない。是非、各社・各自で工夫をこらして、継続的な改善による業績発展に繋げていただきたいと願わずにはいられない。

<著者職略歴>
財団法人日本規格協会 教育研修部長/出版事業部長/事業本部長/審査員評価登録センター(JRCA)上級経営者/理事/ISO9001審査員/日本工業規格(JIS)審査員
㈱スタンダード・ワークス 代表取締役、㈱業務の質評価センター 代表取締役

<所属学会>
日本品質管理学会、品質工学会


[1]「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」のこと。Quality Management Systemの略。

[2] 品質を経営の中心とする「総合的品質管理」のこと。Total Quality Managementの略。